先週はカナダとEUの自由貿易協定CETA(総括的経済貿易協定)がベルギーの一地方議会であるワロン地方議会の反対によって調印が遅れる事態となり、「もはやこれまでか?!」などとメディアでは大騒ぎになっておりましたが、CETA反対者は逆にワロン人応援署名を集めるなどして、ワロン人地方議会を、ローマ帝国に最後まで屈することなく抵抗するガリア人集落アストリックスとオベリックスのごとく英雄視していました。署名は環境保護団体ブントによれば、5万筆近く集まったそうです。
CETA反対の立場から言えば、「残念ながら」CETAは3日遅れで10月30日に調印されました。ところが、ワロン地方議会は「賛成」に回る条件をいくつか出しており、それが実に秀逸でした。
まず一番問題となっている投資家保護条項(ISD条項)は、CETAの仮運用機関において適用されないこと、及び、欧州裁判所によってこの条項が適法であるか否かを審議・判断されることです。前者に関してはドイツの憲法裁判所も調印の条件としていましたが、後者の要求は新展開と言えます。
それ以外のベルギーの特記事項は、自国産業(特に農業)の存続に関することで、存続が危うくなると判断される場合には保護条項が適用されることになっています。
その他、CETA反対論者たちを手懐けるために、特記事項として、社会保障や環境保護スタンダードを改悪してはならないとか、多国籍企業が都合の悪い法律の成立を阻止しようとしたり、自治体に例えば水道供給の民営化を強要してはならない、などが盛り込まれています。だから「心配いらない」というわけなのですが。。。
さて、CETA調印後は、欧州議会で審議・承認され次第、すぐに(ISD条項を除く)仮運用となりますが、実はこれからが長い道のりだったりします。加盟28か国でそれぞれに批准しなければいけないからです。正確には28国の議会及び16の地方議会の批准が必要となります。各国の批准は来年になると見られています。
環境保護団体ブントによれば、ベルリン州ではすでに連邦参議院でCETAに反対することを公表しています。バイエルン州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、ノルトライン・ヴェストファーレン州では反CETAの住民請願が開始されました。
CETAの反対運動はドイツが一番盛んですが、他の国にもかなりの抵抗勢力があるため、CETAが批准マラソンを生き延びられない可能性は低くないと見られていますし、私もそのように希望します。
ISD条項が完全に撤廃され、企業は須らく各国の法に従うよう強要され、また、社会保障や消費者保護、環境保護が「特記事項」に反して改悪された場合の罰則なのが明確に規定されれば、条約を批准しても大丈夫かな、とは思いますが、もう一つの懸念事項である「自国産業の保護」は自由貿易の建前にはそぐわないので、匙加減が難しいところです。
いずれにせよ、期待される「経済効果」とやらは結局大企業の懐に収まり、EU内の特に南欧の若年失業問題はこれっぽちも解決されず、格差が広がるのに拍車がかかることは請け合いです。
それは基本的に日本で今強行採決されようとしているTPPにも言えることだと思います。アメリカが調印を躊躇しているのに、なぜ日本が急ぐ必要があるのか意味不明ですが、それは安倍政権下ではむしろ「普通」なので、これ以上ここでは何も言いません。
参照記事:
フランクフルター・アルゲマイネ、2016.10.30、「CETAは調印された」
ターゲスシャウ、2016.10.31、「調印にもかかわらず、CETAのための障害物競走は今から始まる」
環境保護団体ブント、「メルシー、ワロン!」