女子大が渋谷移転で志願者激増
大学の“都心回帰”がブーム
〈週刊朝日〉dot.
2014年2月9日 11時30分
(2014年2月9日 11時52分 更新)
1970年代から郊外にキャンパスを移した大学が、
2000年代になって、都心に戻り始めている。
今年は実践女子大が東京郊外の日野キャンパスから渋谷キャンパスに移転する。
文学部と人間社会学部、今年名称変更する実践女子大短期大学部の全学年など、
4,300人のうち2,600人規模の大移動となる。
安達勉常務理事は、「渋谷が持つダイナミズムを教育に生かしたい」と抱負を語る。
たとえば渋谷周辺には根津美術館などの美術館や博物館も数多くあり、
文学系学部では作品に触れながら芸術や文化を学ぶことが容易になる。
社会系学部では企業と連携することで、
実践的な学習を取り入れていく予定だ。
渋谷の17階建ての新校舎は、中央が9階までの吹き抜け、
廊下はガラス張りという開放的な空間。
キャンパス移転の効果で、昨年に比べて志願者が、
文学部をはじめとして複数の学部で30%以上増えた。
このほか、立正大の法学部が埼玉県熊谷市から品川区に移転。
東洋学園大は、今までは1・2年次は千葉県の流山キャンパスで学んでいたが、
今春からグローバル・コミュニケーション学部、
現代経営学部の学生は4年間、文京区の本郷キャンパスで学べる。
交通アクセスが良く、文化、遊興施設が整っている都心部は、学生にとって魅力的だ。
アルバイトや就職活動に便利な面もある。
「多様な入試や新設学部・学科が志願者増につながるのはある程度のレベル以上の大学ですが、
都心へのキャンパス移転は確実に志願者が増えます」
(駿台予備学校情報センターセンター長の石原賢一氏)
都心回帰の動きは首都圏に限らない。
愛知学院大も今年、本部のある日進キャンパス(愛知県日進市)から、
一部を名古屋市の中心部に移転する。
名古屋城のある名城公園に隣接しており、
近くには市役所などが立地する一等地だ。
移転するのは、商学部と経営学部、
13年に新設した経済学部のビジネス系3学部で、
2年生以上が専門教育を受ける。
「都心部に移転することで、企業とタイアップしやすくなる。
移転をきっかけに企業とコラボし、
アクティブラーニングを進めていきたい」(広報担当者)
最近の都心回帰の例では、昨年、青山学院大が、
人文・社会科学系7学部の1、2年生が学んでいた
相模原キャンパスを、青山キャンパスに集約した。
また、明治大と帝京平成大が、JR中野駅前にあった警察大学校の跡地に
キャンパスを新設。明治大は
東京都杉並区の和泉キャンパスから国際日本学部を移転し、
新設した総合数理学部とともに設置。…
帝京平成大は薬学部などを千葉などのキャンパスから移した。
今後も15年には、拓殖大の商・政経学部が東京の文京キャンパスに移転予定。
今までは1・2年次は東京・八王子キャンパスで学んでいたが、
4年間都心で学べるようになる。
16年には杏林大が八王子キャンパスからより都心に近い三鷹市に新設する井の頭キャンパスに移転。
従来の三鷹キャンパスには医学部と保健学部看護学科があり、
この移転で全学部が三鷹市内に集約される。
キャンパスの都心回帰の流れは今後も続きそうだ。
※週刊朝日 2014年2月14日号
少子化の中なぜ増える「なんちゃって大学」
(更新 2012/11/13 07:00)
大学の新設をめぐって、田中真紀子文部科学大臣の発言などが物議をかもしたが、
日本はたしかに大学数が多すぎるという。
中には定員割れが続き、学生募集を中止する大学も出てきた。
母体の学校法人の経営が安定していれば、
学生が集まらなくなってもただちに経営難に陥るわけではないが、
少子化の時代、大学新設はそれほど「うまみ」がある商売ではない。
