詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

眠り

2023年10月24日 | 
眠りは不思議な生き物
毎晩欠かさずわたしのもとを訪れる
わたしになんの取り柄もなく
創造力のきらめきもなく
つまらなくても
闇の中にそこだけほのかな意識となったわたしに
両側から黒い腕をからめて
広く柔らかな背中に乗せ
暗い世界で音楽のように飛翔する

境界は波のように定まらず
眠りはあいまいな生き物だから
温度を感じられることは稀
誰かの話を聞いている
けれど粒はあいまいになり
それは縁がレース飾りのように波打つ切手
ハルだけで満たされている

わたし自身の道のりで
詩にはなかなか出会えないけれど
眠りがどれほど大きなポケットを備えているのかは計り知れない
成長していく家や美しい階段
とっておきの感情を 素朴に用意しておく
込められたメッセージが
閉じられた循環でありながら
どこからでも出たり入ったりして
浸潤の容易な膜のように
「印象」という形を受け取り
与え返し
わたしを超えたものとして
ひっくり返され
わたしを包む
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不思議な

2023年09月14日 | 
「不思議な」に続く言葉を考えてみる
「不思議な」に続けて面白くなる言葉は見つけるのはむずかしいぞ
なぜなら、不思議なことに「不思議な」はどんな言葉についていても不思議じゃないからだ
巻き貝に負けないくらいのひねりが必要なのではなかろうか

不思議な時間
不思議な夢
不思議な友人
不思議な家族
不思議な家
不思議な音楽
不思議な石
不思議なストーリー
不思議な本
不思議な毎日
不思議な平凡
不思議な髪型
不思議なとうもろこし
不思議なメガネ
不思議な夜景
不思議な正解(意外とありそう)
不思議なアリバイ
不思議な変態(もともと不思議なものにつけると普通に近づく?)
不思議な未成年
不思議な怒り
不思議な気持ち
不思議な天気
不思議な電気
不思議な伝記
不思議な午前零時
不思議な宇宙人(むしろ絶対不思議なものにつけてみた)
不思議な




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月の夏

2023年07月26日 | 
地下鉄の改札を出て階段を上り
地上に出ると月がある
この季節
この時間
まもなく半月という
絵のような鮮やかさを見て
先日は三日月を見ていた
時がリングでつながる

明るいというのも違う
まるで毎日洗いたてのような光
わたし生まれたばかりじゃないよね
世界は老いることがない
いつも新しい美しさを持っている
きっとわたしたちも毎日
新しい美しさに脱皮している
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二階

2023年03月04日 | 
病院のあと
自宅の最寄り駅まで戻ってから
すぐ家に帰らず
ビル二階にある喫茶店に入った
窓に向かって置かれたソファ席に沈み
本を開く
『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』
本を開くと
同時にいろんなページが開いてしまって
信号で停まる車や横断歩道を渡る人々を
その向こうの建物やその向こうの曇っている空を
泳ぎながら
いろんな思いつきや考えごとを渡り歩いた
金本位制、利子率、株価の暴落
手綱を離した意識は暴れ馬のように
あっちの柵こっちの柵を
踏み倒し乗り越えて
驚くほど取り留めがなかった
我に返ると
心持ち斜めにした膝を折って
ソファに座っているだけだった

たるみたかったのかもしれない
若い頃はたるみが許されると計算していた
あちこちが物理的にたるみ始める40代ともなると
こころのたるみをさらけだすことははばかられた

遊びに行くでもなく
おいしいものを食べるでもなく
計画から外れて
ふいに手綱のようにたるませてみる
そういう時間が何よりのぜいたく
若い頃のように年齢を忘れて
わたしがわたしに追いつく
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からだの展開

2023年03月02日 | 
前半分を切り取った建物の構造図
開かれた階層になって
それぞれの階のあちらこちらに
いくつもの診療科が棲みついている
今年のからだ
これは物理だ
形骸化したからだとは何か
X線にアピールされて戸惑っている
わたしとは
歳を取らないこころだと思っていたのに

アイデンティティは植物の根のように
さまざまな栄養を抱き込んでモザイクみたいになっている
からだの不調さえ符牒のように
わたしを印づけるように思われてくる
こころの流れた跡と同じくらいに

診断された原因や病名
名付けられた異物が
新しい栄養素として
さっそくわたしの根に取り込まれていく

今朝、まだ明るくなったばかりの
青空に沁みながら
わたしは地上を歩いていた
はだかになった木々の挑戦的な成長の先
まだ白い光を宿している月
跡を残しながら
きっと変わらぬこの光景
そう思う間に何十年を駆け抜けて
わたしの符牒も馴染み
飛沫のように
地球になっている
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