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教員をこれ以上、長時間働かせるのか ― 「1年単位の変形労働時間制」導入に強く反対する

2019-11-01 | 人権・生存権・労働者の権利を守ろう

2019年10月21日

 「1年単位の変形労働時間制」導入に強く反対する(PDF) 政策全文PDF (両面印刷)

 教員の長時間労働は依然として深刻で、過労による休職や痛ましい過労死があとをたちません。最近では、教員志望の学生が減り始めています。教員の長時間労働の是正は、まさに日本の教育の現在と未来のかかった国民的課題です。

 ところが、安倍政権は公立学校の教員に「1年単位の変形労働時間制」(労働基準法32条の4、現在は民間事業所のみ対象)を導入する法案を臨時国会に提出しました。これに対し、当事者の教員たちから「勤務がもっと長くなる」と怒りの声があがっています。以下、「1年単位の変形労働時間制」導入の問題点を述べ、導入を許さない世論と運動を広げることを呼びかけます。

 

一、問題を解決するどころか、平日の長時間労働を固定化、助長する

 「1年単位の変形労働時間制」とは、「繁忙期」に1日10時間労働まで可能とし、「閑散期」とあわせ平均で1日当たり8時間に収める制度です。しかし、人間の心身は、「繁忙期」の疲労を「閑散期」で回復できるようにはなっていません。「1年単位の変形労働時間制」は、人間の生理にあった「1日8時間労働」の原則を破る、労働時間法制の改悪です。日々の労働時間の削減が課題なのに、このような制度で問題が解決するわけがありません。

学期中の労働時間がさらに長くなる

 政府の制度導入の唯一の理由は、学期中を「繁忙期」とする代わりに、夏などに教員の休みを増やすというものです。

 しかし、学期中を「繁忙期」にすること自体が、教員の働き方をさらにひどくするのです。例えば現在の退勤定時が午後4時45分なら、それが6時、7時になります。これまで午後4時45分終了をめどに設定されてきた会議が6時、7時まで可能となり、教員はそれから授業準備などを行うことになりかねません。まさに、長時間労働を固定化し、助長するものです。

 育児や介護との両立も困難になり、今でも少ない生活時間がさらに削られます。変形労働制撤回を求めるネット署名には、「制度を入れるのなら、教員をやめる」などの若い教員の切実な声が書き込まれています。政府はこうした声を重く受け止めるべきです。

さまざまな弊害と矛盾

 「1年単位の変形労働時間制」には、他にもさまざまな弊害や矛盾があります。

 学校は、子どもの状況などで臨時的な対応が絶えず求められる職場です。しかし、この制度では、最低でも向こう30日間の日々の労働時間を、その初日の1カ月も前に決め、途中での変更が許されません。8割の教員が、こうした制度は「現実的でない」と答えています(「連合」調査)。勤務時間を超えて働いた分、別の日の勤務時間を減らすという「勤務の割り振り変更」も認められなくなります。

 また現行法では、制度導入に職場ごとの過半数の労働者の同意が必要です。しかし、法案では各自治体の条例で定めるとされ、教員の意思が無視される恐れがあります。

 さらに「1年単位の変形労働時間制」の施行(1994年)の際の通知は、労働時間短縮の観点から、導入の前提として「恒常的な残業がないこと」をあげています。恒常的に法外な残業がある公立学校は、導入の前提がないのです。

 

二、「教員の夏休みのため」という唯一の理由は成り立たない

政府の宣伝のようには、休みはとれない

 では、「1年単位の変形労働時間制」を導入すれば、政府の言うように、まとまった休みがとれるのでしょうか。

 今の学校は子どもの夏休み中も連日のように業務があり、年次有給休暇の消化すらできないのが現状です。「今のまま休日を設定しても、実際には休めない」と多くの教員が指摘しています。また、仮に夏の業務が減って休みがとれるようになった場合、今度は各自の代休や年休等を使う機会がなくなるという問題に直面します。休みをとれるようにする点でも、「1年単位の変形労働時間制」はまったく道理がありません。

業務削減と代休等の保障こそ、休みがとれるようになる道

教員が夏にまとまった休みをとることは、私たちも大賛成です。教員のリフレッシュは、教員の健康と生活にも、子どもの教育の充実にも、積極的な意義があります。

 私たちは、そのために次の二つの方向を提案します。

 ①行政研修、部活動の各種大会などの夏の業務を大幅に削減し、基本的に教員の義務的な業務が入らない、学校閉庁日等の休暇を取得しやすい期間を設ける。

 ②休日出勤や超過勤務に対する代休確保を厳格に行う(年休とあわせれば、まとまった休みとなりうる)。

 これらは国も認め、現行制度の運用で可能です。例えば岐阜市は、行政研修の削減などで16日間の学校閉庁日を実施し、休みがとれるようになり、歓迎されています。

教員の自主研修の保障

夏は、自主研修にとっても大切な時期です。教員の研修とは、一般公務員の能率向上のための研修ではなく、「研究と修養」であり、自主性が基本であることも確認された、教員の大切な職務です。行政は、自主研修をおおいに奨励すべきです。

 

三、全国各地で「1年単位の変形労働時間制」を許さないとりくみを

 以上述べたように、「1年単位の変形労働時間制」は百害あって一利なしの制度であり、導入理由も成り立ちません。公立小中学校を擁する市区町村教育長も42・2%が導入に反対し、賛成は13・6%です(「日本教育新聞」1月7日号)。

 ――全国各地から、「1年単位の変形労働時間制やめよ」の声を、署名をはじめさまざまな形で政府・国会にとどけましょう。すでに民間職場では、制度を導入した職場の方が長時間労働の傾向です。公立教員への導入は、民間職場への導入に拍車をかけ、公務職場に波及する危険もうむ、労働者全体の問題です。

 ――「1年単位の変形労働時間制」導入には、都道府県や政令市の条例改正も必要です。自治体が条例を変えない決断を行うことが重要です。各学校でも導入しない決断が重要です。国は制度導入の圧力をいっさいかけるべきでありません。

 

四、政府は、長時間労働をなくす抜本的な対策をとれ

 今回、「1年単位の変形労働時間制」導入で改正されようとしている法律は、公立教員給与特別措置法(給特法)ですが、この法律こそ「残業代ゼロ」を定めた法律です。

 給特法は1971年、公立教員の給与を4%増額調整する一方、残業代を不支給とすることを眼目に、自民党が当時の全野党の反対を押し切って強行した法律です。

 残業代の支給は、労働基準法37条で定められた長時間労働を防ぐ重要な制度です。その制度を公立教員に限って適用除外としたことが、長時間労働の要因の一つとなったことは明らかです。4%増額の根拠は当時の平均残業時間(週1時間14分)でしたが、現在の残業時間はその十数倍に達するなど、法は現実と完全に乖離(かいり)しています。

 給特法は、労働基準法37条の適用除外の規定や残業代不支給の規定を削除し、公立教員に残業代を支給する抜本的な改正こそ必要です。その際、4%の調整額が教育労働の特性に見合うものとして維持されることは当然です。

 教職員の長時間労働の是正には抜本的な対策が必要です。日本共産党は昨年11月、①授業数に比べあまりに少ない教員の定数増、②国・自治体、学校の双方からの不要不急の業務の削減、③「残業代ゼロ」を定めた法律を改めるなどを提案しました(「教職員を増やし、異常な長時間労働の是正を」)。これらは全国の教育関係者の要求とも合致したものです。政府はこうしたことにこそ、真剣にとりくむべきです。


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