マツダ労働者のたたかい
「派遣切り」された労働者を正社員と認める画期的な判決を山口地裁でかちとったマツダの労働者たち。判決は、非正規雇用労働者の「希望のともしび」になっています。「広島高裁でも勝って、希望を広げたい」。労働者たちは、新たな決意で新年を迎えました
たたかいは6年目に入りました。原告団事務局長の佐藤次徳さん(48)は、大忙しで全国を飛び回っています。労働組合や弁護士の集まりに呼ばれているからです。自分や仲間の働く実態や一方的に解雇された悔しさを語っています。
安倍政権が、正社員と認めた判決の成果を台無しにするような、派遣労働者を永続的に使い続けられる派遣法改悪の方向を打ち出しています。「ずっと派遣で働き続けるとはどういうことか、リアルに知ってもらいたい」
佐藤さんは5年半、派遣可能期間を超えてマツダで働きました。解雇されて一時期は、福岡県の実家で母親もパートを雇い止めとなり、親子で生活保護を受ける状況にまで追い込まれました。
ユニオン山口に加入したマツダ労働者でつくる原告団は、会議を山口市と「九州プラス下関方面」に分けて開催し、原告団ニュース「団結」を送って励ましあっています。
「安倍政権のやっていることは、“正社員をなくして全員派遣でいい、正社員もいつでも解雇していい″というようなものです」と怒る男性(56)。原告最年長です。解雇後、生活が安定せず、何度も引っ越しを繰り返しました。元教員の支援者から空き家屋を間借りして、やっと落ち着くことができました。
夫婦で一時ホームレスになり、車中泊に追い込まれたこともある男性(49)は、現在同じ職場で働く原告同士で勤務シフトを譲り合って、宣伝などに参加する時間をつくっています。「妻も、裁判闘争を理解して何もいわないでいてくれます」
原告団の名物、手作り・無添加のマドレーヌをつくる男性(43)も「正社員が当たり前で、例外中の例外だったはずの派遣が、“派遣は一生使い続けるもの”にされてしまえば、私たちの裁判も厳しい。世論に訴えて理解を広げたい」と語ります。
流れ変えた「派遣切り」裁判判決
おれたちマツダ正社員
マツダ防府工場(山口県防府市)で2008年秋から強行された「派遣切り」に対して、ユニオン山口に加入した労働者15人が提訴し、昨年3月、山口地裁判決で13人が正社員として認められました。会社が控訴して、広島高裁で控訴審が続いています。
支援呼びかけ
マツダ原告団とマツダ共闘会議は、控訴審のはじまった昨年10月から、山口市内の商店街で裁判支援を呼びかける署名宣伝を開始しました。
「派遣切り」が起こって5年。「そんな裁判が山口県内であったなんて知らなかった」といって署名する人もいます。そんな声にであうと、原告団の佐藤次徳事務局長は「さらに世論を広げている」と実感します。
山口地裁で審理が続いていた2010年1月から13年2月までは、防府駅前での宣伝を115回おこないました。最初は、いぶかしげに見ていた市民も、次第に近づいてくるようになり、友だちをつれてきて署名してくれる人もあらわれました。のべ1062人が宣伝に参加し、9574人から署名を集めています。これが勝利への力となりました。
全国で起こった「派遣切り」「非正規切り」裁判は、松下プラズマディスプレイ裁判で最高裁が09年12月に、派遣先企業の雇用責任を免罪する不当判決を出して以来、違法の実態に目をつぶる「労働者敗訴」の判決が相次いでいました。マツダ山口地裁判決は、この流れを変える画期的判決でした。
労働者派遣法では、企業が派遣労働者を働かせる場合、「臨時的、一時的な場合に限る」とされています。正社員を派遣労働者に置きかえてはならないという「常用雇用の代替禁止」の原則があるからです。
偽装で“制度”
マツダは派遣会社と共同して派遣労働者を3カ月と1日だけ直接雇用の「サポート社員」にして、また派遣に戻すという「クーリング期間」の偽装で、派遣可能期間の3年を超えて働かせる“制度”をつくりあげていました。そして、一時的に景気が変動して仕事がなくなったら、雇用確保の努力もせずに解雇しました。
山口地裁判決は、「常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定する施策」だと断罪し、原告たちを正社員と認めました。
佐藤さんは、「ずっとマツダと向き合っているから、職場への愛着がわいているんです。正社員だと認める判決を受けて、『おれたちはマツダの社員だ』という意識があります」と心境を語ります。
原告同士で集まれば、「今度の新型アクセラは格好いいな」と話に花が咲きます。アクセラは防府工場で製造し、世界に売り出しているマツダの主力車種です。
マツダがスポンサーになっているJ1サンフレッチェ広島の活躍にも熱くなりました。
原告団と支援者は、広島高裁に出廷するときなどにあわせて、広島県府中町にあるマツダ本社前でも宣伝しています。会社から監視の目が光っているなかでも、労働者が次つぎとビラを受け取っていき、1時間で1300枚ほど配りきります。正規と非正規をこえた労働者の連帯で、職場復帰をめざしています。
解雇撤回勝ち取る
2013年 労働者・労組のたたかい
2013年は、派遣切りされた労働者の正社員化や、国による解雇を取り消させるなど、労働者、労働組合のたたかいが新しい変化をつくりだしました。アスベストや過労死なども重要な成果をかちとっています。
