みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0345「仕返し」

2018-10-11 18:32:01 | ブログ短編

「ねえ、ホントにやっちゃうの?」裕二(ゆうじ)は声をひそめて言った。
「当(あた)たり前よ。あたしを捨(す)てたのよ。これでも生(なま)ぬるいくらいだわ」
 和美(かずみ)は、昨日(きのう)まで付き合っていた彼に振(ふ)られたのだ。それも、ただ一言でバッサリと。その恨(うら)みを晴(は)らそうと、和美は彼を呼び出したのだ。
「でも、何で俺(おれ)が?」裕二はまだ納得(なっとく)がいかないようだ。
「なに言ってるのよ。あなた、何でもするって言ったじゃない」
「そりゃ、言ったけどさ。これは、まずいんじゃないかな?」
 裕二には何となく分かっていた。和美がなぜ振られたのか。彼女は、ちょっと一途(いちず)なところがある。裕二にとっては可愛(かわい)いと思える部分(ぶぶん)でもあるが、他の男性には重(おも)い女ととられかねない。裕二は彼女の未練(みれん)を絶(た)ち切らせようと、思い切った策(さく)に出た。
「じゃあ、水じゃなくて、ペンキをぶっかけてやろうよ。その方がすっきりするだろ」
 和美は一瞬(いっしゅん)ぎょっとして、つばを飲み込んだ。そして、ためらいがちに言った。
「そ、それは…。ちょっとやり過(す)ぎよ。いくらなんでも、そこまでやったら…。それに、そんなことしたら、スーツが駄目(だめ)になっちゃうわ」
「それぐらい何でもないよ。また買えばいいんだし。気にするような――」
「だめ! あたしが買ってあげたスーツよ。そんなことできない」
<つぶやき>どこまでも一途な彼女でありました。多少のことは大目(おおめ)に見てあげて下さい。
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0344「疑惑」

2018-10-10 18:55:43 | ブログ短編

 夫(おっと)が仕事(しごと)から帰ると、妻(つま)は置き手紙(てがみ)を残して実家(じっか)へ。夫は慌(あわ)てて迎(むか)えに行ったのだが…。
「何なんだよ。この、<実家へ帰らせてもらいます>って」
 夫は妻を前にして言った。妻は、ふくれた顔をして夫をにらみつけると、「私、別れます。もう、あなたのことが信じられない」
「貴志(たかし)君、どういうことなんだ?」妻の父親(ちちおや)が口をはさんだ。「君(きみ)は、浮気(うわき)してるのかね」
「えっ、僕(ぼく)がですか? そんな、僕が浮気だなんて――」夫は妻を見る。
「私、知ってるのよ。あなた、薫(かおる)って女と、頻繁(ひんぱん)に連絡(れんらく)取ってるじゃない。スマホの通話履歴(りれき)、ちゃんと残(のこ)ってたんだから」
「薫って?」夫はしばらく考えていたが、「ああっ、それ男だよ。仕事の関係(かんけい)で連絡を取りあってるだけだから。もう、僕が浮気なんかするわけないだろ」
「うそ! そうやって、また私を欺(だま)すの?」
「じゃあ、かけてみろよ」夫は自分のスマホを妻に差し出した。
 妻はスマホを受け取ると、ちょっとためらったが、「かけるわよ。ホントにいいのね?」
 耳元(みみもと)で呼び出し音が鳴(な)りはじめる。妻は落ち着かない様子(ようす)。そして、相手(あいて)の声が…。
「はい。高木(たかぎ)でございます。柄本(えのもと)さん、どうしたんですか、こんな時間に…」
 それは、間違(まちが)いなく女性の声。妻は何も言えないまま、すぐに電話を切った。
<つぶやき>電話の相手は誰だったんでしょう。浮気の相手? それとも、薫の奥さん?
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0343「社長の恋」

2018-10-09 18:37:53 | ブログ短編

 若(わか)くして事業(じぎょう)を興(おこ)した女性社長(しゃちょう)。今まで仕事(しごと)のことしか頭になかった。でも、ひょんなことから、三十路(みそじ)を前にして恋(こい)をしてしまった。そのお相手(あいて)は――。
「えーっ! 二十四…、二十四なの?」彼女は明らかに動揺(どうよう)していた。
「俺(おれ)って、老(ふ)けて見られるんだよね。いつも三十代だと思われてて」
 若者(わかもの)はあっけらかんとしていた。彼女は年上(としうえ)だと思っていたのに、五つも年下(としした)なんて想像(そうぞう)すらしていなかった。
「何で? 何で私なんかと付き合おうって…。私、来月で三十だよ」
「そうなんだ。誕生日(たんじょうび)っていつなの? お祝(いわ)いしなくちゃね」
「いやいや、そういうことじゃなくて…。あの、五つも年上なんだよ。いいの?」
「えっ、そういうの気にするんだ。俺は別に――。それと…、もう一つ言わなきゃいけないことがあるんだけど」若者は彼女の方に向き直り、「俺さ、実(じつ)は…、派遣(はけん)なんだよね。ごめん。欺(だま)すつもりじゃなかったんだ。何か、言い出しにくくてさ」
「えっ、それって…」彼女は完全(かんぜん)にフリーズ状態(じょうたい)。いろんなことが頭の中を駆(か)けめぐった。
「そうだよね。君(きみ)は、正社員(せいしゃいん)でバリバリ働(はたら)いてるのに。俺なんかが…」
「いや、そうじゃないの。――実は…、私も派遣なんだよね。ハハハハ……」
<つぶやき>あまりにも違(ちが)う二人。ホントのことを話したら、どうなっちゃうんだろう。
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0342「寝言」

