まさか! 「お祈りメール」で内定辞退する学生の胸の内腹の内
09月11日 09:21
プレジデントオンライン
写真:イメージ
まさか! 「お祈りメール」で内定辞退する学生の胸の内腹の内
(プレジデントオンライン)
PRESIDENT Online スペシャル 掲載
■昨夏開始のインターンは事実上の就活だった
大企業の内定出しが8月末でほぼ終わり、
就活戦線は後半戦に入っている。
それにしても今年ほど
学生を疑心暗鬼に陥れた就活はなかったのではないか。
流れをざっと振り返ってみよう。
事の発端は2013年4月の安倍晋三首相の要請だ。
経団連、経済同友会、日本商工会議所の代表に
「採用広報は大学3年生の3月から、
採用選考は4年生の8月から」にそれぞれ後ろ倒しするよう伝達。
これを受けて経団連は同年9月に
「採用選考に関する指針」を発表。
2016年度入社以降の採用選考活動を
8月1日以降とする後ろ倒しを加盟企業に要請した。
就活時期の後ろ倒し実施は、もともと大学関係者から
就職活動の早期化で学業を阻害するという批判を踏まえたものだ。
そして安倍首相は早期化自粛を
成長戦略(日本再興戦略)にまで盛り込んでいた。
だが、経団連の指針の実効性については当初から疑念が持たれていた。
従来は経団連の「倫理憲章」の規約に賛同した会員企業が
誓約書に署名する形で規制されてきた。
署名したのは加盟企業1300社のうち700社である。
会員企業すべてが対象となる「指針」という形は評価できるものの、
なぜ従来の形の「署名」ではなく、
しばりが若干緩そうな印象を受ける「指針」なのか、
経団連の“本気度”が疑われていた。
▼水面下で次々に内定を出す企業
政府や経団連は8月の1カ月間で選考が終わり、
後は学業に専念できるだろうという甘い見通しを持っていたのかもしれないが、
現実はそれに逆行する超長期化の様相を呈した。
昨年8月のインターンシップを皮切りに
事実上の選考活動はスタートした。
後ろ倒しになったことで前半が暇になり、
少しでも採用に結びつけようと多くの企業が実施した。
経団連に加盟していない企業の一部は、
最初から指針や政府の方針を守る気などなく、
外資系企業やIT業界、マスコミ、
広告代理店などは昨年の10月から今年3月にかけて次々と内定を出していった。
また、例年なら大企業の選考後に採用活動を本格化させる中堅・中小企業も
引きずられるように1〜2月以降に採用活動を開始した。
■大企業で冷酷な「サイレントお祈り」横行
こうした企業の動きに驚いたのは学生である。
3月広報解禁、8月選考を鵜呑みにしていた学生も少なくなかった。
今年1月のIT業界の採用直結型インターンシップの案内に出席した国立大学の理系学生は語っていた。
「昨年末に研究室の仲間が大手ゲーム会社の面接を受けていると聞いて驚きました。
まだ先の話だろうと思っていたのに企業も
学生も動いているのであわてました。
夏の研究論文作成と卒論も控えているのに、
どっちに専念すればいいのか正直悩んでいます」
学生は大企業志望が圧倒的に多いが、
その前に少しでも内定を確保しようと
中小企業や経団連非加盟企業のIT企業の応募・選考に進んだ。
その数は3月までに就職希望の学生の約4割に及んだ。
そうした学生に対してイジメとしか思えない現象も発生した。
▼企業の嫌がらせと放置プレー
「オワハラ」(内定出たら就活終わるよねハラスメント)である。
文部科学省の調査(7月1日時点)でも
5.9%の学生が被害にあったと答えているが、
実際はもっと多くの被害があったのではないか。
内定を出すから他社を受けないでほしいと言うのは
昔からあったが、なぜ今回は
ハラスメントという事態に発展したのか。
就職コンサルタントはこう指摘する。
「経団連加盟の大手企業が建前とはいえ、
8月から選考を開始すると言い、
まだ大手の選考を受けていない段階で
うちに決めろと言われるのは理不尽だと感じてしまう」
当然だろう。各社横並びで選考している最中なら、
早くうちに決めてほしいというのも理解できるし、
学生も「他を受けたいのでもう少し待ってほしい」
と申し訳ない気持ちにもなる。
しかし、まだ大手の選考が本格的に始まっていないのに、
内定受諾を強要するのは誰しもおかしいと思うだろう。
IT系の創業経営者の中には
「説明会や選考の過程でうちのビジネスのことをよく理解したんでしょ。
自分の人生なのにどうして決められないのか」
と詰め寄る人もいたそうだ。
だが、オワハラならまだましかもしれない。
学生にはもっとひどい仕打ちが待っていた。
「サイレントお祈り」
(通常、不採用になった場合、文書の最後は
「貴殿のご活躍をお祈り申し上げます」という定型文で締めくくられることが多く、
学生の間では「お祈りメール」と呼ばれるが、
そのメールさえ一切来ない状況)だ。
もちろん、不合格の場合は通知しませんと言えば、
「サイレント」に入らない。
今年は大企業を中心にサイレントが横行し、
多くの学生を不安に陥れた。
■「放置」された学生が考案した復讐とは?
