徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:有川浩著、『レインツリーの国 World of Delight』(角川文庫)

2016年02月06日 | 書評ー小説:作者ア行

「レインツリーの国」は、同著者の「図書館戦争」シリーズ第2巻「図書館内乱」に重要アイテムとして登場していたので、前から読んでみたいと思っていたのですが、今日ついに読むことができました。たまたまいつも利用するオンライン書店で角川フェアをやっていてこの本を見かけたので、「ああそういえばこれ読んでみたかったんだ」と思い出して購入した次第です。

ストーリーは映画化された(らしい)のでご存知の方も多いかとは思いますが、デリケートな恋愛小説です。以下は背表紙の解説:

きっかけは1冊の本。かつて読んだ、忘れられない小説の感想を検索した伸行は、「レンツリーの国」というブログにたどり着く。管理人は「ひとみ」。思わず送ったメールに返事があり、二人の交流が始まった。心の通ったやりとりを重ねるうち、伸行はどうしてもひとみに会いたいと思うようになっていく。しかし、彼女にはどうしても会えない理由があった―。不器用で真っ直ぐな二人の、心あたたまる珠玉の恋愛小説。

その会えない理由というのが、彼女の抱える聴覚障害だったのですが、結局それを隠して会って、そのために色々すれ違いがあり、悲惨な結果に。彼女は突発性難聴で、普通に話せはしても、聞き取りは補聴器と読唇を使って集中すれば何とか、という感じなので、その事情を隠したまま「静かなところがいい」、「映画は洋画の字幕付きがいい」と言って譲らなければ、おかしな印象が生まれてしまうのも当然。道を歩きながら話せない、しまいにはエレベーターに乗って重量オーバーのブザーが鳴っても分からないので、図々しい奴と思われてしまう。メールとのやりとりで得た印象との食い違いに戸惑い、いらだつ伸行。それを受けて泣きながら自分の障害を告白して逃げ出すひとみ。その後、主にメールやチャットでかなりまっすぐにお互いの気持ちをぶつけあいつつ、歩み寄っていく過程が描かれています。伸行の方にもそれなりのトラウマや苦労があって、二人とも20代の若さで、精神的にいっぱいいっぱいという感じだからこそ不器用でエネルギッシュな感じなのかもしれません。その初々しいやりとりがいいですね。「図書館戦争」シリーズの笠原郁vs堂上篤のバトルも素晴らしかったですが、ひとみvs伸行のバトルもなかなか。

作者は、ご主人が突発性難聴になったことがきっかけで、「図書館内乱」のエピソードを書いたそうです。その過程で調べるほどに「中途失聴及び難聴の方を主人公に据えた恋愛ものが書きたい」という思いが強くなり、それが形になったのが「レインツリーの国」だったとか。『障害者の話』ではなく、ヒロインが聴覚ハンディを持っているだけの『恋の話』を書きたかったそうですが、その目論見は成功していると思います。途中で泣きそうになったり、ちょっとハラハラしたりしつつ、最後には「ああよかった」と思って本を閉じられました。唯一の欠点は話が短いことでしょうか。

みなさん、よい週末を。

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