徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:辻村深月著、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(講談社文庫)

2018年05月18日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』は女同士の友情と母娘関係をテーマにした作品です。地元を出た娘と残った娘の対比は辻村深月がよく取り上げる題材ですが、本作品では地元娘・チエミが仲が良かったはずの母を殺した(?)後に失踪し、東京で結婚し、雑誌記者をやっているチエミの幼馴染・みずほがチエミの行方を追っていきます。みずほの事情はチエミの行方を追うためにいろんな人と会う過程で徐々に明かされて行きます。

後半はチエミ視点で事の起こりから彼女を探しに来たみずほと再会するまでが描かれています。この作品はミステリーとしてはいまいちですが、扱われているテーマは色々と考えさせられるものがあります。

地元を出る出ないという話は身近な話題だったことがないので、いまいちピンときませんが、母娘関係の描写はいろいろと身につまされるところがありました。チエミと母親の近すぎる関係も、みずほと彼女に虐待的なしつけをした母親の関係も、どちらも私と母の関係には当てはまりませんが、うちもかなり衝突があって、時々思い出したように疼く傷跡もなくはないです。メールのやり取りや折々の贈り物はしても、実際に会うのは3~4年に一度のみで、一緒に居て数時間も経つともう耐えられなくなるような居心地の悪さを感じます。どうやら逆立ちしても仲のいい母娘にはなれないようです。このため、みずほの母親に対する気持ちにより多く共感しました。

友人関係については、例えば職場が同じであるとか、家が近所であるとかいう日常的に避けられない関係以外は、男女にかかわらず、続ける努力をしなければあっという間に疎遠になってしまうものだと思います。一度疎遠になってもまた何かのきっかけで連絡を取り合うようになることもなくはないですが、大抵の場合一度疎遠になってしまうとそれっきりですよね。なので、いくら事件がきっかけとは言え疎遠になっていた幼馴染を探そうとする意欲と勇気は尊敬に値します。また、チエミとみずほの共通の友人というか知り合いである地元で結婚したという政美はリーダー格で様々な付き合い上のこだわりがあるらしくて、実際の人物だったら付き合いきれないように私なら思うでしょうけど、でもその反面「あなたとは絶交」みたいにきっぱりと宣言するところには共感が持てました。なんにしても曖昧で何をどう思っているのかわからないよりはずっと気持ちがいいのではないかと思いました。

理由が分からないままなんとなく避けられているみたいで、こちらからアプローチすると、本質的なことには触れず、やや冷たくあしらって、後は「空気を読め」と言わんばかりの態度を長い付き合いのある高校時代の先輩につい最近とられたばかりなので、よけいに政美の「あなたとは絶交」宣言に優しさすら感じてしまいます。


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2018年05月16日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『光待つ場所へ』は、「冷たい光の通学路 I」、「しあわせのこみち」、「アスファルト」、「チハラトーコの物語」、「樹氷の街」、「冷たい光の通学路 II」6作品を収録した短編集。

「冷たい光の通学路 I」と「冷たい光の通学路 II」、「しあわせのこみち」および「アスファルト」は、『冷たい校舎の時は止まる』のスピンオフで、I は誰の話かいまいち不明ですが、II は榊先生が登場します。「しあわせのこみち」は清水あやめの大学2年の時の絵を描くことに関する悩みを描いたもので、高校の時の同級生として鷹野博嗣(たかの ひろし)も登場します。「アスファルト」は藤本昭彦が大学の卒業旅行としてベルリンに行きながら大学時代を回想する話ですが、『冷たい校舎~』に登場する青南学院高校時代も若干言及されます。

「チハラトーコの物語」は『スロウハイツの神様』のスピンオフで、赤羽環が脚本を担当する映画のオーディションを受けたことがあるモデルの千原冬子が主人公の物語です。30歳を目前にして自分の目指すところはどこか、虚構の世界に生き続けるのか、現実との関りを持とうとするのか思い悩みながら過ごす日々が描かれています。

「樹氷の街」は『凍りのクジラ』のスピンオフで、芹沢理帆子(せりざわ りほこ)が亡き父親の縁で一緒に住むことになるピアノの神童・松永郁也が中学生になり、合唱コンクールで伴奏をするお話です。郁也は主人公ではありませんが、主要登場人物です。指揮者の天木、最初にピアノ伴奏者に立候補した倉田梢、彼女の友達、そして倉田を目の敵にする筒井美貴など、数人の合唱コンクールを巡る青春ドラマです。