なぜそんな事態を招いたのか。
8月選考開始という形式遵守の裏で
その前に実質的選考を始めたからである。
新卒採用企業は1万5,000社程度とされるが、
経団連加盟企業は1300社。その中でも
以前の倫理憲章の署名企業は700社程度にすぎない。
多くの企業が選考に動いているのに
指をくわえて見ているのはまずいと思ったのか、
経団連の一部の役員企業を除いて、
ほとんどの企業が早期選考に動いた。
3月解禁後に大手企業は学内説明会を実施。
4月から企業内説明会が開催され、5月以降、
水面下の面接が始めた企業が多い。
説明会の場で学生と接触し、“面談”という名の
選考をスタートさせた企業もある。
食品業の人事担当者はこう語る。
「例年の説明会は企業紹介の映像を見せて、
その後に若手の社員と会場の学生との質疑応答で終わるのですが、
今年は第2部を設け、社員と複数の学生の座談会を開催した。
社員に○×△をつけてもらい、
5月以降から社員が○をつけた学生を呼び出し
“就活アドバイス面談”という名目で人事と1対1で会い、
選考に入りました。5〜7月にかけて合格者を絞り込みました」
手法は別にしても同様の動きは多くの大企業でも見られた。
ある業界では十数社の人事担当者が集まり、
「選考開始時期は5月」と“談合”で決めたところもある。
当然ながらそうした情報は学生に知らされないし、
就職ナビサイトには相変わらず8月1日選考としか記されていない。
そして、ほとんどの大手企業は8月1日もしくは
第1週目で内々定を出し終えた。
リクルートキャリアの調査では8月1日から15日までの間に
内定(内々定)を取得した学生の割合は
44.4%。従業員規模5000人以上の企業が40.2%と最も多いことでもわかる。
▼「貴社のさらなるご発展をお祈り申し上げます」
だが、水面下で進行した選考の裏でサイレントのまま放置された学生も多い。
建設関連業の人事担当者こう語る。
「4月の説明会以降、何らかの名目で学生と面談したが、
選考はしない建前になっています。
実質的には模擬面接による○×をつけて落としていくわけですが、
8月1日までは不合格ですと通知することができない。
合格した学生には、今度会いましょうと言えるが、
不合格者は放置するしかありませんでした。
当社は8月1日段階で不合格の通知を出したが、
学生によっては3カ月も音沙汰なしだったことになる。
しかし、一切通知しない完全なサイレント企業も多かったようです」
もちろん学生も面談が実質的な選考であることは知っていたはずだ。
だが、不合格通知がこないので次の対応もできない。
「学生にとってはどの会社に落ちて、
どの会社とつながっているのか
わからないために精神的疲労度も相当高かったようだ」
(就職コンサルタント)という声もある。
そうした冷酷な企業の対応にもめげず就活に奮闘した結果、
複数の内定をもらった学生の中には、
内定辞退をお祈りメール形式で送った者もいるらしい
(「末筆ではございますが、貴社のこれからの一層のご発展をお祈り申し上げます」)。
送られた企業はきっと怒り心頭だろうが、
学生はささやかな復讐のつもりなのかもしれない。
何せ、「サイレントお祈り」の企業に対する恨みを
その後も抱き続けるケースも少なくないようだ。
学業優先で決まった就活の後ろ倒しが形骸化し、
結果的に多くの学生を疑心暗鬼と不安に陥れ、
学業どころか精神的負担も与えてしまった。
こうなってしまった責任は経団連にあるのか、
あるいは要請した安倍首相なのか。
責任が問われず、改善策が示されないまま、
2017年卒の就活でも同じ悲劇が再び繰り返されることになる。
(溝上憲文=文)
http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_16145.html
09月11日 09:21
プレジデントオンライン
写真:イメージ
まさか! 「お祈りメール」で内定辞退する学生の胸の内腹の内
(プレジデントオンライン)
PRESIDENT Online スペシャル 掲載
■昨夏開始のインターンは事実上の就活だった
大企業の内定出しが8月末でほぼ終わり、
就活戦線は後半戦に入っている。
それにしても今年ほど
学生を疑心暗鬼に陥れた就活はなかったのではないか。
流れをざっと振り返ってみよう。
事の発端は2013年4月の安倍晋三首相の要請だ。
