福島第1原発の汚染水問題の解決へ、立場を超えて知恵を合わせようと、日本共産党主催の汚染水問題シンポジウムが21日、国会内で開かれました。技術者や科学者、産業界、漁業関係者など会場いっぱいの約170人が参加。活発に討論しました。
シンポは、原発への態度や将来のエネルギー政策の違いを超え、英知を結集しようと、日本共産党が広く呼びかけたもの。冒頭、主催者を代表して志位和夫委員長があいさつ。各界で活躍する6人のパネリストが報告しました。
北澤氏は、汚染水問題が解決できないとどういうことになるかと問いかけ、国家の存亡の危機として原発事故問題を考える必要性を訴えました。
舩橋氏は、汚染水問題の迷走の根本にあるのは、企業が望む対策が優先されるゆがみがあると批判。東電の上位に広範な権限をもつ組織創設を提案しました。
地下水工学が専門の本島氏は、1~3号機の溶融燃料を取り出すには、地下水問題が重要であると指摘。地下水を上流側で止める方法を提案しました。
海洋汚染について廣瀬氏は、全体として放射性セシウム濃度が減少しているものの、放水口周辺の値は減少傾向がみられず、放射能が漏れているとみるのが合理的だと報告しました。
大島氏は環境経済学の立場から、事故費用の負担問題を報告。実質的な国民負担の他方で、株主や金融機関は無傷であると批判。国費投入は、モラルハザード(倫理の崩壊)を招くと指摘しました。
笠井氏は、国会論戦を踏まえ報告。柏崎刈羽原発再稼働のためには増員しながら汚染水対策にむかわない国や東電の姿勢を変える重要性を指摘しました。
閉会あいさつで志位氏は「今日は多角的に問題に光が当たった。超党派で、汚染水問題の危機打開のために専門家の英知を結集する場を国会に作ることを提案したい」と述べました。
志位委員長があいさつ
日本共産党の志位和夫委員長は主催者を代表してあいさつしました。志位氏は、福島第1原発の放射能汚染水問題が「制御できない深刻な非常事態に陥っている」ことについて、(1)汚染水が莫大(ばくだい)な量に達していること(2)原子炉格納容器が破損し、問題解決には長期にわたる努力が必要になること―を具体的に指摘。問題を打開するための「緊急提言」を紹介した後、開催趣旨を次のように語りました。
私たちは、汚染水問題の解決に向け、原発への態度や将来のエネルギー政策の違いをこえて、科学者、技術者、産業界の皆さんの英知と総力を結集した取り組みが何よりも大切だと訴えてきました。
政党としても、汚染水問題の打開の道を探求する場を設けていきたいと考え、今日のシンポジウムを呼びかけさせていただいたものです。ともに知恵を合わせて、この問題解決の方途を見いだしていきたいと考えています。
■パネリスト(発言順、敬称略)
○北澤 宏一(東京都市大学学長、 福島原発事故独立検証委員会= 民間事故調=委員長)
汚染水の問題が解決できないとどういう国になるか。国家存亡の危機に発展する恐れがあります。
事故後、いろんな国を歩いています。経済的先進国で日本より国土の小さな国は、脱原発を決意するという
経験則が成り立ちます。原発事故が自分の国で起きたら、国の終わりがくるかもしれないという問題です
再生エネルギーではエネルギーはまかなえないという議論があります。しかし、世界規模で再生エネルギー
は毎年倍加する勢いで伸びています。3、4年前のデータでなく直近のデータで見なくてはいけません。
再生エネルギーの流れはこれからも広がるでしょう。その流れの進展を事実でみて、エネルギー政策を判
断していくことが大切です。
原発がなくなると日本経済はめちゃくちゃになる、経団連がいってきたことです。これは事実に反することが
起きているのではないか。事実がどう推移していくか、みなさんにも見ていただきたい。
○舩橋 晴俊(法政大学社会学部教授、原子力市民委員会座長)
原発事故は技術的多重防護の破綻とともに、社会的多重防護の破綻を示しています。
電力会社がエラーをしたら規制機関がチェックをする。規制機関がエラーをしたら裁判所が危険な施設に差
し止め判決を出すというのが本来の社会的仕組みですが、これが破綻していました。
電力会社の巨大なマネーに支えられた原子力複合体とでもいうべき存在があるからです。電力会社による
利益追求が、国会、政治家、地方行政、メディアをコントロールしてしまう。
汚染水への対応が迷走するのも、東京電力が黒字化のために、対策費用を圧縮しようとするからです。20
