詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

線を引く

2016年07月12日 | 
書かせたくないんだよ
と太い声が言った
太い指が細い鉛筆を
(絞め殺しそうに見える)
軽く握っている
いまはまだ余裕がある
とでも言うように

蛍光灯の光が
小さい事務所の白い壁
濁った灰色のキャビネや事務机の
面を拡げている

腰にあててそりかえる手の
太い指には毛が生えている
まっすぐでないことも
強くて重たい意志に見える
(カールは愛嬌)

顔を覗き込むようにして
言われているのは私なのに
私の視線は男の後ろに回り込んで
腰にあてた鉛筆を握る手を
影になるくらい覗き込んでいる

鉛筆がチッチッとしきりに首を振る
生意気な鉛筆め
と私は思う

聞いているのかい!
鉛筆を持っていないほうの手が
ドンと机をたたく
パチッと目を開くと
空が深々と
青を吸い込んでいくのが見える

一行が空をアア、アア
と横切っていく
カラスのように気まぐれな線を引いて

メタセコイヤの森が……
と口ごもると
ああ、そうだな
と太い声が答えた
いまどんな表情が
白髪混じりの頭と
耳と首と顎の豊かな線しか見えない
この顔のおもてを通ったのか

自分のとぐろをいかに美しく巻くか
ミリ単位で微調整するばかりなのに
図柄としては互いの尻尾を
身をよじらせて
うまく噛み合っているように見える

燃えあがった
と顔をきっと赤らめながら
言うそれは
メタセコイヤの森のこと
空のこと
それとも胸の奥に広がる街……

私は傷ついた遺伝子が繰り返し見てしまう
螺旋状の夢について
蛇行を繰り返しながら
乾いたアスファルトの上で
夢を見
鉛筆が描く線と不器用に交わっている


コメント
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