なぜ、次々に大学がつくられたのか。
一つは、従来の短大、専門学校を廃止して、
4年制大学に生まれ変わるケースが多かったからだ。
リクルートキャリア(東京)特別研究員の海老原嗣生さんがこう解説する。
「慶應義塾大学、上智大学が看護系学部をつくるなど、
4年制大学が次々に資格系学部を開設し始めた。
そのなかで、短大や専門学校のままでいては学生を奪われ生き残れない、
という危機感から、くら替えしようとした学校が多い。
もともとある程度の校舎や教員というインフラが整っていますから、
2~3年で卒業させてしまうより、それらを少し整備して、
授業料を4年間集め続けたほうが得、
という算段もあるでしょう」
そこに、大学を誘致したい地方自治体や政治家との利害関係、
そして「土地の名士たらん」とする学校法人関係者らの自己顕示欲、名誉欲が絡む。
「日本の弱小私学のかなりの部分はファミリー・インダストリーで、
実質的なオーナー経営であることが多い。
公的な教育機関である大学の運営の多くが、
こうした私学によって行われている現状はおかしい」
と指摘するのは、『大学の下流化』(NTT出版)などの著書がある、
竹内洋・関西大学人間健康学部教授だ。
本来、大学というのは、ある程度の学生規模を持ち、
きちんとした図書館や校舎、充実した学内書店を持つ教養教育の場であるべきだ。
だが、新自由主義者たちは、「そんな規制はいらない。
質の低い大学はいずれ、市場が淘汰するからいいのだ」と主張し、
「なんちゃって大学」の新規参入を増やしてきた。
「でも、途中で転学せざるを得なくなったり、
出身大学が卒業後になくなったりする、『淘汰される大学の学生』の
人生をどう考えるのか。それよりは、
事前に参入の基準を厳しくしようという、
真紀子さんの考えのほうが正論だと思う」(竹内教授)
※AERA 2012年11月19日号
大学の“都心回帰”がブーム
〈週刊朝日〉dot.
2014年2月9日 11時30分
(2014年2月9日 11時52分 更新)
1970年代から郊外にキャンパスを移した大学が、
2000年代になって、都心に戻り始めている。
今年は実践女子大が東京郊外の日野キャンパスから渋谷キャンパスに移転する。
文学部と人間社会学部、今年名称変更する実践女子大短期大学部の全学年など、
4,300人のうち2,600人規模の大移動となる。
安達勉常務理事は、「渋谷が持つダイナミズムを教育に生かしたい」と抱負を語る。
たとえば渋谷周辺には根津美術館などの美術館や博物館も数多くあり、
文学系学部では作品に触れながら芸術や文化を学ぶことが容易になる。
社会系学部では企業と連携することで、
実践的な学習を取り入れていく予定だ。
渋谷の17階建ての新校舎は、中央が9階までの吹き抜け、
廊下はガラス張りという開放的な空間。
キャンパス移転の効果で、昨年に比べて志願者が、
文学部をはじめとして複数の学部で30%以上増えた。
このほか、立正大の法学部が埼玉県熊谷市から品川区に移転。
東洋学園大は、今までは1・2年次は千葉県の流山キャンパスで学んでいたが、
今春からグローバル・コミュニケーション学部、
現代経営学部の学生は4年間、文京区の本郷キャンパスで学べる。
交通アクセスが良く、文化、遊興施設が整っている都心部は、学生にとって魅力的だ。
アルバイトや就職活動に便利な面もある。
「多様な入試や新設学部・学科が志願者増につながるのはある程度のレベル以上の大学ですが、
都心へのキャンパス移転は確実に志願者が増えます」
(駿台予備学校情報センターセンター長の石原賢一氏)
都心回帰の動きは首都圏に限らない。
愛知学院大も今年、本部のある日進キャンパス(愛知県日進市)から、
一部を名古屋市の中心部に移転する。
