詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

帰還

2015年04月06日 | 
わたしの体は壊れてしまい
未来はかげろうのようになった
心を浮き立たせていた
あらゆることごとがその軽さのため
鉛のように沈んでいく
すべての意味が作り直され
新しく目に映る
(けれどそれが何になるだろう)
もうわたしには何の繋がりもないということが
新しい意味を作り、酷いものにする

朝陽を浴びると気持ちがいいと
言ってくれる人がいた
彼にはわからない
わたしにとっていまや
朝陽は夕陽のように重いのだと

でもこれから先も刻まれるものがあるなら
たとえどこに記されていなくても
わたしの夢や思い出もきっと
神話のように縄の中に編み込まれ
紡がれ繋がれてゆく

ある日、商店街をぶらぶらと
ひとりをポケットに入れ
温めながら歩いていると
声をかけられた
振り返っても誰もいない

ペンキの剥げかけた壁の真ん中に
かまどほどの扉があった
錆びたその鉄の扉を開ける
軋む
覗き込めば
明るさに慣れた目は塗り潰される
獣が歩くように瞳孔がゆっくり開くと
わたしが入るのにちょうど良い大きさ
ちょうど良い暗さ
あたりを見回し
誰も見ていないことを確かめ
体を丸めて中に入り
扉を閉めた

暗闇を胸に抱けば
ああ溶けていくわたしの中に
赤い宇宙がある
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