車離れもたばこ不振も、全部スマホのせいだ
スマホが奪った「異業種」のパイ
岡 徳之 :ライター Noriyuki Oka Tokyo 代表取締役
2014年02月06日
東洋経済オンライン
スマホの登場によって、カーナビや従来型のゲーム機が売れなくなったと言われている。
GPS情報を利用でき、画面が大型化し、
アプリの品質も向上すれば、置き換わるのは仕方がないだろう。
これらはスマホがその機能的な価値によって
既存の商品を代替したケースだ。しかし、
スマホの登場によって奪われた消費とは、
はたしてこれだけか。そして奪われた企業に残された奪還策とは――。
スマホが消費を奪った説は本当か(写真:AP/アフロ)
以前、こんな話を聞いたことがある。
「スマホが普及し、チューインガムが売れなくなった」
――スマホはガムのようにかんでも甘くないし、さわやかな気分 にもなれない。
この話の真偽は確かではないが、
ガムがそれまで満たしていた暇潰しの需要を
奪ったという仮説はあてはまりそうだ。
考えてみると、昨今叫ばれるたばこの不振やビール離れも、
「全部スマホのせいだ」と言えるかもしれない。
ムシャクシャしたストレスをたばこではなくスマホゲームが解消し、
飲み会の近況報告もFacebookやLINEで十分。
いつでも持ち歩けるスマホが、
異業種のパイを奪っているということはありそうだ。
スマホが奪った「3つ」の需要
電通マーケティングデザインセンターの小山雅史氏は、
スマホが奪った異業種のパイを大きく3つに大別する。
ひとつは、「機能的な価値がスマホに置き替えられた」ケース。
たとえば、カーナビや従来型のゲーム機はわかりやすいだろう。
ほかにも、年賀状の枚数が、毎年、緩やかに減っているのは、
スマホを中心に利用されるFacebookなどのソーシャルメディアで
古い友人とつながるようになり、
お互いの存在確認を日常的に行えるようになったからではないだろうか。
2つめは、スマホと「時間の取り合いになった」ケース。
従来型のゲーム機はここにも当てはまる。
本や新聞を読む人が電車の中でめっきり減ったように、
スマホの(しかも場合によっては無償で)提供する文字情報が、
本や新聞を読むという時間を取った、とも言えるだろう。
このケースに当てはまりやすいのは、
これまで「暇潰し」の需要を満たしていた商品だ、
と小山氏は分析する。持て余した時間や手持ちぶさたを、
時には寂しさを、スマホが埋めてくれているのだ。
逆にスターバックスなどのカフェやコンビニチェーンは、
「パラレル(並行)」に使用できる環境を作ることで、
時間の取り合いを回避している。
店舗にWi-Fiスポットや電源を設置することで、
スマホの「ながら利用」を前提に客を誘引している。
今後は店内でのスマホの利用状況から顧客行動に関するビッグデータを取得し、
さらなる購買行動につなげる動きも出てくるだろう。
パラレルという観点では、テレビとの相性もよい。
いわゆる、「ながら視聴」だ。
3つめは、スマホと「可処分所得の取り合いになった」ケース。
ここ数年、サラリーマンのランチ代が下がっていたと言われている。
昔はランチに700~800円使っていたが、それが吉野家やサイゼリア、
コンビニなどでワンコインで済ませるようになった。
その差額はスマホの端末代、通信代、
さらにはアプリやゲームに思わず課金してしまう
おカネに利用されているのではないかと思われる。
ユニクロやH&Mなどのファストファッションがはやったのも、
スマホがハイブランドの洋服に費やしていたおカネを奪ったからかもしれない。
一説にはクルマ離れもそうだと言われている。
若者の入門的なクルマ、一般的には新車で180万円程度のクルマを買って
自動車ローンを組むと、毎月およそ8,000円以上は支払わなくてはいけない。
その金額は、毎月のスマホ利用料金とちょうど同じぐらいか、
むしろスマホの利用料金のほうが高いくらいになる。
使えるおカネの限りがある中で、
「それだったらクルマはいらない」となる人もいるかもしれない。