名古屋城のある名城公園に隣接しており、
近くには市役所などが立地する一等地だ。
移転するのは、商学部と経営学部、
13年に新設した経済学部のビジネス系3学部で、
2年生以上が専門教育を受ける。
「都心部に移転することで、企業とタイアップしやすくなる。
移転をきっかけに企業とコラボし、
アクティブラーニングを進めていきたい」(広報担当者)
最近の都心回帰の例では、昨年、青山学院大が、
人文・社会科学系7学部の1、2年生が学んでいた
相模原キャンパスを、青山キャンパスに集約した。
また、明治大と帝京平成大が、JR中野駅前にあった警察大学校の跡地に
キャンパスを新設。明治大は
東京都杉並区の和泉キャンパスから国際日本学部を移転し、
新設した総合数理学部とともに設置。…
帝京平成大は薬学部などを千葉などのキャンパスから移した。
今後も15年には、拓殖大の商・政経学部が東京の文京キャンパスに移転予定。
今までは1・2年次は東京・八王子キャンパスで学んでいたが、
4年間都心で学べるようになる。
16年には杏林大が八王子キャンパスからより都心に近い三鷹市に新設する井の頭キャンパスに移転。
従来の三鷹キャンパスには医学部と保健学部看護学科があり、
この移転で全学部が三鷹市内に集約される。
キャンパスの都心回帰の流れは今後も続きそうだ。
※週刊朝日 2014年2月14日号
少子化の中なぜ増える「なんちゃって大学」
(更新 2012/11/13 07:00)
大学の新設をめぐって、田中真紀子文部科学大臣の発言などが物議をかもしたが、
日本はたしかに大学数が多すぎるという。
中には定員割れが続き、学生募集を中止する大学も出てきた。
母体の学校法人の経営が安定していれば、
学生が集まらなくなってもただちに経営難に陥るわけではないが、
少子化の時代、大学新設はそれほど「うまみ」がある商売ではない。
なぜ、次々に大学がつくられたのか。
一つは、従来の短大、専門学校を廃止して、
4年制大学に生まれ変わるケースが多かったからだ。
リクルートキャリア(東京)特別研究員の海老原嗣生さんがこう解説する。
「慶應義塾大学、上智大学が看護系学部をつくるなど、
4年制大学が次々に資格系学部を開設し始めた。
そのなかで、短大や専門学校のままでいては学生を奪われ生き残れない、
という危機感から、くら替えしようとした学校が多い。
もともとある程度の校舎や教員というインフラが整っていますから、
2~3年で卒業させてしまうより、それらを少し整備して、
授業料を4年間集め続けたほうが得、
という算段もあるでしょう」
そこに、大学を誘致したい地方自治体や政治家との利害関係、
そして「土地の名士たらん」とする学校法人関係者らの自己顕示欲、名誉欲が絡む。
「日本の弱小私学のかなりの部分はファミリー・インダストリーで、
実質的なオーナー経営であることが多い。
公的な教育機関である大学の運営の多くが、
こうした私学によって行われている現状はおかしい」
と指摘するのは、『大学の下流化』(NTT出版)などの著書がある、
竹内洋・関西大学人間健康学部教授だ。
本来、大学というのは、ある程度の学生規模を持ち、
きちんとした図書館や校舎、充実した学内書店を持つ教養教育の場であるべきだ。
だが、新自由主義者たちは、「そんな規制はいらない。
質の低い大学はいずれ、市場が淘汰するからいいのだ」と主張し、
「なんちゃって大学」の新規参入を増やしてきた。
「でも、途中で転学せざるを得なくなったり、
出身大学が卒業後になくなったりする、『淘汰される大学の学生』の
人生をどう考えるのか。それよりは、
事前に参入の基準を厳しくしようという、
真紀子さんの考えのほうが正論だと思う」(竹内教授)
※AERA 2012年11月19日号