見たこともないような大暴走
長く国会を取材していても見たこともないような大暴走です。衆院本会議が午後1時から予定され開会をめぐって話し合いが行われている最中に、もともと日本共産党と民進党が開催に同意していなかった衆院TPP特別委員会を、塩谷立委員長の職権で、本会議の閉会後1時半からとしていた日程も無視して突然開会、共産、民進両党の抗議を押し切って審議を空回しし、反対した党の質問時間が過ぎたとして採決を強行したのです。国民の多数が反対する環太平洋連携協定(TPP)承認案などを強行するためだけの異常な議会制民主主義の破壊は許されません。
資格問われた山本農水相
安倍晋三政権が今国会での成立に執念を燃やしてきたTPP承認案と関連法案は、今国会冒頭から、自民党の理事(辞任)や、担当閣僚の一人である山本有二農水相が「強行採決」を口にする異常な委員会運営が続いてきました。自民、公明の与党は、地方公聴会の日程を強行するなどのルール違反を繰り返したあげく、中央公聴会開催などの約束を踏みにじって採決を持ち出してきたのです。
しかも1日までに衆院を通過させ、今国会の30日までの会期中に協定を自然承認させようとした策動が実現できなくなると、持ち出してきたのが休日前後の2日と4日に委員会と本会議での採決を強行する日程です。ところが、それをも困難にしたのが先に「強行採決」をけしかけて「陳謝」に追い込まれた山本氏の新たな発言です。
山本氏は自ら「陳謝」し「取り消し」た「強行採決」発言を、「冗談」で「首になりそうになった」などと発言したのです。行政府の大臣が立法府に「強行採決」をけしかけるような発言が、「冗談」で済まされるわけはありません。度重なる暴言の山本氏に大臣としての資格も資質もないのは明らかであり、事態は安倍首相自身の任命責任にかかわります。野党が山本氏の発言に反発して辞任を求め、山本氏が出席する委員会の日程強行に反対したのは当然です。
2日の委員会開催は見送り、委員長職権で開かれた4日午後の委員会の冒頭、山本氏は改めて発言を「陳謝」し「取り消し」ました。しかし、口を開けば問題発言を繰り返し、批判されれば口先だけで「陳謝」して見せるような人物に、政治を担う資格がないのは明らかです。相次ぐ問題発言については自民党内からも批判の声が上がるほどです。山本氏を農水相の地位にとどめるのは、文字通り国会と内閣への信頼にかかわります。
しかも本会議の日程が決まっていたのに、それを押しのけて委員長職権で委員会を開催するなどほとんど聞いたことがありません。開会を強行した塩谷委員長など与党が、議会制民主主義の重大な破壊を強行した責任をあいまいにすることは許されません。
国民のために廃案こそ
安倍政権がこれほど無理に無理を重ねてTPP承認案などを強行するのは、アメリカ大統領選の候補者がTPPに反対しているのを見越しオバマ政権が任期中に承認するよう督促するためです。それこそアメリカを向いたものです。
アメリカのためではなく国民のことを考えるなら、TPPは徹底審議のうえ廃案にすべきです。山本農水相や塩谷委員長らの責任を明確にすることも不可欠です。
共産・民進など野党抗議
― 議長「平穏でない」 本会議開けず
共産、民進、自由、社民の4野党が抗議するなか、自民、公明と維新の3党は4日、衆院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会で、TPP承認案・関連法案を強行採決しました。しかし、この一方的な委員会開会や採決に対して野党が強く抗議するなか、衆院議院運営委員会理事会は同日夕、予定されていた本会議の開催を見送ることを決めました。
政府・与党が当初狙っていた今週中のTPP承認案・関連法案の衆院通過は見送らざるを得ない局面に追い込まれました。同日の同特別委員会は塩谷立委員長が2日に職権で開催を決定。議運理事会で本会議開会をめぐる協議が続いている最中に、国会の規則を破って特別委員会が一方的に開会されました。
議運理事会では、佐藤勉委員長が「TPP特別委員会を開く状況に至っていない。与党に努力を求めたい」と言明していました。
この事態をうけ、共産、民進、自由、社民の野党4党は、大島理森議長、川端達夫副議長、佐藤議運委員長に、同特別委員会での強行採決を認めないよう申し入れました。
大島議長は「決して平穏な状況のもとで採決が行われたわけではないと認識している」と言明しました。
TPP特別委員会後に再開された議運理事会で佐藤委員長は「野党から話があったが、いい方向に進まず、責任を感じている。さらに混乱したことをおわびしたい」と陳謝。同日の本会議開催は見送ることが決まりました。
これに先立ち、共産、民進、自由、社民の野党4党は同日午前、国会内での国対委員長会談を開き、暴言を繰り返した山本有二農水相に対する辞任要求に対し、与党・政府が何ら回答していないことに抗議。こうした状況のもとで特別委員会を開くことはできないと確認し、野党が結束して対応することを確認していました。
未来守るため力合わせ
自民、公明、維新の各党が環太平洋連携協定(TPP)の承認案・関連法案を衆院特別委員会で強行採決した4日、「TPPを批准させない!全国共同行動」は終日、国会前で抗議行動を行いました。「強行採決認めない」「TPPを批准させない」「山本(農水相)やめろ、安倍(首相)もやめろ」と怒りの声をあげました。
衆院第2議員会館前には、「国民の疑問に答えないまま/採決強行絶対許されない」の横断幕も。大阪府や秋田県などからの参加者や、赤ちゃんを連れた母親らの姿がありました。抗議の列は、参院議員会館前まで伸びました。
アジア太平洋資料センターの内田聖子事務局長は「採決の強行は、民主主義への冒とくだ。他のTPP参加国の市民とも連帯し、必ず阻止しよう」と呼びかけました。全国食健連の坂口正明事務局長は「強行採決は、政府・与党が追い詰められたことの表れだ。葬り去るまでたたかおう」と述べました。
生協パルシステム東京の野々山理恵子理事長は「世界中で反対する声があがっている。99%の一般市民と1%のお金もちとのせめぎあいだ。子どもの未来を守るため、力を合わせよう」と訴えました。
日本共産党、民進党の国会議員が駆けつけました。共産党の畠山和也衆院議員は暴挙を糾弾し、阻止にむけた共同を呼びかけました。
この日は、ツイッターによる告知に呼応して、市民たちが午後8時から国会正門前で抗議の声をあげました。