カリスマ社長の「言葉・声・表情・しぐさ」を科学する
名経営者のコミュニケーション術【1】
PRESIDENT
2012年7月16日号
著者
ライター 伊田欣司=文
小倉和徳、若杉憲司、澁谷高晴=撮影 PANA=写真
なぜ、名経営者たちは聴衆を引きつけ、人を動かせるのか。
音声、しぐさ、パフォーマンスの権威が映像を徹底分析したところ、
本人も気づかないような意外な事実が見えてきた。
8割の人は腹式発声ができていない
阿吽の呼吸、以心伝心が尊ばれる日本では、人前で話すことへの意識が低い。
欧米では子どもの頃から他人に自分の経験や考え方を伝える
“Show and Tell”を訓練させられる。
経営者ともなれば、プレゼンテーションや
ファシリテーションの訓練は一通り受けている。
ところが、日本では発声ひとつとっても関心を寄せる経営者は少ない。
音の研究・開発を専門とする日本音響研究所の鈴木松美所長は、
発声と自己表現についてこう説明する。
図を拡大
2500~5000Hzで話せば、大声を出す必要はない
「聞き取りやすい発声は、トレーニングで身につきます。
人前で話す機会があるなら、試しにレッスンを受ければその違いがわかるはずです。
例えばお腹から声を出す“腹式発声”は、
通常は10人のうち8人ができていません。
これをマスターするだけでもコミュニケーション力はずいぶん高まります」
図からわかるように、人間の耳の感度がいい2,500~5,000Hzに合わせて発声すれば、
大きな声を出さなくても相手の耳に届きやすくなる。
腹式呼吸ができるようになれば、この周波数を出せるのだそうだ。
ほかにもポイントはある。
強調したい言葉をはっきりトーンを上げて話す“音圧”。
相手やポイントに合わせてスピードを変える“話速”。
言葉に表情をつける“イントネーション”。
Sの音をはっきり発音して清潔感を出す“高周波成分”。
この5ポイントを訓練するだけでもかなり声の聞こえ方は違ってくる。
表現されない実力はないに等しい
「しぐさ」の専門家であるデジタルハリウッド大学教授の匠英一氏も
日本人の話し方の特徴についてこう説明する。
「日本のビジネスマンや経営者たちは基本的に堅実で目立った動き方がなく、
“しぐさ”も控えめです。インパクトがなく、
他人から見てわかりやすいことが取り柄です。
これまではそうしたリスクヘッジができて、
バランス感覚に優れ、とくに上役との調整が上手な『家康タイプ』が出世してきました。
ところが鳴くまで待とうの精神では、
いまの部下たちを動かすことはできないし、
国際競争で勝ち残ることもできない。
これからは豊臣秀吉スタイルの社員が出世していく時代になります」
図を拡大 :守りのコミュニケーション、攻めのコミュニケーション(PANA=写真)
両者の違いはコミュニケーションに表れる。
家康スタイルは“守りのコミュニケーション”だとすれば、
秀吉スタイルは“攻めのコミュニケーション”。
アイデアが豊かで、相手の心を掴む力が卓越している。
褒めるときは大げさに表現して、
相手をよろこばせる。部下だけでなく、
顧客もよろこばせる発想ができてこそ、
グローバル時代、ネットワーク時代に活躍できるというのである。
1980年に日本で初めてパフォーマンス学を提唱した
日本大学芸術学部の佐藤綾子教授は、
多くの経営者にコンサルティングした経験から次のように話す。
「日本の経営者は、ビジネスの成功は
自己表現の成功によってもたらされることにまだ気づいていません。
いい製品さえつくれば、そのうち理解してもらえると信じている。
そんな発想はグローバル社会では通用しません。
企業のトップは“実力”と“表現”の両輪を備えてこそ一流なのです。
表現されない実力はないに等しい。
韓国や中国がいい製品を安くつくる時代になったとき、
例えばユニクロの柳井さんがどんなプレゼンをできるのか。
これにビジネスの勝敗がかかってくるのです」
テクニック重視の「整形美人」はNG
孫正義、柳井正、稲盛和夫、豊田章男、
