林真理子という名前だけ知っていた作家の『不機嫌な果実』というやはりタイトルだけ知っていた小説を読んでみました。1996年に単行本が発行されたようなので、もう20年以上前の作品なんですね。ドラマ化も映画化もされたようですが、その頃はもうドイツに来ていたので、見てません。
この前辻村深月の『鍵のない夢を見る』を読んだときに林真理子との対談が載っていて、それで林真理子の本を何冊か買ってみた次第です。
結婚6年目、夫の拒絶にささやかな復讐心をおぼえたヒロイン・麻也子(32)が不倫に走るというのが大筋ですが、まずは無難な相手として昔関係を持ったことのある妻子持ちの40代の男性と関係を持ち、その関係に慣れてくると、また不満を抱き、その後に出会った相手にはどうやら本気で恋をして、ついに離婚してその相手と結婚することになるというドラマ展開に驚きつつもどうなるのかドキドキし、彼女の思考や感じ方の詳しい描写に納得したり違和感を感じたり。そして結末は、意外のようでもあり、麻也子のキャラならそれも「あり」かなと思ったり。なんだか彼女の今後が心配になるラストでしたね。
ヒロインは派手なバブリー世代の女性たちの先駆けの世代のようですが、あの外見へのこだわりとか、見栄っ張りなところとか、男性観とかがその世代の典型であるようでいて、だけど薄っぺらでない「麻也子」という個性的な心情描写があるのが深みがあっていいと思いました。自分で主導権を握っているようでいて、結局自分の価値観や見栄やそういったものにとらわれて振り回されているところもリアルな感じがします。あまり友達になりたいタイプではありませんが(笑)
幸せになれるタイプでもないですね。やはり人間関係、特に男女関係を「損得」でとらえているのと、「与えられること」しか眼中にないから、「自分は損している」という感覚にとらわれてしまうのだろうと思います。人というのは人から与えられることを求めている限り幸せにはなれないものです。望んだものが与えられれば一時的な喜びとかはあるかも知れませんが、何かの拍子に何かと比べて、その与えられたものが色褪せて見えてしまえば、あっという間に喜びは失望と不満に取って代わられてしまいます。不倫がどうのというところよりも、麻也子のそういうメンタリティがちょっと気の毒な感じがしました。
男性読者はこの作品をどう感じるものなのか想像できませんが、女性読者にとってはこの主人公の近くて遠い感じがドラマとして面白いのではないかと思います。