『Croocked House(ねじれた家)』(1949)はポワロシリーズにもミス・マープルシリーズにも属さない作品です。前書きによると作者自身が最高傑作の一つと見なしている作品のようです。
レストランやショップなどの経営で大金持ちになったギリシャ系老人Aristide Leonidesが毒殺されます。語り手はスコットランドヤードの副総監の息子にして殺人被害者の孫娘Sophia Leonidesの恋人であるCharles Hayward。チャールズは外交官で、探偵ではないのでいろいろと振り回されているだけです。事件を担当するタヴァナー主任警部による捜査もあまりぱっとしません。
作品のタイトルはマザーグースの詩からの引用で、詩自体も作品中で引用されています(カッコ内は拙訳)。
There was a crooked man and he went a crooked mile.(ねじれた男がおりました。彼はねじれた道を行きました。)
He found a crooked sixpence beside a crooked stile.(彼はねじれた踏み段の横でねじれた6ペンスを見つけました。)
He had a crooked cat which caught a crooked mouse,(彼はねじれたネズミを捕まえるねじれた猫を飼っていました。)
And they all lived together in a little crooked house.(そして彼らはみな一緒に小さなねじれた家に住んでいました。)
レオニデス家の屋敷は「小さい」わけではなく、むしろかなり大きいのですが、建築様式が変わっており、Three Gables(三つの切妻屋根)と呼ばれているものの実際には5つあるらしく、「ねじれた家」と呼ぶにふさわしい形状のようです。
そしてそこに住む人たちの心も関係もどこかねじれているという感じです。アリスタイドの若き後妻Brenda、彼の最初の妻の姉Edith de Haviland、長男Rogerとその妻Clemency、次男Philipとその妻Magdaおよびその子どもたちソフィア、ユースティス、ジョゼフィン、家政婦のナニ―、ユースティスとジョゼフィンの家庭教師Lawrence Brownがその家の住人で、ブレンダとローレンスが不倫の関係にあると疑われ、アリスタイド毒殺の最有力容疑者と見られてましたが、最初からそう見られていたということは真犯人は別にいるということですけど、逮捕されてしまう気の毒な人たちです。
ジョゼフィンは探偵ごっこが好きで、あちこちで盗み聞きをして何でも知っていると自己主張するので、チャールズは随分振り回されます。彼の心配とジョゼフィンの全然言うことを聞かない生意気なやり取りがおもしろいです。
ブレンダとローレンスが逮捕された後、ジョゼフィンが殺されかけ、また彼女が退院してから彼女のココアに入っていた毒で彼女の代わりにナニーが亡くなってしまいます。さて真犯人は?
この作品は犯人が死んで終わるパターンですが、自殺ではないところが犯人像も含めてこの作品独特の「ひねり」と言えるのではないでしょうか。
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)
ポワロシリーズ