スティーブ・ジョブズという5人のカリスマ経営者が、
プレゼンテーションやスピーチでどのような話し方をしているのか、
次回以降で詳しく検証していく。
匠氏、佐藤氏、鈴木氏の3人に映像を分析してもらい、
それぞれの専門分野から意見を聞かせてもらった。
カリスマ経営者たちの話し方から、
ビジネスマンが真似すべき点、
真似してはならない点を明らかにしていきたい。
表に掲げた「理想的なコミュニケーション」の9項目は、
代表的な着眼のポイントと望ましい水準だ。
5人の経営者についても、これらのポイントを詳しく見ていく。
図を拡大 :理想的なコミュニケーション
検証の対象とした映像はネットで見られるものが主なので、
映像を見ながらこれら各ポイントと水準を理解することができる。
自分がプレゼンテーションするときのチェックポイントになるだろう。
ただ、意識して練習するだけでなく、
自分の姿をムービーに撮影して客観的にセルフチェックすることが望ましい。
自分の無意識な動作や口癖などにいくつも気づくはずだ。
ただし、表面的なテクニックに気を取られ、
コミュニケーションや自己表現の本質を見失うのは危険なことだ。
「フレームワーク的な発想や、図解化されてわかりやすいものを知ると、
それだけで理解したつもりになってしまいますが、
その部分だけ真似ても逆効果になることもあります。
ある一面だけ矯正して、全体のバランスを失うこともある。
顔の一部に手を加えて整形美人になっても、
10年後に歪んだ顔になってしまうのでは意味がありません。
それと同じで、自分らしさを保ちながら、
必要な部分を磨いていくことのほうがはるかに重要です」(匠氏)
5人のカリスマ経営者は、
それぞれの個性を活かして自らのスタイルにたどり着いている。
安易に真似をするのではなく、
それが自分のスタイルに合っているかを確認しながら
取り入れていくことが話し方上手になる第一歩だろう。
http://president.jp/articles/-/10202
名経営者のコミュニケーション術【1】
PRESIDENT
2012年7月16日号
著者
ライター 伊田欣司=文
小倉和徳、若杉憲司、澁谷高晴=撮影 PANA=写真
なぜ、名経営者たちは聴衆を引きつけ、人を動かせるのか。
音声、しぐさ、パフォーマンスの権威が映像を徹底分析したところ、
本人も気づかないような意外な事実が見えてきた。
8割の人は腹式発声ができていない
阿吽の呼吸、以心伝心が尊ばれる日本では、人前で話すことへの意識が低い。
欧米では子どもの頃から他人に自分の経験や考え方を伝える
“Show and Tell”を訓練させられる。
経営者ともなれば、プレゼンテーションや
ファシリテーションの訓練は一通り受けている。
ところが、日本では発声ひとつとっても関心を寄せる経営者は少ない。
音の研究・開発を専門とする日本音響研究所の鈴木松美所長は、
発声と自己表現についてこう説明する。
図を拡大
2500~5000Hzで話せば、大声を出す必要はない
「聞き取りやすい発声は、トレーニングで身につきます。
人前で話す機会があるなら、試しにレッスンを受ければその違いがわかるはずです。
例えばお腹から声を出す“腹式発声”は、
通常は10人のうち8人ができていません。
これをマスターするだけでもコミュニケーション力はずいぶん高まります」
図からわかるように、人間の耳の感度がいい2,500~5,000Hzに合わせて発声すれば、
大きな声を出さなくても相手の耳に届きやすくなる。
腹式呼吸ができるようになれば、この周波数を出せるのだそうだ。
ほかにもポイントはある。
強調したい言葉をはっきりトーンを上げて話す“音圧”。
相手やポイントに合わせてスピードを変える“話速”。
言葉に表情をつける“イントネーション”。
Sの音をはっきり発音して清潔感を出す“高周波成分”。
この5ポイントを訓練するだけでもかなり声の聞こえ方は違ってくる。
表現されない実力はないに等しい
