安倍晋三首相は、学校法人「森友学園」と「加計学園」をめぐる疑惑について選挙中に「十分に説明してきた」と発言しています。しかし、総選挙公示後の党首討論では、国会答弁と同じ説明を繰り返すばかりです。二つの疑惑で何が問われているのか。あらためて検証します。
核心は国有地格安売却
「森友」疑惑
教育勅語に共感
安倍首相の夫人、昭恵氏は、2015年9月5日に森友学園の小学校の名誉校長に就任しました。安倍首相は、同学園前理事長の籠池泰典被告=詐欺罪で起訴=に、昭恵氏が「だまされたのだろう」と発言していますが…。
昭恵氏はフェイスブックに、同学園の塚本幼稚園が園児に「教育勅語」を暗唱させていることを「感動しました」と記述。昭恵氏は、森友学園の教育に共鳴していたのです。安倍首相も「妻から、森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしいという話を聞いている」(衆院予算委員会、2月17日)と持ち上げていました。
教育勅語は戦前の軍国主義教育の柱です。戦後は国会で失効、排除が決議されています。教育勅語の暗唱という戦前回帰の異常な教育に安倍首相夫妻が共感していた形です。
昭恵氏関与濃く
安倍首相は「妻が直接頼んでいないことも明らかになっています」とも述べています。
籠池被告は、国会の証人喚問で、国有地取引について昭恵氏に相談したことを明らかにしています。籠池被告は、昭恵氏に依頼したら、夫人付政府職員から返信があったと証言。この政府職員は、森友側の要望を財務省国有財産審理室長に問い合わせ、回答をファクスで送りました。
ファクスの文面には「本件は昭恵夫人にもすでに報告させていただいております」との記述が。昭恵氏が土地取引に関わった疑いが濃厚に示されています。
値引き根拠なく
森友疑惑の中心は、安倍首相夫人が名誉校長だった小学校建設用地のために、国有地が格安で払い下げられたことにあります。
この国有地の鑑定額は9億5600万円でした。そこから約8億円値引いて森友学園に売却。値引きの理由は、地下に埋まっていたゴミの撤去費用です。
日本共産党の辰巳孝太郎参院議員は値引きの根拠となった試掘現場の写真21枚を国交省から提出をうけました。写真では、ゴミや穴の深さもはっきりと判別できません。ゴミがあったとする根拠が問われています。
財務局職員が「ゼロに近い金額まで、努力する作業をしている」と森友学園側に語ったとする録音データの存在も取りざたされています。
これだけの事実がつきつけられても、安倍首相は「捜査当局が明らかにしていくだろう」と人ごとのように述べるだけです。
内部文書に「総理ご意向」
「加計」疑惑
関与証言次々と
加計学園の加計孝太郎理事長と安倍首相が親しい関係にあることは官僚たちの間で有名でした。
文部科学省の前川喜平前事務次官は、和泉洋人首相補佐官から、「総理は自分の口からは言えないから、私が代わりに言う」と加計学園の獣医学部設置をすすめるよう求められたと証言しています。
これに対し和泉補佐官は国会で、「記憶はまったく残っていない」と答弁。明確に否定できませんでした。
文科省の内部文書でも内閣府幹部が、獣医学部の早期開学は「総理のご意向」と語ったことが記されています。菅義偉官房長官は当初「怪文書」と否定しましたが、実際に文科省の内部文書であることが確認されました。
安倍首相は「私が関与したと言った方は一人もいない」としています。しかし前川氏は実名で証言し、文科省の記録も明瞭です。片や首相周辺は「記憶にない」「記録がない」と逃げるばかり。安倍首相の説明はまったく説得力がありません。
議事録「隠ぺい」
獣医学部の規制緩和を決めた国家戦略特区諮問会議について安倍首相は、「ワーキンググループなどのプロセスはすべて公開されている」としています。
15年6月5日に愛媛県、今治市の担当者が出席したワーキンググループの会合が開かれ、加計学園の関係者3人が同席しました。
ところが公開された議事録からは、加計学園関係者の氏名、発言が記載されず、隠された状態になっていました。「公開」どころか「隠ぺい」した形です。
「加計ありき」
安倍首相は獣医学部新設について加戸守行元愛媛県知事が国会(7月10日)で「ゆがめられた行政が正された」と述べたことを頻繁に紹介しています。
加戸氏は今治市が国家戦略特区を申請した15年には知事をおりています。官邸、文科省、内閣府の内部交渉にはかかわっておらず、加戸氏の発言に重きを置くのはすり替えです。
他方で、安倍首相は重要な加戸氏の国会発言を紹介していません。加戸氏は「愛媛県にとっては12年間加計ありきだった」と、加計学園を前提にしていたことを明らかにしました。
内閣府は「加計学園ありき」ではない、と国会で説明してきました。実際には愛媛県、今治市は加計学園を前提に進んでおり、政府答弁が虚偽だった疑いがあります。
昭恵氏・加計氏 証人喚問を
森友、加計の両疑惑の核心は、首相と妻の友達が優遇されたのではないか、ということです。当事者である昭恵氏と加計理事長はいまだ公の場で説明していません。真相解明のためには、安倍首相が代弁するのではなく、両氏の証人喚問が必要です。