経団連、経済同友会、日本商工会議所の代表に
「採用広報は大学3年生の3月から、
採用選考は4年生の8月から」にそれぞれ後ろ倒しするよう伝達。
これを受けて経団連は同年9月に
「採用選考に関する指針」を発表。
2016年度入社以降の採用選考活動を
8月1日以降とする後ろ倒しを加盟企業に要請した。
就活時期の後ろ倒し実施は、もともと大学関係者から
就職活動の早期化で学業を阻害するという批判を踏まえたものだ。
そして安倍首相は早期化自粛を
成長戦略(日本再興戦略)にまで盛り込んでいた。
だが、経団連の指針の実効性については当初から疑念が持たれていた。
従来は経団連の「倫理憲章」の規約に賛同した会員企業が
誓約書に署名する形で規制されてきた。
署名したのは加盟企業1300社のうち700社である。
会員企業すべてが対象となる「指針」という形は評価できるものの、
なぜ従来の形の「署名」ではなく、
しばりが若干緩そうな印象を受ける「指針」なのか、
経団連の“本気度”が疑われていた。
▼水面下で次々に内定を出す企業
政府や経団連は8月の1カ月間で選考が終わり、
後は学業に専念できるだろうという甘い見通しを持っていたのかもしれないが、
現実はそれに逆行する超長期化の様相を呈した。
昨年8月のインターンシップを皮切りに
事実上の選考活動はスタートした。
後ろ倒しになったことで前半が暇になり、
少しでも採用に結びつけようと多くの企業が実施した。
経団連に加盟していない企業の一部は、
最初から指針や政府の方針を守る気などなく、
外資系企業やIT業界、マスコミ、
広告代理店などは昨年の10月から今年3月にかけて次々と内定を出していった。
また、例年なら大企業の選考後に採用活動を本格化させる中堅・中小企業も
引きずられるように1〜2月以降に採用活動を開始した。
■大企業で冷酷な「サイレントお祈り」横行
こうした企業の動きに驚いたのは学生である。
3月広報解禁、8月選考を鵜呑みにしていた学生も少なくなかった。
今年1月のIT業界の採用直結型インターンシップの案内に出席した国立大学の理系学生は語っていた。
「昨年末に研究室の仲間が大手ゲーム会社の面接を受けていると聞いて驚きました。
まだ先の話だろうと思っていたのに企業も
学生も動いているのであわてました。
夏の研究論文作成と卒論も控えているのに、
どっちに専念すればいいのか正直悩んでいます」
学生は大企業志望が圧倒的に多いが、
その前に少しでも内定を確保しようと
中小企業や経団連非加盟企業のIT企業の応募・選考に進んだ。
その数は3月までに就職希望の学生の約4割に及んだ。
そうした学生に対してイジメとしか思えない現象も発生した。
▼企業の嫌がらせと放置プレー
「オワハラ」(内定出たら就活終わるよねハラスメント)である。
文部科学省の調査(7月1日時点)でも
5.9%の学生が被害にあったと答えているが、
実際はもっと多くの被害があったのではないか。
内定を出すから他社を受けないでほしいと言うのは
昔からあったが、なぜ今回は
ハラスメントという事態に発展したのか。
就職コンサルタントはこう指摘する。
「経団連加盟の大手企業が建前とはいえ、
8月から選考を開始すると言い、
まだ大手の選考を受けていない段階で
うちに決めろと言われるのは理不尽だと感じてしまう」
当然だろう。各社横並びで選考している最中なら、
早くうちに決めてほしいというのも理解できるし、
学生も「他を受けたいのでもう少し待ってほしい」
と申し訳ない気持ちにもなる。
しかし、まだ大手の選考が本格的に始まっていないのに、
内定受諾を強要するのは誰しもおかしいと思うだろう。
IT系の創業経営者の中には
「説明会や選考の過程でうちのビジネスのことをよく理解したんでしょ。
自分の人生なのにどうして決められないのか」
と詰め寄る人もいたそうだ。
だが、オワハラならまだましかもしれない。
学生にはもっとひどい仕打ちが待っていた。
「サイレントお祈り」
(通常、不採用になった場合、文書の最後は
「貴殿のご活躍をお祈り申し上げます」という定型文で締めくくられることが多く、
学生の間では「お祈りメール」と呼ばれるが、
そのメールさえ一切来ない状況)だ。
もちろん、不合格の場合は通知しませんと言えば、
「サイレント」に入らない。
今年は大企業を中心にサイレントが横行し、
多くの学生を不安に陥れた。
■「放置」された学生が考案した復讐とは?