「しぐさ」の専門家であるデジタルハリウッド大学教授の匠英一氏も
日本人の話し方の特徴についてこう説明する。
「日本のビジネスマンや経営者たちは基本的に堅実で目立った動き方がなく、
“しぐさ”も控えめです。インパクトがなく、
他人から見てわかりやすいことが取り柄です。
これまではそうしたリスクヘッジができて、
バランス感覚に優れ、とくに上役との調整が上手な『家康タイプ』が出世してきました。
ところが鳴くまで待とうの精神では、
いまの部下たちを動かすことはできないし、
国際競争で勝ち残ることもできない。
これからは豊臣秀吉スタイルの社員が出世していく時代になります」
図を拡大 :守りのコミュニケーション、攻めのコミュニケーション(PANA=写真)
両者の違いはコミュニケーションに表れる。
家康スタイルは“守りのコミュニケーション”だとすれば、
秀吉スタイルは“攻めのコミュニケーション”。
アイデアが豊かで、相手の心を掴む力が卓越している。
褒めるときは大げさに表現して、
相手をよろこばせる。部下だけでなく、
顧客もよろこばせる発想ができてこそ、
グローバル時代、ネットワーク時代に活躍できるというのである。
1980年に日本で初めてパフォーマンス学を提唱した
日本大学芸術学部の佐藤綾子教授は、
多くの経営者にコンサルティングした経験から次のように話す。
「日本の経営者は、ビジネスの成功は
自己表現の成功によってもたらされることにまだ気づいていません。
いい製品さえつくれば、そのうち理解してもらえると信じている。
そんな発想はグローバル社会では通用しません。
企業のトップは“実力”と“表現”の両輪を備えてこそ一流なのです。
表現されない実力はないに等しい。
韓国や中国がいい製品を安くつくる時代になったとき、
例えばユニクロの柳井さんがどんなプレゼンをできるのか。
これにビジネスの勝敗がかかってくるのです」
テクニック重視の「整形美人」はNG
孫正義、柳井正、稲盛和夫、豊田章男、
スティーブ・ジョブズという5人のカリスマ経営者が、
プレゼンテーションやスピーチでどのような話し方をしているのか、
次回以降で詳しく検証していく。
匠氏、佐藤氏、鈴木氏の3人に映像を分析してもらい、
それぞれの専門分野から意見を聞かせてもらった。
カリスマ経営者たちの話し方から、
ビジネスマンが真似すべき点、
真似してはならない点を明らかにしていきたい。
表に掲げた「理想的なコミュニケーション」の9項目は、
代表的な着眼のポイントと望ましい水準だ。
5人の経営者についても、これらのポイントを詳しく見ていく。
図を拡大 :理想的なコミュニケーション
検証の対象とした映像はネットで見られるものが主なので、
映像を見ながらこれら各ポイントと水準を理解することができる。
自分がプレゼンテーションするときのチェックポイントになるだろう。
ただ、意識して練習するだけでなく、
自分の姿をムービーに撮影して客観的にセルフチェックすることが望ましい。
自分の無意識な動作や口癖などにいくつも気づくはずだ。
ただし、表面的なテクニックに気を取られ、
コミュニケーションや自己表現の本質を見失うのは危険なことだ。
「フレームワーク的な発想や、図解化されてわかりやすいものを知ると、
それだけで理解したつもりになってしまいますが、
その部分だけ真似ても逆効果になることもあります。
ある一面だけ矯正して、全体のバランスを失うこともある。
顔の一部に手を加えて整形美人になっても、
10年後に歪んだ顔になってしまうのでは意味がありません。
それと同じで、自分らしさを保ちながら、
必要な部分を磨いていくことのほうがはるかに重要です」(匠氏)
5人のカリスマ経営者は、
それぞれの個性を活かして自らのスタイルにたどり着いている。
安易に真似をするのではなく、
それが自分のスタイルに合っているかを確認しながら
取り入れていくことが話し方上手になる第一歩だろう。
http://president.jp/articles/-/10202