MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2615 ハイリスク社会がやってくる(その1)

2024年07月27日 | 社会・経済

 旧総理府が行っていた「家計調査」に、夫婦と子供2人の(いわゆる)『標準世帯』モデルが初めて登場したのは1969年のこと。人手不足に陥った都市部に地方から若者が流入したこの時代、世帯の核家族が進む中、大都市郊外には多摩ニュータウン(東京都)や千里ニュータウン(大阪府)などの大規模団地が次々と建設されていきました。

 そこで主流となったのは、サラリーマンの夫が家計を支え、妻が専業主婦として家庭を守るという家族像。折しも、経済の発展と都市問題の顕在化に伴い、様々な社会制度が形作られていったのがこの時期です。政府の社会保障施策、教育施策、税制や住宅政策など、現在にまで続く制度がこの標準世帯をモデルに次々と作られていくことになります。

 しかし、バブル経済の崩壊とともに始まった1990年代に入ると、家族の形も次第に変化を見るようになりました。共働きの一般化により(気が付けば)専業主婦世帯は少数派に。子供が結婚せず親に依存し続ける「パラサイト・シングル」が話題を呼んだのもこの時期でした。

 さて、そのような中、今年4月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、全世帯に占める「1人暮らしの世帯」の割合は2020年の38%から増加を続け、2050年には44.3%と30年間で6.3ポイント増える見通しとのこと。昭和に始まった核家族化はさらに進み、令和の標準モデルは「単身・家族なし」ということになるのかもしれません。

 そうした折、6月7日の日本経済新聞の経済コラム「経済教室」に、中央大学教授の山田昌弘氏が『変わる家族像 社会保障制度を個人単位に』と題する論考を寄せていたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 国立社会保障・人口問題研究所の直近の推計によれば、2050年には単独(一人暮らし)世帯が44.3%に達し、特に一人暮らしをする65歳以上の人が男性は450万人、女性は633万人に達する由。つまり一人暮らしの高齢者が1千万人を超える社会がもうすぐ到来すると山田氏はこの論考に記しています。

 そして、氏によれば、問題となるのはその中身。2020年時点でも高齢一人暮らし男性の未婚率は33.7%にのぼるが、2050年にはそれが59.7%と6割近くに達することが予想されている。女性でも未婚率が11.9%から30.2%までに増え、人数でみれば未婚単身者は3倍以上。さらに既婚者でも、子どもがいる人の割合は低下傾向にあるということです。

 さらに、現在の一人暮らし高齢者は、別居でも子どもや兄弟など近親者がいるケースが大部分だが、今後は近親者が一人もいない高齢単身者が大きく増えるとのこと。どのように社会で対処すべきなのかが今後の社会保障の大きな課題となると氏は言います。

 分かり易く言えば、今の80歳ぐらいの人は95%が結婚して、離婚経験者は1割程度。再婚率も高かったが、今の若い人は4人に1人が生涯未婚で、結婚した3組に1組以上が離婚する。結果、結婚して離婚せずに老後を迎えられる幸せな人は、2人に1人もいない計算になるということです。

 これは、単に家族のあり方が多様化しただけでなく、若者のライフコースが「リスク化」していることを意味していると、氏はここで指摘しています。

 リスク化とは、それが誰に起きるか、いつ起きるかが予測できなくなる事態を指している。95%が結婚できた時代には、若者は結婚したければほとんどができると思えた。だが今は、それすら実現できない人が増えている。つまり生涯独身者の大多数は「かつて結婚したかったが結果的にできなかった人」になるということです。

 さらに、離婚が少なかった50年前なら、結婚したら老後まで一緒に生活できると思ってもよかった(実際そうだった)。しかし、現在、離婚数は結婚数の4割程度まで上昇しており(2023年速報値で結婚数約49万組、離婚数約19万組)、近年では結婚の4組に1組はどちらかが再婚という状況も生まれていると山田氏は話しています。

 こうして、生涯未婚・離婚は、若い世代にとってかなりの確率で起きるリスクとなっている。しかしその一方で、日本の社会保障・社会福祉制度はこのライフコース上のリスクの高まりに対応しきれていないというのが氏の指摘するところです。

 現行の社会保障制度は、未だ人々が(昭和の)標準的なライフコースをたどることを前提につくられていると氏は説明しています。

 標準的ライフコースとは「若いうちに結婚し、主に夫が仕事で家計を支え、妻が家事やケアを担い、子どもを育て、離婚せずに老後を迎える」というもの。そして、隠された前提として、すべての人は結婚して離婚しないことが想定されているということです。

 さて、確かに私の周囲を見渡しても、独身のまま還暦を迎えた者は数多く、離婚によって独身となった者に加え、バツ2や再再婚といったツワモノもチラチラと見かけます。そして彼らも、いずれ80代、90代を迎え一人暮らしの弱い老人になっていくのでしょう。

 高齢の単身独身者の増加は、個人の生活の不安定化ばかりでなく社会の不安定化につながるのもまた事実。懸念される社会全体のリスク化に対し、社会制度の早期の見直しを提案する山田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

※「#2616 ハイリスク社会がやってくる(その2)」に続く



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