安倍晋三首相とトランプ米大統領の会談では、貿易・通商問題をめぐる2国間交渉で貿易赤字解消を目指すトランプ政権の姿勢が改めて浮き彫りになりました。安倍首相が主張した環太平洋連携協定(TPP)へのアメリカの復帰は相手にもされません。トランプ大統領は米国産兵器の購入まで迫りました。アメリカの赤字が増えているのは同国経済の「空洞化」のためで、自動車など日本の大企業はその穴埋めにアメリカでの生産を増やしてきました。日本からの輸入を抑え、農産物などの輸出を増やそうというのは筋が違います。譲歩を重ねるのは危険です。
「アメリカ第一」の独善
安倍首相との会談でトランプ氏は「米国は対日貿易赤字を縮小し、できれば均衡を達成したい」と力説しました。「TPPが最善」とかわそうとした安倍首相に対しても、共同会見で「TPPには戻りたくない。2国間協定の方が好きだ」と強調しました。鉄鋼やアルミの輸入制限から日本を除外していないことについても、「新たな貿易協定に合意できれば」とまるで交渉材料扱いです。
茂木敏充経済再生相とライトハイザー米通商代表が担当することになった貿易・通商問題の 新たな協議機関は自動車や鉄鋼など個別の課題を議論するといわれます。日米間にはすでに麻生太郎副総理とぺンス副大統領による日米経済対話があります。新しい機関が個別の課題を取り上げれば、1990年代の自動車などの貿易交渉以来二十数年ぶりともいわれます。
日米は70年代以来、繊維や鉄鋼、自動車などの貿易交渉を繰り返してきました。アメリカの輸出が振るわず、日本の黒字が続いてきたのは、アメリカの大企業が海外での生産を増やし、国内では金融などでもうけを確保して国内経済を「空洞化」させてきたからです。かつての鉄鋼や自動車などの生産地は「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」と言われるほど不況が深刻で、トランプ大統領が昨年の就任直後、アメリカが主導した関税などを原則撤廃するTPPから脱退したのも、国内での矛盾が無視できなかったためです。
日本の歴代政府や大企業はアメリカ言いなりに輸出規制や農産物、軍需品などの輸入拡大を受け入れ、さらに90年代の自動車摩擦を機にアメリカ国内での生産を増やし、日本国内でも「空洞化」に拍車をかけました。トランプ大統領が問題にする日本の自動車は多くがアメリカで生産されたものです。アメリカ全体の貿易赤字に占める日本の比率は下がっており、トランプ政権が日本との貿易赤字をやり玉に挙げるのは、「アメリカ第一」の立場からの筋の通らぬ主張です。
TPPでも日本に打撃
安倍政権には、2国間交渉を中心にアメリカの身勝手な要求を押し通そうというトランプ政権に抵抗する立場はありません。今回の会談でもトランプ氏をたしなめ、批判するどころか、TPPへの復帰を求めただけでした。
関税などを撤廃するTPPが日本経済に大打撃を与えることは「アメリカ抜き」で動きだそうとしている「TPP11」(国会で審議中)を見ても明らかで、TPPを前提にした交渉は危険です。
アメリカの言いなりになるのではなく、平等・互恵の経済関係を確立することこそが不可欠です。