正社員と認定
マツダ防府工場(山口県)を「派遣切り」された13人が3月、正社員と認定する画期的な勝利判決を山口地裁でかちとりました。
退職強要中止
絵=井上ひいろ |
早期退職を迫る“面談”を繰り返してきた半導体メーカー、ルネサスエレクトロニクスでは、電機・情報ユニオンのたたかいで、“面談”を中止させ、9月には事実上の指名解雇を回避させました。
解雇取り消し
社会保険庁の解体・民営化にともなう職員525人の分限免職(解雇)問題で、人事院が4回の判定をだし、不服審査請求した人のうち34%にあたる24人の解雇を取り消しました。
長期争議和解
ネッスル日本労働組合と兵庫労連は10月、世界最大の総合食品メーカー「ネスレ」社と和解。82年に組合分裂が仕掛けられて以来、31年にわたる労働争議。全労連も確認書に署名し、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」にそって解決した国内最初の例です。
雇い止め撤回
改定労働契約法により有期雇用で5年たった労働者に無期限雇用への転換を求める権利が与えられました。その5年で雇い止めにする動きがありましたが、各地の運動で撤回させています。琉球大学では3月、非常勤講師の契約更新を5年上限とする提案を撤回させました。徳島大学では4月、労働組合の運動で約千人の有期雇用職員を無期雇用に転換。早稲田大学でも8月、団体交渉で、非常勤講師を半年間休職させて再雇用する脱法はしないと約束させました。
労働災害認定
泉南アスベスト第2陣訴訟で大阪高裁は12月、国が被害者に対して直接的な責任を負うとする画期的な判決をだしました。
胆管がんでは3月、印刷会社の元従業員ら16人について労働基準監督署が初めて労災を認定。この流れが全国各地に広がりました。
過労死・過労自死では、教員の公務災害を認定させました。民間企業の過労死で東京地裁は、過労死認定基準(月80時間以上の残業)を下回る残業での労災を認定しました。
日航パイロット不当解雇控訴審が結審
日本航空にパイロットと客室乗務員の解雇撤回・原職復帰を求める裁判の控訴審は26日、東京高裁(三輪和雄裁判長)でパイロット原告団の第5回口頭弁論が行われ、結審しました。判決予定日は6月5日です。
原告3人と原告代理人が最終陳述で、会社が労働組合活動家を解雇するため、安全を脅かし、パイロットの誇りを奪ったのかを明らかにしました。
20歳の息子が傍聴するなか陳述した近村一也航空連議長は「会社の業務指示で、航空機関士からパイロットに変わった結果、高年齢の副操縦士となって解雇された。収入を絶たれて家族を巻き込まれた。外国航空に単身赴任している」と訴えました。
羽田沖事故(1982年2月)の翌月入社した近村さんは「ものをいう労働者の排除は、安全を支える基盤を切り崩す。日航の過去の連続事故が証明している」と強調しました。
自衛隊出身の斎藤晃さんは「国策で、30代後半に民間に移籍し、機長昇格前に年齢が高いと解雇された。自衛隊出身者が多数訴えたのは、解雇が理不尽だからだ」と強調。「労働組合は無縁だと思っていたが、解雇され、多くの支援を受けた。私たちが命がけで守ってきた日本は、労働者が尊重される社会でなければならない」と訴えました。
傷病基準で解雇された倉町公爾(こうじ)さんは「労災を国が認定しても、社内手続きをとらず、解雇された」と告発。「パイロットは、時差や不規則勤務で一時的に乗務できなくなる。それを、勤務態度が不良だったかのようにいって解雇するのは不当だ」と強調しました。
堀浩介弁護士は、844人を削減すべきところ、すでに900人以上も削減した事実を隠して解雇したのは会社の権利乱用だと強調。会社側が自ら主張してきた数字を結審直前に突然「不正確」だったといい出したことを批判しました。
会社が労働組合と約束した解雇回避努力の約束を破り、辞めさせたい組合員から仕事を奪うなど数々の不当労働行為、信義則違反を指摘し、「この解雇は無効だ」と強調しました。
早大が不当労働行為
首都圏大学非常勤講師組合(東京公務公共一般労働組合加盟)と同組合早稲田ユニオンは26日、早稲田大学が団体交渉の進展を妨害し、組合差別を行ったとして、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てました。
早大は、有期雇用労働者が5年以上継続して働けば無期雇用に転換できるとした改定労働契約法の規定を回避するため、非常勤講師らを5年上限で雇い止めにする就業規則制定を強行しました。
組合側は、就業規則制定の手続きに、当事者の意見を聞かない重大な問題があると主張。第1回団交(3月19日)では、早大側の人事担当常任理事が自らの問題を認めました。ところが、次の団交からこの人事責任者が欠席し、弁護士が代理人となって「問題なかった」とこれまでの話し合いをくつがえしました。
組合側は、団交申し入れに対しても早大が回答を遅延し、早期開催の求めに応じないなど不誠実だとしています。
組合員100人を超えた早稲田ユニオンが組合室確保を求めたところ、専任教員の組合には要求したことのない名簿提出を要求してきました。組合側は非正規雇用に対する差別待遇だと批判しています。