『栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック』は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作中に登場した作品の中から12作品をセレクトした本です。
- 夏目漱石「それから」抜粋
- アンナ・カヴァン「ジュリアとバズーカ」
- 小山清「落穂拾い」
- フォークナー「サンクチュアリ」抜粋
- 梶山李之「せどり男爵数奇譚」抜粋
- 太宰治「晩年」
- 坂口三千代「クラクラ日記」抜粋
- 国枝史郎「蔦葛木曽桟」抜粋
- アーシュラ・K・ル・グイン「ふたり物語」抜粋
- ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」
- F・W・クロフツ「フローテ公園の殺人」抜粋
- 宮沢賢治「春と修羅」抜粋
巻末の「収録された作品についての諸々」で三上延ご本人のこれらの作品に対する思いや注釈が書かれています。
つくづく著者と私の読書暦が重ならないなと思いつつ太宰以外は興味深く読ませていただきました。
中でもロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」はタイムマシンを扱う割にはとてもロマンチックなお宝掌編で、こんないやな世相で荒んだ心にふわっと香るミントティのような癒しを与えてくれます。四十男の視点で描かれた純愛物語なのに男の身勝手さが感じられず、女性に対する独り善がりでない優しさが感じられ、とても好感が持てました。
小山清の「落穂拾い」は、しがない物書きの「僕」の些細な日常の出来事を綴った日録・交友録の体裁で、特に古本屋を経営している少女との交流を描いています。その彼女から誕生日に耳かきと爪切りを贈られたというささやかな幸せに心温まるようです。
坂口三千代の「クラクラ日記」や梶山李之の「せどり男爵数奇譚」、F・W・クロフツ「フローテ公園の殺人」は抜粋だけでは物足りず、もっと読んでみたいと思わせる作品です。
ただ、現在、積読本をある程度減らすまではシリーズ続刊以外の新しい本を買い控えているので、そちらに手が回るのはずっと後のことになりそうです。