価格帯が大きく異なる意外な業種の商品も、競合になりうるのだ。
時間は24時間、所得は収入次第だが、
いずれにしても「有限」であることに変わりはないのだ。
今こそ、商品の「本質的な価値」を再考するとき
だからといって「うちの商品が売れないのは、
全部スマホのせいだったのか……」と考えるのは早計であろう。
小山氏は「売れない理由は、別に
スマホが登場したから、ではない」と強く指摘する。
たとえば、たばこ。確かに「暇潰し」のお供というポジションを
スマホに奪われた側面もあるかもしれないが、
世間的な分煙の動きや健康志向の影響は、もっと大きいだろう。
たばこに使うおカネをスマホに奪われた面はあるだろうが、
それはスマホが出てきたからではなく、
有限のおカネを予算組みする際に、
さまざまな理由によっておカネを使う「優先順位」を落とされたのである
(スマホが最後の「ひと押し」になった可能性はもちろんある)。
クルマだってそうだ。
可処分所得をスマホと奪い合っているという見方もあるが、
レンタカーやカーシェアなどの選択肢が浸透していることは、
必要なときに借りればいい、というライフスタイルの中で、
クルマの購入を遠ざけている。
つまり、わざわざ「所有」しないといけない理由が薄れたものから、
消費者のウィッシュリストの中で優先順位を下げられている。
どこもかしこもWi-Fiスポットを設置したからといって、
スマホアプリでクーポンを配布したからといって、
顧客が戻ってくるのか。そうではないだろう。
消費者が所有すべき理由、それがスマホやそのほかの理由を超えられるか。
逆に言えば、企業はその理由=価値を作ることを求められている。
スマホは、「提供する商品の本質的な価値とはなにか」を、
ビジネスパーソン全員に問いかけている。
http://toyokeizai.net/articles/-/30134?page=1
なるほど、おもしろい視点だ。
奪われた産業も一工夫すれば、シェア回復もあり得ると思うが、
その一工夫がわからない。
スマホが奪った「異業種」のパイ
岡 徳之 :ライター Noriyuki Oka Tokyo 代表取締役
2014年02月06日
東洋経済オンライン
スマホの登場によって、カーナビや従来型のゲーム機が売れなくなったと言われている。
GPS情報を利用でき、画面が大型化し、
アプリの品質も向上すれば、置き換わるのは仕方がないだろう。
これらはスマホがその機能的な価値によって
既存の商品を代替したケースだ。しかし、
スマホの登場によって奪われた消費とは、
はたしてこれだけか。そして奪われた企業に残された奪還策とは――。
スマホが消費を奪った説は本当か(写真:AP/アフロ)
以前、こんな話を聞いたことがある。
「スマホが普及し、チューインガムが売れなくなった」
――スマホはガムのようにかんでも甘くないし、さわやかな気分 にもなれない。
この話の真偽は確かではないが、
ガムがそれまで満たしていた暇潰しの需要を
奪ったという仮説はあてはまりそうだ。
考えてみると、昨今叫ばれるたばこの不振やビール離れも、
「全部スマホのせいだ」と言えるかもしれない。
ムシャクシャしたストレスをたばこではなくスマホゲームが解消し、
飲み会の近況報告もFacebookやLINEで十分。
いつでも持ち歩けるスマホが、
異業種のパイを奪っているということはありそうだ。
スマホが奪った「3つ」の需要
電通マーケティングデザインセンターの小山雅史氏は、
スマホが奪った異業種のパイを大きく3つに大別する。
ひとつは、「機能的な価値がスマホに置き替えられた」ケース。
たとえば、カーナビや従来型のゲーム機はわかりやすいだろう。
ほかにも、年賀状の枚数が、毎年、緩やかに減っているのは、
スマホを中心に利用されるFacebookなどのソーシャルメディアで
古い友人とつながるようになり、
お互いの存在確認を日常的に行えるようになったからではないだろうか。
2つめは、スマホと「時間の取り合いになった」ケース。