2018-10-08 18:39:06 | ブログ短編

 妻(つま)は朝からご機嫌(きげん)ななめ。どうやら、夫(おっと)が寝言(ねごと)で女性の名前(なまえ)を呟(つぶや)いたようで…。
「だから、知らないって。そんな名前」夫は困惑(こんわく)顔で言った。
「知らないわけないでしょ。あなたの口から出た名前よ。ちゃんと説明(せつめい)して」
「そんなこと言われても…。たかが寝言じゃないか」
「たかが? たかがって何よ。やっぱり、やましいことがあるのね」
 妻は疑(うたが)いの目を向ける。「あなた、嘘(うそ)をつくとき鼻(はな)がふくらむのよね」
 夫はとっさに鼻を押(お)さえる。妻はしてやったりと、「ほら、やっぱり嘘(うそ)ついてる」
「言っとくけどな、僕(ぼく)は浮気(うわき)なんかしてないから」
 妻は依然(いぜん)として納得(なつとく)してない様子(ようす)。夫はため息をついて、
「分かったよ。佐依子(さえこ)って言うのは、昔(むかし)、付き合ってた彼女だよ。でもな、それは君(きみ)と知り合う前の話で…。彼女とは、別れてから一度も会ってない」
「じゃ、何で知らないって言ったの? 会ってもないのに、何で彼女の夢(ゆめ)なんか見るのよ」
「そんなこと――。だって、また怒(おこ)るだろ。昔の彼女だって言ったら…」
「なに言ってるのよ。私がそんなことで嫉妬(しつと)するとでも思ってるの? じゃ、どんな夢を見たのか、言いなさいよ。何か、とっても楽しい夢を見たんでしょ?」
<つぶやき>夢のことを言われても、困(こま)りますよね。でも、ホッとする夢だったのかも。
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0341「待ち伏せ」

2018-10-07 18:46:20 | ブログ短編

 私には片思(かたおも)いの先輩(せんぱい)がいる。学校で何度か告白(こくはく)を試(こころ)みたが、二人だけになるチャンスもなく今にいたっている。でも、今日こそは誰(だれ)にも邪魔(じゃま)されず、告白してやるぞーぉ。
 私、気づいたの。夕方(ゆうがた)、部屋の窓(まど)から外(そと)を見たとき、先輩が家の前を歩いていた。まさか、先輩が塾(じゅく)に行くのに、私の家の前を通るなんて。何で今まで気づかなかったのよ。
 先輩が塾に行く曜日(ようび)と時間はちゃんとリサーチ済(ず)みよ。今日、先輩は間違(まちが)いなく家の前を通るはず。そこを待(ま)ち伏(ぶ)せて、私の思いを伝(つた)えるの。私はドキドキしながら、部屋の窓から外を眺(なが)めていた。外は夕暮(ゆうぐ)れで、もう薄暗(うすぐら)くなっている。そこへ、人影(ひとかげ)が…。あれは間違いなく先輩よ。私は慌(あわ)てて階段(かいだん)を駈(か)け降(お)りて、玄関(げんかん)の扉(とびら)を開けた。
 先輩の顔なんて、まともに見られない。私はうつむいたまま、先輩の前に飛び出すと叫(さけ)んでしまった。「先輩! 大好きです。私と付き合ってください!」
 しばらくの沈黙(ちんもく)。とっても長く感じたわ。先輩…、何でもいいから言ってください。
「何やってんだ? こんなとこで、恥(は)ずかしいことすんなよ」
 それは、聞き覚(おぼ)えのある声。私は顔を上げる。そこにいたのは、
「お兄(にい)ちゃん! 何でいんのよ。もう、バカっ!」
 その時だ。私の横(よこ)を、先輩が通り過(す)ぎて行った。私は先輩の後ろ姿(すがた)を見送(みおく)って――。これで、私の片思(かたおも)いも終わりだわ。変なヤツって、思われちゃったじゃない!
<つぶやき>恋は思うようにはならないものです。何度失敗(しっぱい)してもいいじゃないですか。
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