徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:池井戸潤著、『七つの会議』(集英社文庫)

2016年03月25日 | 書評ー小説:作者ア行

池井戸潤著『七つの会議』がついに文庫化されたので、発売と同時に注文し、今週届きました。池井戸潤作品は紙書籍で集めていて、送料や場所の関係で文庫で買うことにしているので、話題作が文庫化されるまで結構じれったい思いで我慢してたりします。

『七つの会議』では中小企業『東京建電』の不正隠蔽がテーマです。池井戸氏がよく取り上げる会社の隠蔽体質ですが、この作品では各章ごとに活躍する人物が異なり、独立性が高くなっていますが、全体として壮大なドラマを形成し、徐々に謎が暴かれていく構成です。この構成自体は彼の他の作品『シャイロックの子どもたち』とそっくりです。

それはともかく、会社というものは会議なしには成り立ちません。理由や目的は様々ですが、とにかく会議は会社の日常。小説の中でも様々な会議が舞台となり、参加者の出世欲、保身、敵愾心、倫理観などが錯綜し、立体的に仕事風景が語られ、そこここで「働くことの意義」が問われています。ノルマ未達が許されない会社の方針。景気の良し悪しや業界状況無視のノルマ貼り。脱落するのか不正してノルマ達成をするのか、という二者択一まで追い詰められてしまう会社人。日本の会社で働く人たちの中にはこうした理不尽な会社環境に「あるある」と共感する人が多いのではないでしょうか。

池井戸小説では犯罪や不正にかかわる、あるいは巻き込まれる人は多くても、真の意味での悪人はごくごく少数に限られています。それ以外は皆それぞれに事情があり、葛藤があって苦しみ悩んで、その末に犯罪に手を染めてしまっています。恐らく現実の世界でもそれが当てはまるのではないでしょうか。現実と違う点は、池井戸ワールドには必ず「正しいこと」をしようとする正義の番人のような人がいることでしょう。必ずしも〈半沢直樹〉のような派手なヒーローではありませんが、地味だけど、内部告発をしてみたり。

この作品も「サラリーマンへの応援歌」なのかもしれません。

【仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ】。これは作品中、大企業に勤める息子に自営業の父親が言った言葉ですが、ここに池井戸潤のモラルが凝縮されているように思います。

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