国家戦略特区の特例で獣医学部新設を進める学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)が、自民党の下村博文元文科相(都連会長)側に持参した計200万円のパーティー券代を「学園と関係のある個人や会社」のものと認めました。計200万円が払われた2013、14年は下村氏が文科相のときです。現職閣僚に突然、多額の政治資金が渡った意味とは―。
「特区」決定との関係 説明を
「ターニングポイントは、12年12月に第2次安倍政権が成立し、下村氏が文科相に就任したときだ」。経緯を知る自民党関係者はそう振り返ります。
愛媛県今治市は07年から計15回、加計学園の獣医学部新設を構造改革特区に申請しましたが、認められませんでした。当時、文科省は獣医学部の新設を告示で禁じていました。獣医師は足りていると判断していたからです。
一転して学部新設
一転して獣医学部新設を可能にした裏にどんな動きがあったのか―。
加計学園の加計孝太郎理事長は14年3月13日に、獣医学部新設に反対していた公益社団法人「日本獣医師会」を訪れました。同会の北村直人顧問(自民党元衆院議員)は、証言します。
「加計氏は自信たっぷりで『獣医学科をつくりたい』と述べていた。私は安倍首相と親しいことは加計氏から聞いていたので、『安倍さんに獣医師会にあいさつにいけとでも言われたのか』と聞いたが、返事はなかった」
14年10月17日には下村氏と加計理事長が東京・赤坂の料理屋で会食。愛媛県選出で、加計学園の獣医学部新設をよく知る塩崎恭久厚労相と山本順三参院議員が同席しました。
愛媛県と今治市は、内閣府からの助言も得て15年6月4日に国家戦略特区を申請。直後の6月30日には安倍政権が、獣医学部新設の検討をすると閣議決定に盛り込みます。
風穴を開けたのは
この閣議決定は、獣医学部新設のためには、既存の獣医師養成でない構想であることなど四つの厳しい条件を付けます。他方で、新設を禁じてきた政府の姿勢に風穴を開けるものでもありました。
文科省関係者は、「閣議決定だから下村文科相も当然、同意している」と説明します。
下村氏は文科相就任前から加計理事長と面識がありました。ただ『週刊文春』によると自民党が野党だった12年9月に加計学園が購入したパーティー券は20万円。それが文科相就任後の13、14年には、秘書室長(当時)が現金100万円をわざわざ事務所まで持参したのです。加計学園との関係の深さを証明した形です。
下村氏が6月29日の会見で配布した3枚の「コメント」には、加計学園側から国家戦略特区で獣医学部新設の依頼があったかどうか一切触れていません。下村氏の説明責任が問われています。
安倍政権は底抜け
官邸、「腹心の友」を後押し
加計学園の獣医学部新設をめぐる疑惑の輪に新たに加わった自民党の下村幹事長代行は、一足先に名前が挙がった萩生田光一官房副長官と同様、安倍首相の最側近の1人と目される人物です。改憲・右翼団体「日本会議」国会議員懇談会の役員を務めるなど、タカ派的思想で首相と共鳴し、第1次政権で官房副長官、第2次政権では文科相を歴任しました。
官邸一丸で強力に
加計学園問題に名を連ねる人物たちの相関図から浮かんでくるのは、首相の「腹心の友」であり、下村・萩生田両氏の知人でもある加計氏が理事長を務める同学園を、官邸一丸となって強力に後押しする構図です。同学園にしか通れない穴が“安倍人脈”によってうがたれたのではないかという疑惑です。
下村氏は、加計氏について「特別親しいわけではない」(6月29日の会見)といいます。しかし、文科相時代、下村氏の妻は「広島加計学園の益々(ますます)のご発展を心よりご祈念申し上げます」とのコメントを同学園に寄せていました。
獣医学部新設の認定要件に、加計に有利となる「広域的に」という文言を加えるよう指示した疑いが持たれている萩生田氏は、2009年総選挙で落選した後、加計学園系列の千葉科学大学の客員教授を務めていました。国政復帰後も名誉客員教授の肩書を持っています。
「官邸は絶対やる」「総理は『平成30年(2018年)4月開学』とおしりを切っていた」などと、開学時期を明示して文科省に対応を迫っていたことを記した文書「萩生田副長官ご発言概要」も明らかになっています。
萩生田氏は、国会では「『腹心の友』か確認したこともないし、承知もしていない」(16日、参院予算委)などと語っていました。しかし、萩生田氏のブログに、13年5月に首相や加計氏と一緒にバーベキューを楽しむ写真が掲載されているなど、「(首相と加計氏の関係の深さを)最近承知した」(16日、参院予算委)というのは説得力に欠けます。
究明へ臨時国会を
13年から3年連続で安倍首相の代理人として8月15日に靖国神社に「玉ぐし料」を奉納するなど、右翼的な共鳴という点でも下村氏と共通しています。
「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っていること」と記された文科省作成の文書に加え、今治市の文書でも官邸の加計ありきの姿勢を示す新事実が次々と明らかになっています。真相究明のために臨時国会を開くこととともに、関係者の証人喚問が待ったなしです。