なぜそんな事態を招いたのか。
8月選考開始という形式遵守の裏で
その前に実質的選考を始めたからである。
新卒採用企業は1万5,000社程度とされるが、
経団連加盟企業は1300社。その中でも
以前の倫理憲章の署名企業は700社程度にすぎない。
多くの企業が選考に動いているのに
指をくわえて見ているのはまずいと思ったのか、
経団連の一部の役員企業を除いて、
ほとんどの企業が早期選考に動いた。
3月解禁後に大手企業は学内説明会を実施。
4月から企業内説明会が開催され、5月以降、
水面下の面接が始めた企業が多い。
説明会の場で学生と接触し、“面談”という名の
選考をスタートさせた企業もある。
食品業の人事担当者はこう語る。
「例年の説明会は企業紹介の映像を見せて、
その後に若手の社員と会場の学生との質疑応答で終わるのですが、
今年は第2部を設け、社員と複数の学生の座談会を開催した。
社員に○×△をつけてもらい、
5月以降から社員が○をつけた学生を呼び出し
“就活アドバイス面談”という名目で人事と1対1で会い、
選考に入りました。5〜7月にかけて合格者を絞り込みました」
手法は別にしても同様の動きは多くの大企業でも見られた。
ある業界では十数社の人事担当者が集まり、
「選考開始時期は5月」と“談合”で決めたところもある。
当然ながらそうした情報は学生に知らされないし、
就職ナビサイトには相変わらず8月1日選考としか記されていない。
そして、ほとんどの大手企業は8月1日もしくは
第1週目で内々定を出し終えた。
リクルートキャリアの調査では8月1日から15日までの間に
内定(内々定)を取得した学生の割合は
44.4%。従業員規模5000人以上の企業が40.2%と最も多いことでもわかる。
▼「貴社のさらなるご発展をお祈り申し上げます」
だが、水面下で進行した選考の裏でサイレントのまま放置された学生も多い。
建設関連業の人事担当者こう語る。
「4月の説明会以降、何らかの名目で学生と面談したが、
選考はしない建前になっています。
実質的には模擬面接による○×をつけて落としていくわけですが、
8月1日までは不合格ですと通知することができない。
合格した学生には、今度会いましょうと言えるが、
不合格者は放置するしかありませんでした。
当社は8月1日段階で不合格の通知を出したが、
学生によっては3カ月も音沙汰なしだったことになる。
しかし、一切通知しない完全なサイレント企業も多かったようです」
もちろん学生も面談が実質的な選考であることは知っていたはずだ。
だが、不合格通知がこないので次の対応もできない。
「学生にとってはどの会社に落ちて、
どの会社とつながっているのか
わからないために精神的疲労度も相当高かったようだ」
(就職コンサルタント)という声もある。
そうした冷酷な企業の対応にもめげず就活に奮闘した結果、
複数の内定をもらった学生の中には、
内定辞退をお祈りメール形式で送った者もいるらしい
(「末筆ではございますが、貴社のこれからの一層のご発展をお祈り申し上げます」)。
送られた企業はきっと怒り心頭だろうが、
学生はささやかな復讐のつもりなのかもしれない。
何せ、「サイレントお祈り」の企業に対する恨みを
その後も抱き続けるケースも少なくないようだ。
学業優先で決まった就活の後ろ倒しが形骸化し、
結果的に多くの学生を疑心暗鬼と不安に陥れ、
学業どころか精神的負担も与えてしまった。
こうなってしまった責任は経団連にあるのか、
あるいは要請した安倍首相なのか。
責任が問われず、改善策が示されないまま、
2017年卒の就活でも同じ悲劇が再び繰り返されることになる。
(溝上憲文=文)
http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_16145.html