どの作品も悩み多き青春の一コマを描いており、ほろ苦い共感を想起するようなストーリーです。

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2018年05月14日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『ふちなしのかがみ』は都市伝説や怪談、おまじないや占いなどをテーマにした短編集で、収録作品は「踊り場の花子」、「ブランコをこぐ足」、「おとうさん、したいがあるよ」、「ふちなしのかがみ」、「八月の天変地異」の5編です。

学校の階段にいて、そこを熱心に掃除すると現れるという「花子さん」が一番完成度の高い怪談で、確かに「どっかで聞いたような話」という既視感はあるのですが、類似性があるだけで同じものではない新しいストーリー。実は一番怖いと思いました。トイレに行けなくなるほどではありませんが(笑)

「おとうさん、したいがあるよ」と「ふちなしのかがみ」は結局どういうことなのかいまいち理解しづらい不思議なお話ですが、先が気になってついつい読まされてしまう感じの短編です。

「ブランコをこぐ足」は「こっくりさん」の変形である「キューピット様」をよくやっていた女の子がいきなり勢いよくこいだブランコから飛んで死んでしまい、「呪い?」と噂される話。クラスメートなどの証言が集められて構成されてますが、私にはただ単にその子が自分の役割(キューピット様を呼び出す役)に嫌気がさして自殺したんじゃないかと思えます。

「八月の天変地異」は小5の男の子が自分のクラスでの相対的地位が低いのを苦にして、見えない友だちを作り出して自慢してしまい、それが自分の空想であることがばれないように天変地異を神様に願っているお話です。これもなんとも不思議なお話しですが、優しさに溢れたいい印象を受けました。

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2018年05月14日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『本日は大安なり』はとある地方の県下一の伝統あるホテルの結婚式場での11月22日、大安の一日を描いたもので、その日に式を挙げる4組のカップルの主要人物とブライダルプランナー・山井多香子が代わる代わるそれぞれの事情や心情をモノローグで語り継いでいきます。じわじわと明らかになっていくそれぞれの事情の中には予想外のものもあり、どうなってしまうのかとスリリングな話運びです。双子姉妹のドラマも興味深いですし、花嫁の甥っ子「真空(まそら)」が大好きな叔母「りえちゃん」を心配する健気さもかわいいし、トラブル続きのクレーマーカップルとプランナーのドラマも読み応えありますが、一番スリリングだったのは既婚なのに、なかなか真実が言い出せずにとうとう浮気相手と結婚式を挙げる当日になってしまって、なんとか中止にして逃れられないかと画策する「鈴木陸男」の事情でした。陸男は最初「彼の運命の女」について回想しているので、彼の当日の事情が明らかになるのはずっと後でびっくりしたんですが(ネタばれ、すみません)、事情を知った後は「どうすんのよ?!」とハラハラしながら読み進みました。

事件は起こりましたが、結局収まるところに収まり、結婚話がつぶれてしまった過去を持つブライダルプランナー・山井さんも最後にはハッピーになれてよかったと、ほっとして本を閉じられる小説でした。

それにしても、結婚式に300万円。この作品の舞台になっているホテルは老舗なので、さらに3割増しくらいという設定でしたが、くらくらしちゃいますね。一生に一度のことだからと金銭感覚がマヒしてしまう方々がいる一方で、体面や親のためなどで仕方なくという方々もいるのだと思いますが、正直日本の冠婚葬祭はお金がかかり過ぎると驚き・呆れるばかりです。ドイツでも結婚式はピンからキリまでですが、婚姻届けを出すために絶対に必要な役所婚とホテルまたはレストランで披露宴で数千ユーロ(数十万円)というのが相場かと思います。クリスチャンであれば、役所婚の他に教会で挙式して披露宴という運びになりますが、一番高いのはウエディングドレス等一式と披露宴でしょう。でも日本のように凝った演出とかはないのが普通です。私などは貧乏学生を終えたばかりのタイミングでしたので、婚約指輪や結婚指輪もなく、ドレスも新調せず、避けて通れない役所婚だけをやり、本当に内輪だけのお食事をしておしまいでしたが、別に後悔してませんし、それなりに収入・財産のある今でもやり直そうとも思いません。どんなことに価値を見出してお金を使うのかは全く個人の問題で、人のことはとやかく言うつもりもありませんけど、日本にいなかったおかげで余計な散財をせずに済んだと胸をなでおろしているのが私の正直な気持ちです。300万円の使い道として、私なら確実にマイホーム資金の足しにすることを考えるでしょう。

