先日のベルギーの連続テロで世の中が騒然となっていますが、テロの後に必ず出て来る政治家の「テロと戦う」、「ヨーロッパはもっと密接に協力し、情報交換をしていかなければいけない」などというお決まりの宣言に興味が湧くわけもありません。2004年のマドリッド、2005年のロンドン、2011年のオスロ、そして去年のパリ。その間にヨーロッパ警察及び諜報機関の情報交換・協力体制が改善されたかといえば、依然十分ではないと言わざるを得ません。イスラエル諜報相のジスラエル・カッツがブリュッセル連続テロの翌日、国営ラジオで「もし彼らがベルギーで彼らのチョコレートを食べ続け、楽しい生活を享受し、世界に向けて素晴らしい自由主義かつ民主主義者を標榜し、その際同国に住んでいるムスリムの一部がテロを準備していることに注意を払わなければ、対テロリストの戦いに勝つことなどできないだろう」とベルギーのテロ対策を馬鹿にしていましたが、馬鹿にされても仕方ないような不備があることも否めません。ヨーロッパ以外でもテロはあちこちで殆ど日常的に起きています。この場を借りて、全ての犠牲者の方のご冥福をお祈りいたします。
さて、テロに屈服せずに日常生活を送るのが今のヨーロッパ人の気概とも言えますが、明日は聖金曜日、ドイツ語ではKarfreitag(カールフライターク)で、復活祭の始まりです。イエス・キリストが復活したことを記念する祭日、ということですが、それにまつわる慣習はクリスマスなどと同様、本来キリスト教とは無関係なものが定着しています。中でも典型的なシンボルはウサギと卵です。
ドイツ語で復活祭はOstern(オースタン)と言いますが、これはゲルマン民族の豊穣の女神Eostre(エオストレ)のお祭りであるOstara(オースタラ)が語源です。英語のイースター(Easter)もその変形です。つまり、復活祭の名称自体が非キリスト教的なわけです。そして、卵もウサギも古代から豊穣と生命・再生のシンボルでした。キリスト教会は布教の一環として土着の宗教のシンボルを利用し、民衆にキリストの教えを受け入れやすいものにしてきました。復活祭に関しても卵とウサギをキリストの復活に重ね合わせたわけです。
ドイツの家庭では現在、ウサギが卵に色を付けて庭に隠したことになっており、子どもたちが隠された卵を探し回ります。なぜ、ただの豊穣と生命・再生のシンボルだったウサギがこんな役割を負うことになったのでしょうか?
ウサギに限らず、動物が卵を隠すという迷信は既に16世紀ころに存在していました。チロル地方では雌鶏、スイスではカッコウ、ドイツの中央部ともいえるチューリンゲンではコウノトリ、その他のドイツ各地ではキツネや雄鶏が卵を隠すとされていました。ただ、イースター前の季節にはウサギが空腹で、本来なら人を避ける動物なのに、繁殖期ということもあって、人家の庭によく姿を現す現象と相まって、1800年ころには「卵を隠すのはウサギ」というのが定番となったようです。
同じころに主にプロテスタント教徒の間で、卵探しが教会とは関係のない家庭の祭日行事となっていました。これは、「カトリック教会による色付き卵の奉献式がイースター信仰の行き過ぎである」というプロテスタント教会の見解から、教会抜きの行事として始まったようです。19世紀には『家庭での卵探し』がカトリック教徒の間にもしっかりと根付いていました。その頃には卵とウサギが切っても切れない関係として定着してしまっていたのです。ウサギにとってはとんだ濡れ衣ですね
面白いことに、ドイツにはイースターウサギ郵便局(Osterhasenpostamt)なるものが3か所存在します。そこにイースターに間に合うように手紙を書くと、イースターウサギから返事がもらえるんだそうです。住所は以下の通り。
Hanni Hase, Am Waldrand 12, 27404 Ostereistedt(ニーダーザクセン州)
Olli Osterhase, Oberlausitzer Osterhasenpostamt, OT Eibau, Hauptstraße 214a, 02739 Kottmar(ザクセン州)
Osterhase, Siedlungsstraße 2, 06295 Osterhausen (ザクセン・アンハルト州)
さすがにサンタクロース郵便局よりは少ないですが、おちゃめな子供向け事業です。
参照記事:
ディー・プレッセ、2016.03.23付けの記事「イスラエル:ベルギー人はチョコレートを食べてないでテロ対策を講ずるべき」
ドイツ公営放送ARD、プラネット・ヴィッセン、2014.04.17最終更新「イースターウサギ」
ウィキペディア・ドイツ語版、「イースターウサギ」