11年6月に地下遮水壁計画を、株価下落を恐れ頓挫(とんざ)させたことに明瞭に表れています。
この構造を変えるには、社会的政策を民衆が討論してつくる「公共圏」を対置することです。そこでの公論を
政治に反映させる。経済産業省を超えた地平からエネルギー政策をつくることが必要です。
○本島 勲(元電力中央研究所主任研究員)
今必要なのは、原子炉建屋に地下水が入り込むのを止める対策をとること、汚染水をためるタンクを安全に
管理することです。敷地内の地下水、汚染水を海に流すべきではなく、当面は管理することが必要だと考えて
います。 汚染水対策で凍土遮水壁が採用されましたが、世界的にこれだけ大規模なものは経験がありませ
ん。岩盤の中の地下水というのは均一に流れているのでなく、水が凍るのかどうかは大変な問題です。
東電は、福島第1原発の下で地下水が流れているのは、地下の泥質部の上だけだとしていますが、地下水
の流量を考えれば、泥質部の下にも流れているのではないでしょうか。下で地下水が流れていれば、海底に
流出しているかもしれない。 岩盤の地下水を止めるのは至難の業です。地下水の上流側にトンネルを掘って
排水するなど流入地下水を減らす対策が必要です。今からでも遅くないので、対策の再構築をしなければなら
ないと思っています。
○廣瀬 勝己(元気象研究所地球化学研究部長)
30年近く環境の放射性物質の研究をしてきました。今後、モニタリング(監視)が必要な核種として放射性セ
シウム、ストロンチウム90、トリチウム(3重水素)があります。数十年の半減期を持ち、長期の監視が必要で
す。 事故直後、ストロンチウム90はセシウム137に対して100分の1程度でしたが、現在は1くらいの比に
なっています。分析に時間がかかり監視が難しい。地震でタンクが壊れれば、ストロンチウム90によるリスク
(危険)が高まります。
汚染水は、長期的に見れば、液体の状態では不安定で、固体の状態にしないと管理できません。処理する
ことが重要です。 放射性物質がどこにどれだけあり、どれだけ固定されているか評価されないと、とてもコント
ロールしているといえません。 今回の事故は、原子炉がいかに大量の放射性物質をためているかを明らか
にしました。どう合理的に処分していくか考えないと事故の処理もできません。
○大島 堅一(立命館大学国際関係学部教授)
汚染水対策について、与党から国費の投入を含むいくつかの案が出ていますが、これらは明らかに汚染者
負担原則からの逸脱です。対策にお金がいらないことになり、モラルハザード(倫理の崩壊)を招いてしまう。
なぜ国が直接乗り出すのか、論理が不明確で、責任論がないことが非常に問題です。莫(ばく)大(だい)な
被害が発生し原因者の賠償能力を超える場合は、責任に応じて払う必要があります。
一義的には東電が支払う必要があるので、まずは東電の法的処理が必要です。これは、貸し手責任や株
主責任を問うことになります。
二つ目は事故発生責任に基づく費用負担が必要です。政府や他の事業者にも責任があったと言われてい
ます。
三つ目は、新たな事故処理の機関を作って、科学者や技術者が集まって適切な対策をとれるような仕組み
を取ることです。
他の国では電気事業者が変わることは普通です。東電がなくなっても、事業主体が変わるだけで電気はき
ます。
○笠井 亮(衆院議員、日本共産党原発・エネルギー問題対策 委員会責任者)
国会論戦を踏まえて発言します。第一は、国が、放射能で海を汚さないという確固とした決意を持っている
かです。政府の基本方針は、この肝心の大目標が全く定まっていません。安倍首相はどんなに聞いても、海
を汚さないと明言しません。
第二は汚染水問題の現状をどう認識するかです。政府も潜在的リスク(危険)を洗い出すなどと取りつくろ
っていますが、抜本的対策はこれからです。収束宣言を撤回し、異常事態という共通認識のもとで、抜本対
策を作り上げるよう強く求めていきたい。
第三に、汚染水問題は、国が最優先で総力をあげるべき重要課題です。ところが首相は口では前面に
立つと言いながら、再稼働と輸出ありきで、国会を抜け出してトルコ訪問を重ねる始末。国や電力会社など
の姿勢が最大の障害です。今こそ、原発の再稼働や輸出のための活動を直ちにやめて、汚染水問題の根
本解決と事故収束のために、英知と総力を結集する時です。