詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

雪の日

2024年02月06日 | 
レースのカーテンを開けて覗くと
予報通りの雪
模様のように降る

困るなぁと思うのに
大人なのに
子どものようにはしゃぐ
隠れた気持ちがある

ちょっと買い物行ってくる なんて
さっきも出かけて帰ってきたばかり

迎え雪
暗くなり始めた空から
バッティングセンターみたいに
白いつぶてがびゅんびゅん飛んでくる
こちらが速いみたい
奥へ奥へ吸い込まれていく
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架空線

2024年01月28日 | 
冬の日
太陽の重みで光の帯が空に上がり

路地は淡い色に沈み始めている

曲がるにつれて

折れるにつれて

壁が金色に塗られたり

梅が咲いたりなどする


文学者二人の対談を聞いていた

寒さに負けていたのか

温かい室内では溶け出した泥のように

わたしはうつらうつらした

書物、形、言葉、心、詩、といった言葉が

うわずみでぐるぐるしていた


外に出ると

雲ひとつない青空に知らされる

冷たい空気と

それを留めさせない風と

縮こまる体にも

よくみると芯に温かさがあって

わたしはろうそく


文学者二人の話を聞きながら

その背景に

ろうそくのような

ペンキのような

粘土のような

でたらめなしみを見た

それがわたしだと思った

いろんな時にいろんな場所に

ベシャッと投げつけられるひろがり


わたしの人生

と光の届かない道で思うと

不思議な気がする

他の誰にとっても

わたしの「わたしの人生」は他愛無い

見えもしない

誰にも見えないわたしの夢

それが暮れ方に向かう

夢というのはどこを見ているのだろう

わたしは生き物なのだろうか

***

2024.1.27

堀江敏幸(作家)・澤直哉(ロシア文学者)

『架空線』刊行記念 トークイベント

「書くことのかたちー文学と書物を再考する」

を聴講して

コメント (2)
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みかん

2024年01月11日 | 

部屋を流れる朝の光の川

その中洲にたたずんで

みかんの皮をむく

皮にくっついた薄皮がむけ果肉があらわれる

まだむかれていないほうの丸い皮の外側に

橙色を消さない透明なしずくがひと粒


こんなつるりとした肌の内側に

こんな涙をためていたなんてとあらわれる明かり

その汁を味わいたいと手にとったみかん

偶然の重なる傾きではじめて見えること

そのときわたしは時間と光のプールを泳いでいた

目はいつも開いている

ただまぶたが

すべてを見ないですむために蓋をしているだけ

ひとみの丸みにやさしく沿うように


涙で覆われている地球

その丸みにやさしく沿って

こぼれ落ちずずっと湛えてられているしずく

いつもうるおっている

無数の情報のプールに浸る

そのうるおい

閉じられることのないまぶた

代わりに夜がゆっくりひと回りする


外側にしかいられないわたしたち

いっしょにいたくて

こぼれるときもその丸みに沿って流れる

瞬きはやさしく

小鳥のまつげのように繊細に

ときどき感じてほしくて

あなたの手の甲にまつげを沿わせる

主に夜

新しい感覚が眠り

親しい感覚がそっと目覚めるじかん

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読むこと、書くこと

2023年11月17日 | 
ほのかにあかく流れていく時間を
日々惜しむことはできるでしょうか
空へ時間へ挑むようにそびえる建物も
冬に向かって早くなっていく一日を
引き延ばそうとがんばっている
わたしはあきらめに似た気持ちで
憧れている

毎日
読むこと、書くこと
特に、読むこと
平らなわたし
無力な人で
感じることしかできない

グラスに残った氷が溶けていく
そこから漏れだした液体を少しずつ飲む
音楽のように
流れるそれを急いで
味わってしまうことはできないの

わたしの読むことにかかる時間は
社会の回り続ける速さに
うまく噛み合わないけれど
わたしはそれで百年二百年を少しのことのように
一日や一瞬をとてもとても長く
光のように旅することを知った
冷たくてあたたかくて

どんなに急いでいても
ひとの時間は変わらない
同じ太い光の柱で
生まれてから死ぬまで焦らずに
触れることのできるもの
たくさんの紙のやわらかさ
どれほどの円を描いたことか
読みきれない文字が少しだけ広げる
樹皮のような
わたしの感受性で
伸びたり縮んだりしながら
愛することを誓います


***
早稲田祭2023
作家堀江敏幸氏によるご講演
「本を読むこと、書くこと」を聴講して
コメント (2)
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夕日の思い出

2023年11月09日 | 
北鎌倉から江ノ島まで
歩いたり江ノ電に乗ったりして
やわらかな線を結んだ
とても天気の良い日で
山を覆う木々は艶やかに葉をなびかせ
海岸の光は散乱して目に痛いほどだった

私たちは互いのこのところの
生活の変化や
考えていることを交換しあったり
景色についての感想を
順々に伝えあったりした

江ノ島の橋の袂に着いたのは
見事な夕暮れ時

じっと見守っていた夕日が
山の間に隠れてしまうと
桟橋に残る人はシルエット
海が静かに揺れていて
なだらかな無数のさざなみ一つ一つに
もうくらくなっている空にはない
淡いけれども明るい
桃色と水色を繰り返していた

私たちもひとりひとり
しずかに揺れていて
空を写し海を写して
淡いけれども明るい
桃色と水色
見分けもつかず
みずからのおもてに繰り返している

夕日が沈んでも
空と海と私たち
不思議に明るい夕暮れ
その思い出をじゅんじゅんに語り合っている
色が夜に沈むまで


*お詫び*
「いいね」をいただいた後に、うっかり
コピーをせずにそのまま大幅変更してしまいました。
申し訳ありません!
いつも「いいね」をありがとうございます😊
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