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書評:海堂尊著、『ブレイズメス 1990』(講談社文庫)

2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

昨日シリーズ最新作の『スリジエセンター 1991』を読んで、前作が気になってしまい、『ブラックペアン 1988』上・下を再読した後、シリーズ第2弾の『ブレイズメス 1990』(2012年発行)も再読してしまいました。タイトルからも分かるように、前作から2年後という設定です。外部研修を終えて東城大に戻された世良雅史は佐伯病院長から与えられたミッションを果たすべく、ニースの国際学会へ行きますが、目当ての天才外科医・天城雪彦が学会講演をドタキャンしたため、彼がいるモナコ公国モンテカルロに向かいます。心臓のバイパス手術の更なる進化型、閉塞した血管自体を切除して代替血管に置換する「ダイレクト・アナストモーシス(直接吻合法)」を確立し、世界でただ一人それを実行できる天城は、モナコのモンテカルロハートセンター部長であるものの、手術はカジノで全財産の半分をかける「シャンス・サンプル(赤か黒の二者択一)」に勝った患者のみに施術するという医師で、医療常識を相当逸脱しています。世良雅史のミッションは天城に佐伯病院長からの手紙を手渡すことでしたが、天城は受け取っても読む義理はないし、いらぬ選択を迫られるのが嫌だから受け取りたくないとだたをこね、一見簡単そうな世良のミッションが急遽難題に代わってしまうというスリルが面白いです。

天城は世良になにがしか感じるものがあったらしく、日本行きに同意し、こうして規格外の天城爆弾が東城大附属病院で炸裂することになります。第2弾は天城が日本初の公開手術を成功させ、将来の日本の医療崩壊から医療を守るための布石として桜宮でスリジエハートセンターを設立する構想をぶち上げるところで「次巻に続く」となっています。もちろん高階講師が完全に敵に回ったことを示す伏線も張られています。

ブラックペアン』はそれ単独でも完結した作品と言えますが、『ブレイズメス 1990』は完結編の『スリジエセンター 1991』とセットです。とはいえ、天城というトンデモ外科医がモナコから佐伯病院長の差し金で桜宮に来たことと、公開手術を成功させたことを了解していれば、細かいことを忘れていても完結編の理解には困りません。

再読して初めて気が付いたのですが、公開手術終了直後の学会会場でかのチーム・バチスタの外科医・桐生恭一が学生として天城に質問しに来て、天城にアメリカ留学を進められた上に、アメリカの心臓疾患専門病院の部長に直接紹介されるエピソードがあります。『チーム・バチスタ』に繋がる因縁がこんなところにちょろっと隠れているとは!

このように作品同士の関連性を見つけるのも海堂作品を読む楽しさの一つですね。


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書評:海堂尊著、『ブラックペアン 1988』上・下(講談社文庫)

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書評:海堂尊著、『ブラックペアン 1988』上・下(講談社文庫)

2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

昨日シリーズ最新作の『スリジエセンター 1991』を読んで、前作が気になってしまい、『ブラックペアン 1988』上・下を再読してしまいました。2012年に1冊にまとめられた新装版が出ましたが、私が読んだのは上下巻に分かれていた2009年発行の初版本です。12月半ば発行でしたので、私が読んだのはおそらく2010年が明けてからで、約8年半前のことなので内容をほとんど覚えてませんでした。覚えていたのはブラックペアンが何に使われたか、くらいです(笑)

上・下巻に分かれてますが、分ける意味があったのか疑問に思うほど薄っぺらで、各200ページ余りです。

さてストーリーですが、タイトルにもあるように時は1988年のバブル真っ盛りのころ。「神の手」を持つ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大の「ビッグマウス」あるいは「阿修羅」と呼ばれる高階講師が食道癌手術を簡易化するという新兵器「スナイプAZ1988」を手土産に乗り込んできます。佐伯教授は「ビッグマウス」の「小天狗」のとけなしつつも、やりたいようにやらせますが、医局の万年平局員にして高い手術手技を持つ渡海が高階に噛みつきます。

下巻ではスナイプを使ったオペが目覚ましい戦績をあげたので、高階が最初に切った啖呵の是非を問うために、スナイプオペを若手外科医だけにやらせるように命じ、高階講師には立会も許さない。また、渡海はどうやら佐伯教授と因縁があるらく、復讐の機会をうかがっています。さて、何が起こるのか?

