MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2742 「令和の米騒動」はいつまで続くのか

2025年02月12日 | 社会・経済

 私たちの生活に身近なコンビニや飲食店などで、(昨年に引き続き)コメ商品の値上げが相次いでいると1月24日の日本テレビが報じています。

 セブンイレブンは1月20日、おにぎりや弁当など一部商品を値上げすると発表。『塩むすび』は税抜き108円から128円と2割アップ、『唐揚げ弁当』は530円から580円に値上げされるということす。

 また、コメが欠かせない回転寿司でも、はま寿司が昨年末から約半数の商品を165円から176円などに値上げしたほか、ファミリーレストランのデニーズでも、ライスを税込みで44円値上げした由。いずれも、最近のコメの価格高騰が理由とされ、消費者の財布に直接打撃を与えています。

 さて、こうした報道を見ても、店頭から在庫が消え「令和の米騒動」と言われた昨年の夏以降、(令和6年産米が流通して久しい現在でも)コメ価格の高騰はとどまるところを知らずに続いていることがわかります。

 各種報道によれば、首都圏のスーパーなどでの(令和6年産米の)販売価格は5キロで4000円程度とのこと。前の年の同じ月に比べ2倍近くとなり、「米騒動」と騒がれた昨年よりもむしろ値上がりしている状況とされています。

 農水省によれば、そもそも米農家から卸売業者に販売される際の『相対取引価格』(平均値)が、2024年産は60kgあたり2万3715円と前の年に比べて約1.5倍に跳ね上がり、比較可能な2006年以降最高値を記録しているとのこと。以前のような品不足感はないものの、これにより「卸→販売業者」間の取引価格はさらに跳ね上がり、5キロ5000円に迫る銘柄米も出始めていると伝えられています。

 外食やスーパーなど、売り先が確保できているのに手元在庫が乏しい業者は、高値でも買わざるを得ない状況に置かれ、そのコストが商品価格に反映されている。また、それを逆手に取って「コメ転がし」的なことを行っている業者なども現れて、悪循環が続いているということです。

 さて、こうしたコメ価格の高騰を受けて、1月31日、政府はようやく備蓄米の放出(厳密に言うと「貸出し」)を発表。江藤農相は7日に早期実施の考えを表明しました。不作や災害など、緊急時に備えた「政府備蓄米」は、政府がJAなどから毎年20万トンずつ主食用米(1万5000円/60kg)を買い入れ、放出する事態が起こらなければ5年後にエサ米(1000円/60kg)として処分するというもの。

 これまでほとんど放出した例がないので、その背景に「米価維持のための安定需要の確保策」といった(極めて政治的な)政策意図があるのは周知の事実ですが、いずれにしても年間500億円、100万トンの備蓄なのでトータル2500億円の財政負担が生まれていること、そしてもちろん、それを負担しているのが国民・納税者であることに間違いはありません。

 今回、その一部がJAなどの集荷業者を通じて市場に供給されるころになりますが、何とも面倒くさいのは、放出した同量のコメを政府が1年以内に買い戻すとしていること。何故そんなことをするかと言えば、その分を放出したままでは、市場にコメがだぶつき7年産米の価格が急落する恐れがあるからです。現在、高値は続いているものの、6年産米を大量に誰かが食べてしまったという話は聞きません。さらに、米価が異常に高騰していることもあって、米農家が今年(令和7年)産のコメの作付けを大幅に増やす可能性も考慮する必要があったのでしょう。

 おコメの値段が下がるのはもちろん消費者としては有難いことですが、主食の需給管理を担当する(そして生産者の味方である)農水省としては看過できようはずもありません。例え農水省が許しても、コメ農家やJAの庇護者である農林族政治家が黙っていることはないでしょう。

 簡単に言ってしまえば、米価が高騰しても備蓄米が「放出」されることはないということ。結局のところ、納税者であり消費者でもある国民が「備蓄米制度」の恩恵を被ることはなく、おまけに高いコメまで買わされる。こうして米価を維持することで利益を得るのは、米流通に携わる一握りの人たちあることはまちがいありません。

 さてその一方で、令和5年度産米が不作だったのは事実しても、令和6年産米の米が作況指数は101と平年を上回ったにもかかわらず、なぜ市場にコメが出回らないのか。

 農水省の調査によれば、令和6年産米の生産量は、前年より18万トン増えていたとのこと。しかし、収穫後の年末にJA全農などの大手集荷業者が集めた量は、前年よりも(少なくとも)21万トンも減っていたとのことです。

 と、すれば、通常の流通経路から消えたこの「21万トン」が、価格高騰の背景にあると見て間違いないでしょう。忽然と消えた(ご飯茶碗で実に32億杯という)大量のおコメは、一体どこへ消えたのか。報道によれば、農林水産省では、米の値上がりを見込んだ流通業者や生産者などが、米を抱え込んでいると見ているということです。

 生産者や業者が、コメをより高く売れるタイミングまで市場に出さずにいることは、(それだけのリスクやコストを背負うことになるだけで)もちろん違法でも何でもありません。昨今では、JA(全農)などの大手卸を通さなくても、スーパーなどの流通業者が生産者から直接仕入れるルートも一般化、さらにインターネット通販やふるさと納税などを通じて生産者から直接消費者に米を届ける仕組みも整ってきているので、それはそれで健全な姿なのかもしれません。

 ただし、もしも一部の流通事業者などが、投機目的で6年産米を(どこぞの倉庫などで)大量に抱えている状況があるとすれば、市場の大きな不安定要因になるのは明らかでしょう。消費に適するお米の期限は、持って2年間というところ。そうしたものが、(例えば「偽装」とかいった形で)今後、不適切に市場に流れ出れば、消費者に大きな混乱をも招きかねません。

 首都圏でコメを作り続けている知り合いの農家の話では、昨年の稲刈りが終わった時分に、(少し強面の)見かけないおじさんたちが4トントラックで近所の農家を回り、JAに出す値段の1.5倍の価格で新米を買い集めていった由。全然知らない相手でも、その場で札束を置いて買い上げていくので、(いくら売ったか税務署にもバレないし)小遣い稼ぎにと10俵単位で取引した農家も多かったということです。

 ともあれ、この「令和の米騒動」はいつまで続くのか。6年産米がどこかに滞留しているのであれば、(コメ消費も落ち込んでいる折)いつかはその値段も下がっていくのでしょうが、心配なのは政府からは「相場を下げよう」という意思が感じられないこと。

 まあ、コメの市場価格が高止まりすれば、農水省のステークホルダーである米農家も流通業者も潤うので、放置しても(省益としては)問題はない。さらに、農家の所得が一定以上になれば農水省は補助金をカットできるので、今の相場を維持したいという動機もあるのかもしれません。

 しかし、いずれの事態となっても、迷惑をこうむるのが消費者であることは間違いありません。(それにしても)こうした事態に何もできない米行政のいい加減さに関しては、納税者であり消費者である国民はもっと怒っていいのではないかと改めて思うのですが、果たして皆さんはいかがでしょうか。



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