従来型のゲーム機はここにも当てはまる。
本や新聞を読む人が電車の中でめっきり減ったように、
スマホの(しかも場合によっては無償で)提供する文字情報が、
本や新聞を読むという時間を取った、とも言えるだろう。
このケースに当てはまりやすいのは、
これまで「暇潰し」の需要を満たしていた商品だ、
と小山氏は分析する。持て余した時間や手持ちぶさたを、
時には寂しさを、スマホが埋めてくれているのだ。
逆にスターバックスなどのカフェやコンビニチェーンは、
「パラレル(並行)」に使用できる環境を作ることで、
時間の取り合いを回避している。
店舗にWi-Fiスポットや電源を設置することで、
スマホの「ながら利用」を前提に客を誘引している。
今後は店内でのスマホの利用状況から顧客行動に関するビッグデータを取得し、
さらなる購買行動につなげる動きも出てくるだろう。
パラレルという観点では、テレビとの相性もよい。
いわゆる、「ながら視聴」だ。
3つめは、スマホと「可処分所得の取り合いになった」ケース。
ここ数年、サラリーマンのランチ代が下がっていたと言われている。
昔はランチに700~800円使っていたが、それが吉野家やサイゼリア、
コンビニなどでワンコインで済ませるようになった。
その差額はスマホの端末代、通信代、
さらにはアプリやゲームに思わず課金してしまう
おカネに利用されているのではないかと思われる。
ユニクロやH&Mなどのファストファッションがはやったのも、
スマホがハイブランドの洋服に費やしていたおカネを奪ったからかもしれない。
一説にはクルマ離れもそうだと言われている。
若者の入門的なクルマ、一般的には新車で180万円程度のクルマを買って
自動車ローンを組むと、毎月およそ8,000円以上は支払わなくてはいけない。
その金額は、毎月のスマホ利用料金とちょうど同じぐらいか、
むしろスマホの利用料金のほうが高いくらいになる。
使えるおカネの限りがある中で、
「それだったらクルマはいらない」となる人もいるかもしれない。
価格帯が大きく異なる意外な業種の商品も、競合になりうるのだ。
時間は24時間、所得は収入次第だが、
いずれにしても「有限」であることに変わりはないのだ。
今こそ、商品の「本質的な価値」を再考するとき
だからといって「うちの商品が売れないのは、
全部スマホのせいだったのか……」と考えるのは早計であろう。
小山氏は「売れない理由は、別に
スマホが登場したから、ではない」と強く指摘する。
たとえば、たばこ。確かに「暇潰し」のお供というポジションを
スマホに奪われた側面もあるかもしれないが、
世間的な分煙の動きや健康志向の影響は、もっと大きいだろう。
たばこに使うおカネをスマホに奪われた面はあるだろうが、
それはスマホが出てきたからではなく、
有限のおカネを予算組みする際に、
さまざまな理由によっておカネを使う「優先順位」を落とされたのである
(スマホが最後の「ひと押し」になった可能性はもちろんある)。
クルマだってそうだ。
可処分所得をスマホと奪い合っているという見方もあるが、
レンタカーやカーシェアなどの選択肢が浸透していることは、
必要なときに借りればいい、というライフスタイルの中で、
クルマの購入を遠ざけている。
つまり、わざわざ「所有」しないといけない理由が薄れたものから、
消費者のウィッシュリストの中で優先順位を下げられている。
どこもかしこもWi-Fiスポットを設置したからといって、
スマホアプリでクーポンを配布したからといって、
顧客が戻ってくるのか。そうではないだろう。
消費者が所有すべき理由、それがスマホやそのほかの理由を超えられるか。
逆に言えば、企業はその理由=価値を作ることを求められている。
スマホは、「提供する商品の本質的な価値とはなにか」を、
ビジネスパーソン全員に問いかけている。
http://toyokeizai.net/articles/-/30134?page=1
なるほど、おもしろい視点だ。
奪われた産業も一工夫すれば、シェア回復もあり得ると思うが、
その一工夫がわからない。