『コーヒーが冷めないうちに』、『このウソがばれないうちに』に続く第3弾『思い出が消えないうちに』(2018年9月19日発行)は、舞台が函館に移ります。『コーヒーが冷めないうちに』の第4話「親子」で時田計が娘に会いに未来へ移動した時、夫の流とその従妹・数は北海道に行っているということでしたが、その北海道時代が語られます。北海道函館市にも時間移動できる喫茶店があり、店の名は「喫茶ドナドナ」。店長は流の母・時田ユカリですが、彼女が店を訪れたアメリカ人の少年と行方不明になった彼の父親を探すために渡米してしまい、やむなく流と数がユカリ不在の間「喫茶ドナドナ」の営業を継続することになったわけです。そこでコーヒーを入れてお客を過去または未来へ送り出すのは時田数の娘・幸(7)。収録作品は4編。
第1話「ばかやろう」が言えなかった娘の話
第2話「幸せか?」と聞けなかった芸人の話
第3話「ごめん」が言えなかった妹の話
第4話「好きだ」と言えなかった青年の話
どれも切なくて、だけどそれぞれの悲劇を乗り越えて未来に向かって生きていく希望が見えるエピソードです。
不在の時田ユカリは全編を通して存在感を発揮しており、前作には全く登場していなかったので少々唐突感がなくはないのですが、「なにもの?!」「千里眼?!」と驚くようなタイミングでハガキを出したり、人を紹介したりします。全編を通して幸が夢中になって周囲の人を相手に質問する本、「もし、明日、世界が終わるとしたら? 100の質問」も実はユカリの著書だったというからびっくりです。そのあとがきに記されているという
「私は思う。人の死自体が、人の不幸の原因になってはいけない。なぜなら、死なない人はいないからだ。死が人の不幸の原因であるならば、人は皆不幸になるために生まれてきたことになる。そんなことは決してない。人は必ず幸せになるために生まれてきているのだから…」
これは作品全体に貫かれている思想であり、著者のコアメッセージでもあると思います。
それにしても、腑に落ちない点は、東京で営業している喫茶店「フニクリフニクラ」は創業が明治時代とのことで、こちらが本店ということになるのでしょうが、こちらの店長をしている時田流の母親がなぜ函館市の「喫茶ドナドナ」の店長なのかという点ですね。その辺の経緯はもしかしたら次作で語られることになるのかなと思わなくもないですが。このシリーズはタイムトラベルする人たちのドラマであると同時に時田家サーガでもあると考えられるので、スピンオフとして「すべての始まり~フニクリフニクラ創業奇譚」みたいなのや、「函館物語~ドナドナ創業奇譚」みたいなのも読んでみたいと思いますね。