MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2371 ガソリン補助金はどこへ行った?

2023年02月26日 | 社会・経済

 経済産業省が1月25日に発表したレギュラーガソリン1リットル当たりの店頭小売価格(23日時点)は、全国平均で前週比10銭安の168円10銭だったそうです。

 折からの円安に一定の歯止めがかかる一方で、原油価格は小幅な値動きが続き、今回は3週ぶりの値下がりとのこと。地域別では、京都など22道府県で値上がりが続いたものの、横ばいが6府県、値下がりが長崎など19都県だったとされています。

 政府が石油元売り会社などに支給する補助金の価格抑制効果は14円70銭。1月26日以降の補助金は、原油価格の上昇を背景に1リットル当たり17円50銭に増額されるということです。 

 思えば、ウクライナへのロシアの侵攻をなどによる世界的な原油価格の上昇を背景に、政府が、ガソリン価格の高騰を抑えるため(元売り事業者への)補助金の支給を始めて1月27日で1年が経とうとしています。

 当初は時限的措置だったはずの措置は、結局、拡充・延長が繰り返され続けており、9月末までに投入する予算額は国民一人当たり5万円超。総額で6.2兆円にまで膨張している状況です。

 世界経済はインフレ基調で進んでいるものの、もとよりウクライナにおける戦争により原油の採掘量が減ったりしているわけではありません。ロシア産の原油が(直接)西側に流通できなくなり、品薄を見込んだ先物取引の活発化などで市場価格が高騰。結局のところ、どこかの誰かの大きな儲けを国民の税金で補填している姿に変わりはありません。

 国内の石油元売りだけを見ても、昨年秋の中間決算時点で、ENEOS(HD)は前年同期比56.3%増の7兆3940億円の黒字、出光興産が同67.9%増の4兆8140億円の黒字、コスモエネルギー(HD)が同25.2%増の1兆3715億円の黒字となり、出光とコスモでは過去最高を更新しています。

 莫大な公金が石油市場に流れ込むこうした状況を、納税者は、そして消費者はどう感じているのか。1月27日の時事通信が、『ガソリン補助金、支給から1年 6兆円超投入、見えぬ出口』と題する記事を掲載しているので、小欄に概要を残しておきたいと思います。

 開始から1年を迎える政府のガソリン価格の抑制事業だが、未だに脱炭素化に逆行する手厚い支援策の「出口」は見えてこない。多くの財源を費やしてきたにもかかわらず、価格抑制効果事態が消費者に十分に伝わっていないとの指摘もあると、記事はその冒頭で指摘しています。

 実際にスタンドで給油するお客さんは、政府がいくら補助金を出しているのか実感していない。いつも「ガソリン価格が高い、高い」とこぼしているだけだと、記事は(補助金の恩恵を知らない)消費者の声を伝えています。

 振り返れば、補助金は2022年1月、ガソリンや軽油、灯油、重油の価格を抑える「激変緩和措置」として始動した。石油元売り会社に支給する補助金の上限額は当初1リットル当たり5円だったものが、ロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰に合わせ、3月に25円、4月に35円に引き上げられたということです。

 一方、足元の原油価格は、世界経済減速による需要減退を見込んで落ち着いている。昨年12月に成立した22年度第2次補正予算で(新たに3兆円を計上し)今年9月末までの延長が既に決まっていることもあり、政府は補助金の上限額を1月から毎月2円ずつ減額し、5月には25円まで引き下げる方針だと記事はしています。

 これは、補助金事業を急にやめれば、(市場や消費者の間に)買いだめなどの混乱が起こる可能性があるため。官民で協力し、上限額を徐々に縮小しながら「出口戦略」を探る方針だということです。

 この事業と併せ、政府が1月から3.1兆円を投じ、高騰する電気・ガス料金の負担軽減にも乗り出したのは広く報道されているところです。これにより、エネルギー価格は(トータルで)多少の安定感を保つことになるでしょう。

 しかしその一方で、巨額の財政資金を使ってエネルギー価格を抑え込む施策は、家計・企業の省エネへの意欲を鈍らせ、脱炭素化に逆行しかねないという指摘もあるようです。

 さて、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、(こうした補助金は)「税金の使い方として有効性に疑問だ。価格上昇で打撃を受けている家計や事業者に絞って支援する方が価値の高い政策になる」と(強い言葉で)指摘していると記事はしています。

 ガソリン価格が上がってしまえば、ガソリンをあまり使わなくてもいい人たちは(なるべく)ガソリンを使わないように努力するので、需要が減る。需要が減れば当然、価格が下がっていく流れになるわけですが、そういう機能がこの政策によって失われてきている側面もあるということでしょう。

 高ければなるべく使わないように知恵を絞るもの。省エネへのインセンティブが技術や考え方を一新させる原動力となるのは言うまでもありません。長期にわたる事業の維持は、本来ある価格メカニズム、市場の機能を失わせることに繋がると考える記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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