と、緊迫感のある話運びですが、語りの視点は医局1年目の新米外科医・世良雅史なので、新人の悲哀なども語られ、ハイレベルバトルのとっつきにくさを緩和しています。全体的に鋭い筆致で、再読でも十分面白かったです。まあ、話の大半を忘れていた、というのもありますが。

それにしても、佐伯教授とやらは王様ですね。立場が下とは言え成人の講師や医局員に向かって「ビッグマウス」、「小天狗」、「小坊主」とか呼びかけ、名前を呼ばないことが、ムッとはしても受け入れられているところが時代の違いを感じます。


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2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

『スリジエセンター1991』は、桜宮・東城大サーガの過去編である『ブラックペアン』シリーズの完結編です。ようやく文庫化されたので早速購入して、届いたとたんに読破しました。

東城大附属病院に招聘されたモンテカルロの「エトワール」の称号を持つ天才外科医・天城雪彦が唯一の部下・世良雅志とスリジエ・ハートセンターの設立を目指す物語です。『チーム・バチスタの栄光』を始めとする田口・白鳥シリーズで丸投げの得意な病院長として田口をこき使う高階権太のこの時の肩書は「講師」。田口の担当する不定愁訴外来を支え、隠然と政治力を発揮する藤原さんのこの時の肩書は「婦長」。この二人がタッグを組んで病院長・佐伯教授を追い落とし、スリジエセンター設立の阻止を画策します。現代編の方を読み込んでいると、この作品の中でいろいろと納得することがあります。まあ、そのための過去編なのでしょうけど。高階がどのように「丸投げ」という技を体得したのかも語られていて、ちょっと吹き出したり、他にもボケとツッコミが絶妙な会話で笑えるところがありますが、天城雪彦の運命に限ってはかなり悲劇的と言えます。日本の医療を変えるという夢は革命児・天城の手によっては実現が叶いませんでした。

『イノセントゲリラの祝祭』や『ナニワ・モンスター』、『スカラムーシュ・ムーン』で活躍する未来の革命児・彦根新吾は、ここでは厚生省志望の医学生として登場するのですが、天城にも高階の策略で厚生省から天城に圧力をかけに来た坂田にも「医師として経験を積んでから厚生省に行け。そうすれば厚生省に耐えられなくなってとび出しても医師として生きていく技術を持つことができる」というようなアドバイスを受けるところも面白いと思いました。

院内政治、権力闘争、医療崩壊の予兆とそれに対する策としての病院改革。問題が山積していて、一体どこに辿り着くのかハラハラしてページを繰る手が止まらなくなりました。453ページと比較的ボリュームがありますが、問題なく一気読みできました。

また、先行する物語『ブラックペアン1988』や『ブレイズメス1990』の内容をほとんど覚えてなくても特に違和感なく読めました。


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書評:辻村深月著、『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社文庫)

2018年05月11日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『オーダーメイド殺人クラブ』の語り手は中2女子・小林アン。バスケ部で、クラスの「派手組」の方に属しているけれど、死や猟奇的なものに惹かれることは誰にも言えない秘密。アンは、わがままでクラス内のヒエラルキーの上位に居る芹香と倖とは部活が一緒で仲がいいはずがちょっとしたことで「外され」てしまうという中学生に典型的な不安定な人間関係に悩み、赤毛のアンが好きで「イケてない」母親に苛立ち、何か特別な【事件】を起こすことで特別になりたいと考えます。そして、学校外で遭遇したきっかけとなる些細な事件からクラスメートである徳川勝利に、彼女の希望に沿って殺してくれるように頼み、二人でその計画を練るという物語です。

アンの方の心情はまだ分からないでもないのですが、徳川君の「私を殺して」と言われて「いいよ」と答えるのはちょっと。。。もちろん彼が承諾しなければ話が始まらないのは分かりますけど、「君、かなり変だよ」と突っ込まずにはいられませんね。

