話して~♪

私の話も、あなたの話も

思い出した

2007-05-07 17:11:11 | 花日記 
この頃私に元気がないからか、私が何も言わないのに
彼が出かけようと言った。
連休でどこも混んでいるに違いないから、人のいない
山に行きたいと言う私の願いに応じて車を走らせてくれた。

車の中で何も話さず、ただ流れる景色を見て過ごす。
都会の景色はすぐに青い田んぼになり、やがて林となる。

広い林の中の道を、彼は私の手を引いて少し先を歩いていく。
私は山の音に耳を傾けて、土鳩やカッコウや、蛙の鳴き声を聞く。
はねる鯉の水音。マガモのつがい。




土の上に光る木漏れ日。水の上を吹き抜ける風。
立ち止まったり振り向いたりして寄り道する私を、彼はただ
黙って止まって、しばらくすれば手を引いて歩いていく。
まるで子供を連れ歩くように。






私が休めば彼も休み、木のテーブルに突っ伏して一面の
緑の中の日の光を見つめてただぼんやりと自然の一部になる私。
起き上がるまで彼は私の首筋に手を置いて、コーヒーを飲んでいた。



そうして再び私達は歩き出した。
彼が少し前を歩いて、私の手を引いて。何も話さずに。

どれだけの距離を歩いただろう。もうすぐこの森を抜ける頃、

こうやって私は、自分の人生の中で泣いたり、立ち止まったり、
いつまでも過去を振り返ったりしながら迷ったりして来たけれど、
そのたびに彼がこうやって黙って手を引いて、今日まで前に
歩ませてくれたんじゃないか。
そんな気がしてきた。



彼が何も言わずに、何も叱らずに何も励まさずにいたから、
何もされていないような気がしていただけだったのかもしれない。
ちょうど今日のように。

そして思い出した。
一生側にいると言ってくれた彼の誓いを。