繰越欠損金 -
どこか割り切れない税の公平性をキープする制度
プレジデントオンライン
2014年2月9日(日)14:21
PRESIDENT 2013年12月30日号 掲載
法人税の減税についての議論が盛んになっているが、
一つ忘れてはならないことがある。それは、
赤字が生じた場合に翌期以降最大9年間、
黒字から赤字分を差し引ける「繰越欠損金」という制度の存在だ。
具体的にいうと、資本金1億円以下などの条件を満たす中小企業は
繰越欠損の全額を課税所得から控除できる。
それ以外の大企業などについては、
繰越欠損金が課税所得を上回っていても、
その80%までの控除が限度となっている。
たとえば、中小企業で150万円の赤字(税務上の繰越欠損金)が出たとしよう。
翌年、100万円の黒字が出ても前年の150万円の赤字から100万円分の黒字を相殺することで、
課税所得はゼロとなる。結果、
法人税はかからない。さらに、
控除し切れなかった50万円の欠損金は、
その翌年以降の黒字から控除できる。
繰越欠損控除のイメージ
読者の皆さんは、黒字の年まで法人税がかからないことに違和感を覚えるかもしれない、
しかし、次のケースを考えれば、
制度の合理性が理解できるはずである。
A社は1年目に損失を100万円出したが、
2年目には100万円の黒字になった。2年通算で考えると
利益はゼロ。しかし、繰越欠損の制度がないと、
2年目には法人税を支払わなければならない。
実効税率が30%とすれば、「100万円×30%」で30万円である。
一方のB社は、1年目も2年目も利益ゼロで同じ。
当然、繰越欠損金の制度がなくても、2年目も税金はかからない。
つまり、2年通算すると利益ゼロなのは同じなのに、
繰越欠損の控除が認められないと、
A社だけ2年目に納税することになり、不公平になってしまう。
このような不都合が起きないように、
繰越欠損金の制度があるのだ。
起業からしばらく赤字が続いたあと、やっと黒字に転換するという企業は多い。
単年度の利益だけをベースに課税すると、
「ようやく黒字になったら法人税をごっそり持っていかれた」ということになって、
起業意欲を損ないかねない。
一方で、企業は赤字と黒字を繰り返すものであり、
繰越欠損金を何年にもわたって控除していくと、
なかなか課税所得がプラスになる(税金がかかる)
タイミングがこないという現実もある。
経済が右肩上がりに成長している時期ならいいが、
景気のアップ・ダウンのサイクルが短いとなおのこと、
課税の機会が訪れない。長引く不況で繰越欠損金が積み上がり、
それが法人税の税収が増えない原因にもなっているのだ。
2011年度に繰り越された欠損金は76兆円といわれる。
このうち9.7兆円が繰越欠損金として単年度の黒字額43.6兆円から控除され、
課税対象になったのは33.9兆円だったという。
もし9.7兆円の繰越欠損金に実効税率30%で課税ができれば、
法人税は「9.7兆円×30%」で2.9兆円もアップした計算だ。
右肩上がりの経済成長が望みにくいとすれば、
法人税収の増加は期待できず、だからこそ
消費税で税収を確保しようという動きが出てきたのだろう。
消費税と法人税の大きな違いは、法人税が利益に対して課すものなのに対して、
消費税は赤字の企業であっても納税義務があるという点である。
交渉力の弱い中小企業などが消費税の増税分を
価格に転嫁できない場合、赤字でも消費税は納めなければならず、
それが原因で倒産に追い込まれる恐れも出てくる。
前述のとおり、繰越欠損金の制度には合理性があるが、
法人税については一部の黒字企業がその大部分を負担しているという現状も知っておきたい。
税率だけでなく、課税ベースの問題についても、
議論していく必要があるような気がする。
(公認会計士・税理士 柴山政行 構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)
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http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_11820.html
どこか割り切れない税の公平性をキープする制度
プレジデントオンライン
2014年2月9日(日)14:21
PRESIDENT 2013年12月30日号 掲載
法人税の減税についての議論が盛んになっているが、
一つ忘れてはならないことがある。それは、
赤字が生じた場合に翌期以降最大9年間、
黒字から赤字分を差し引ける「繰越欠損金」という制度の存在だ。
具体的にいうと、資本金1億円以下などの条件を満たす中小企業は
繰越欠損の全額を課税所得から控除できる。
それ以外の大企業などについては、
繰越欠損金が課税所得を上回っていても、
その80%までの控除が限度となっている。
たとえば、中小企業で150万円の赤字(税務上の繰越欠損金)が出たとしよう。
翌年、100万円の黒字が出ても前年の150万円の赤字から100万円分の黒字を相殺することで、
課税所得はゼロとなる。結果、
法人税はかからない。さらに、
控除し切れなかった50万円の欠損金は、
その翌年以降の黒字から控除できる。
繰越欠損控除のイメージ
読者の皆さんは、黒字の年まで法人税がかからないことに違和感を覚えるかもしれない、
しかし、次のケースを考えれば、
制度の合理性が理解できるはずである。
A社は1年目に損失を100万円出したが、
2年目には100万円の黒字になった。2年通算で考えると
利益はゼロ。しかし、繰越欠損の制度がないと、
2年目には法人税を支払わなければならない。
実効税率が30%とすれば、「100万円×30%」で30万円である。
一方のB社は、1年目も2年目も利益ゼロで同じ。
当然、繰越欠損金の制度がなくても、2年目も税金はかからない。
つまり、2年通算すると利益ゼロなのは同じなのに、
繰越欠損の控除が認められないと、
A社だけ2年目に納税することになり、不公平になってしまう。
このような不都合が起きないように、
繰越欠損金の制度があるのだ。
起業からしばらく赤字が続いたあと、やっと黒字に転換するという企業は多い。
単年度の利益だけをベースに課税すると、
「ようやく黒字になったら法人税をごっそり持っていかれた」ということになって、
起業意欲を損ないかねない。
一方で、企業は赤字と黒字を繰り返すものであり、
繰越欠損金を何年にもわたって控除していくと、
なかなか課税所得がプラスになる(税金がかかる)
タイミングがこないという現実もある。
経済が右肩上がりに成長している時期ならいいが、
景気のアップ・ダウンのサイクルが短いとなおのこと、
課税の機会が訪れない。長引く不況で繰越欠損金が積み上がり、
それが法人税の税収が増えない原因にもなっているのだ。
2011年度に繰り越された欠損金は76兆円といわれる。
このうち9.7兆円が繰越欠損金として単年度の黒字額43.6兆円から控除され、
課税対象になったのは33.9兆円だったという。
もし9.7兆円の繰越欠損金に実効税率30%で課税ができれば、
法人税は「9.7兆円×30%」で2.9兆円もアップした計算だ。
右肩上がりの経済成長が望みにくいとすれば、
法人税収の増加は期待できず、だからこそ
消費税で税収を確保しようという動きが出てきたのだろう。
消費税と法人税の大きな違いは、法人税が利益に対して課すものなのに対して、
消費税は赤字の企業であっても納税義務があるという点である。
交渉力の弱い中小企業などが消費税の増税分を
価格に転嫁できない場合、赤字でも消費税は納めなければならず、
それが原因で倒産に追い込まれる恐れも出てくる。
前述のとおり、繰越欠損金の制度には合理性があるが、
法人税については一部の黒字企業がその大部分を負担しているという現状も知っておきたい。
税率だけでなく、課税ベースの問題についても、
議論していく必要があるような気がする。
(公認会計士・税理士 柴山政行 構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)
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