MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2240 社会にとっての孤独のリスク

2022年08月28日 | 社会・経済

 安倍晋三元首相を銃撃して逮捕された山上徹也容疑者は1980年生まれの41歳。事件から半月後に見つかった同容疑者のTwitterアカウントには、ただ独りアパートの部屋にこもり、家族を崩壊に至らしめたとされる統一教会への恨みを募らせる彼の思いが残されていたということです。

 一方、同アカウントに対し事件後にリプライされたコメントの多くは「徹也くん、たった一人でよく頑張った」「」山上さん、自分を責めて死なないでください」といった、容疑者の心情に理解や同情の視線を向けるものが多かったと7月24日の「現代ビジネス」は伝えています。(『山上容疑者に寄せられた「賛同の声」と「模倣犯」の危険性』)

 また、山上容疑者と1歳違いの同世代で、先日、死刑が執行された秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚も、実生活で仕事や友人を失ったことから社会との接点が掲示板のみになり、彼が参加していた掲示板への「荒らし」に対する抗議の表明として無差別殺傷事件を選んだと話しています。

 事件直前、彼が掲示板に「負け組は生まれながらにして負け組なのです まずそれに気付きましょう そして受け入れましょう」などと書き込んでいたことなどから、事件後、加藤を負け組の英雄とし、「神」「教祖」「救世主」とまでみなす共感現象が起きたのを覚えている人も多いでしょう。

 分断された個人の孤独感はこうした事件をきっかけに伝染し、(皮肉なことに)波紋のように共感の輪を広げていく。いずれにしても、現代の日本で頻発しているこうした独身男性によるテロ事件の背景に、人間関係から切り離された「孤独」の存在があるのは否定できない事実のようです。

 こうした状況を踏まえ、「週刊AERA」の7月4日号に「高まる中高年男性の孤独感、病気リスクも 官民挙げた居場所づくりが必要」と題する論評記事が掲載されていたので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 コロナ禍では、「孤独」も社会問題化した。特に40、50代を中心とする働き盛りの「孤独感」が他の世代より深刻さを増していると、記事はその冒頭に記しています。

 東京都健康長寿医療センター研究所が2020年から21年にかけて全国の男女約3万人を対象に実施した調査によれば、コロナ前との比較で40代は約7ポイント、50代では約10ポイントも孤独感が悪化しており、他の年代に比べ影響が大きいことがわかった。コロナ禍で家庭や職場におけるコミュニケーションの質が変化し、疎外感を感じている中高年も多いのではないかというのが記事の認識です。

 記事によれば、孤独・孤立問題を研究しているグローコム代表取締役の岡本純子氏は、特に中高年男性の孤独感が増している背景には、(社会的要因として)日本企業のシステムの存在があると話しているということです。

 企業という縦割り社会では、フラットなコミュニケーションができづらい。さらに文化的にも、中高年男性は『孤独をよし』とする価値観に縛られ、孤独は『自己責任』だと考えているケースも多いということです。

 医療関係者の間では、孤独は「万病のもと」と考えられている。海外では孤独がうつや心臓病、認知機能の低下など精神的・肉体的な病気のリスクを高めるという研究結果が数多く報告されていると記事は指摘しています。

 人間は社会的動物であり、他者との繋がりが途切れ孤独が常態化すると、心身への強いストレスとなる。このため、アルコールや薬物、ギャンブルなどに走る傾向が強いのも孤独を抱えた人の特徴だということです。

 また、人は慢性的な孤独を抱えると、社会に不寛容になるというのが記事の指摘するところです。人は孤独になればなるほど自分を守ることに必死になり、自分を客観的に認知するメタ認知ができなくなっていく。その結果、社会に対して敵愾心を持ったり、人間に対して悪意を抱いたりするようになるということです。

 そこで大切になるのは、「孤独のリスク」を社会全体で認識すること。孤独を(個人の問題としてではなく)社会の問題として捉え、官民連携して健康面や福祉面で制度的な対策をとっていくことが求められるというのが記事の指摘するところです。

 孤独を抱える男たちの増加が社会にとって大きなリスクになりうることは、(確かに)昨今の多くの事件が証明しています。

 安心安全な社会は、人と人とのつながりによるソフトパワーがもたらすもの。(警察力に頼った)「治安の維持」というハード面のからばかりでなく、暴力的な意識に絡めとられていく孤独を、一つ一つ救い上げていく地道な作業が必要なのかもしれないと、改めて感じる所以です。

 



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