アンの思考やクラスや部活などでの出来事の描写は、生き生きと生々しく、そのあまりの臨場感にすっかり埃をかぶって記憶の引き出しの奥深くに忘れ去られていたような中学生時代の感覚が急に取り出されて目の前に突き出されたようで、その埃っぽさに思わずくしゃみをしそうになるような、何とも言えない苦々しい思春期の青臭さのイタさを感じました(笑)

この作品を主人公と同じ中2の時に読んだらどうだったでしょうか。たぶん途中までは「そうそう」とものすごく共感して(猟奇的なものに惹かれるという趣味は別として)、つまんないリストカットなんかじゃなくて、もっと別のことをしようと思ったかもしれませんが、それだけに結末には納得しなかったのではないかと考えられます。小説の中では数ページで3年以上も経過してしまっても、現実の「今」を生きる身にとってはそれは真似できない時間の経過と成長ですので、やはりこの作品はせめて高校生になってから中学時代を思い出として振り返るようになってからじゃないと納得できるお話ではないのではないでしょうか。

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書評:辻村深月著、『水底フェスタ』(文春文庫)

2018年05月11日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『水底フェスタ』は辻村深月氏の作品にしては後味が悪くて救いがあまりないストーリーです。自然を切り売りし、またロックフェスティバルを誘致して潤う山村の閉塞感をテーマにした物語で、村長の息子で高校生の主人公広海はロックが好きで、フェスティバルの良さを理解しようとしない村民に不満を抱き、ほとんど唯一の理解者である父に対する敬慕、心配症で俗物的な見栄っ張りの母に対する疎ましさなど思春期にありがちな不安定さを持っています。そんな彼の平穏な日常が地元出身のモデル・女優である由貴美によって大きく変化します。8歳年上の彼女の誘惑に溺れ、「村への復讐」に協力することになった彼は取り返しのつかない事件に巻き込まれ、村に古くからある地縁の強烈さと結託した隠ぺい体質を目の当りにすることになります。

この作品に描かれた閉じた村の「常識」の非常識さに驚く一方で、ありそうな感じがして怖いです。そして広海が絶望ゆえにどんな行動を起こし、どこに行きつくのか将来が心配なところで終わるのがこの作品を後味の悪いものにしています。

また、前半の進行がやや退屈で「引き」が弱いので、急展開で話が進んでいく後半に辿り着くまでに少々忍耐力が必要です。そういう意味ではテンポの良くない作品と言えます。

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書評:辻村深月著、『冷たい校舎の時は止まる』上・下(講談社文庫)

2018年05月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『冷たい校舎の時は止まる』上・下(講談社文庫)は辻村深月のデビュー作であったノベルズ版を加筆修正した作品です。『ロードムービー』に収録されている『雪の降る道』を先に読んでいるとデジャヴュを感じますが(みーちゃんとヒロくん、そしてスガ兄が大きくなって再登場)、こちらが先で、『雪の降る道』はスピンオフ作品なのでしょう。

主人公の名前が著者と同じ【辻村深月】なので、もしかしたら本人の高校時代の実体験をベースにしたお話しなのかなと思えなくもないです。

ある雪の日に普通に登校したはずの高校生男女8名がなぜか彼ら以外誰も居ない校舎に閉じ込められることでストーリーが始まります。どうやら2か月前、学園祭最終日に屋上から飛び降り自殺した生徒の精神世界に巻き込まれたらしく、その生徒はこの8人の中の一人らしいという推測を立てますが、みんなの記憶がいじられているらしく、一体自殺したのは誰だったのか、みんな顔も名前も思い出せない状態で苛立つ中、一人、また一人と記憶を取り戻してその世界から去っていきますが、その後には血塗れになった人形や、壊れた人形などが残されるため、残った子たちは否応なくいつ自分の番が来て、何が起こるのか不安になります。この世界の「ホスト」はみんなに自殺した生徒を思い出させ、責任を感じて欲しいようですが… 果たしてこの「ホスト」とは誰なのかーというサスペンスたっぷりのミステリー小説です。

ただ、彼ら彼女らが対峙する過去の体験やそれに対する心情、自責の念や自己否定感などのテーマは重く、結末は一応ハッピーエンドと言えるでしょうが、そこに至るまでに重さにめげてしまう人もいるかもしれません。

また、エピローグで鷹野博嗣(たかの ひろし)が深月を苦しめた角田春子の姿を遠い西の街で見かけるというくだりはなんだか納得がいかないシーンです。それの意味するところは何か、と不信感しか抱けませんでした。残念。

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