この頃私に元気がないからか、私が何も言わないのに
彼が出かけようと言った。
連休でどこも混んでいるに違いないから、人のいない
山に行きたいと言う私の願いに応じて車を走らせてくれた。
車の中で何も話さず、ただ流れる景色を見て過ごす。
都会の景色はすぐに青い田んぼになり、やがて林となる。
広い林の中の道を、彼は私の手を引いて少し先を歩いていく。
私は山の音に耳を傾けて、土鳩やカッコウや、蛙の鳴き声を聞く。
はねる鯉の水音。マガモのつがい。
土の上に光る木漏れ日。水の上を吹き抜ける風。
立ち止まったり振り向いたりして寄り道する私を、彼はただ
黙って止まって、しばらくすれば手を引いて歩いていく。
まるで子供を連れ歩くように。
私が休めば彼も休み、木のテーブルに突っ伏して一面の
緑の中の日の光を見つめてただぼんやりと自然の一部になる私。
起き上がるまで彼は私の首筋に手を置いて、コーヒーを飲んでいた。
そうして再び私達は歩き出した。
彼が少し前を歩いて、私の手を引いて。何も話さずに。
どれだけの距離を歩いただろう。もうすぐこの森を抜ける頃、
こうやって私は、自分の人生の中で泣いたり、立ち止まったり、
いつまでも過去を振り返ったりしながら迷ったりして来たけれど、
そのたびに彼がこうやって黙って手を引いて、今日まで前に
歩ませてくれたんじゃないか。
そんな気がしてきた。
彼が何も言わずに、何も叱らずに何も励まさずにいたから、
何もされていないような気がしていただけだったのかもしれない。
ちょうど今日のように。
そして思い出した。
一生側にいると言ってくれた彼の誓いを。
彼が出かけようと言った。
連休でどこも混んでいるに違いないから、人のいない
山に行きたいと言う私の願いに応じて車を走らせてくれた。
車の中で何も話さず、ただ流れる景色を見て過ごす。
都会の景色はすぐに青い田んぼになり、やがて林となる。
広い林の中の道を、彼は私の手を引いて少し先を歩いていく。
私は山の音に耳を傾けて、土鳩やカッコウや、蛙の鳴き声を聞く。
はねる鯉の水音。マガモのつがい。
土の上に光る木漏れ日。水の上を吹き抜ける風。
立ち止まったり振り向いたりして寄り道する私を、彼はただ
黙って止まって、しばらくすれば手を引いて歩いていく。
まるで子供を連れ歩くように。
私が休めば彼も休み、木のテーブルに突っ伏して一面の
緑の中の日の光を見つめてただぼんやりと自然の一部になる私。
起き上がるまで彼は私の首筋に手を置いて、コーヒーを飲んでいた。
そうして再び私達は歩き出した。
彼が少し前を歩いて、私の手を引いて。何も話さずに。
どれだけの距離を歩いただろう。もうすぐこの森を抜ける頃、
こうやって私は、自分の人生の中で泣いたり、立ち止まったり、
いつまでも過去を振り返ったりしながら迷ったりして来たけれど、
そのたびに彼がこうやって黙って手を引いて、今日まで前に
歩ませてくれたんじゃないか。
そんな気がしてきた。
彼が何も言わずに、何も叱らずに何も励まさずにいたから、
何もされていないような気がしていただけだったのかもしれない。
ちょうど今日のように。
そして思い出した。
一生側にいると言ってくれた彼の誓いを。