MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2239 話し相手は妻だけおじさん

2022年08月27日 | 社会・経済

 国立社会保障・人口問題研究所が2018年に発表した調査では、65歳以上の高齢者で1人暮らしをしている男性の15%、およそ7人に1人(因みに女性では5%、20人に1人)が会話の頻度が2週間にわずか1回以下であるという結果だったとされています。また、65歳以上で一人暮らしの男性の30.3%(因みにこちらも女性では9.1%)が、「日ごろのちょっとした手助け」で頼れる人が「いない」と答えたということです。

 同様の傾向を示すものとしては、米国の財団が同じ年の8月に発表した日米英3国での孤独に関する調査で、孤独であると回答した人のうち、10年以上、孤独であるという割合が日本では35%と、アメリカの22%、イギリスの20%より圧倒的に高かったというものもあります。

 「男一匹、淋しいなんてのは女子供の戯言だ」と言ってしまうのは簡単ですが、「病気」「孤独」「貧困」は人勢の三大不安と言われ、人との繋がりの欠如は日常的な喫煙に匹敵するほどの健康リスクがあるという研究結果もあるようです。

 それにしても、世のおじさんたちはなぜこれほどまでに孤独なのか。7月22日の総合経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に、コミュニケーション戦略研究家でグローコム代表取締役の岡本純子氏が『「友達は妻だけオジサン」中高年男の超残念な現実』と題する論考を寄せていたので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 男性は(女性に比べ)なぜ孤独に陥っていく人が多いのか。岡本氏はこの論考で、アメリカの心理学者トーマス・ジョイナーの(著書『Lonely at the top』(頂上で孤独)における)分析を紹介し、男女の違いを説明しています。

 男性はその生涯において成功と権力を追求することに熱中し、(女性に比べて)「関係性を構築する努力」をしない。男性同士の交流は、例えば仕事やスポーツ、趣味などを媒介して成立しているためそれほど「人」に対する気遣いをする必要がなく、人間関係の維持にそれほどの熱意を注ぐことがないということです。

 一方、女性は小さいころから、複雑な人間関係を読み解き、お互いの表情や感情を気遣いながら共感関係を構築し、維持する訓練をし続けている。この努力の違いは大きく、結果的に、男女の間で対人関係の構築力に大きな差が出てしまうというのが氏の指摘するところです。

 人類史をさかのぼって考えても、古来、男性は外に出て狩りをし、獲物を得ることが仕事だった。そこでは、敵を出し抜き、勝ち残る「戦闘力」「競争力」は問われても、「会話力」「対話力」などはさほど求められなかったと氏は言います。

 男性は生まれた家族と一生を共にした一方で、多くの女性は婚家に嫁ぎ、新しい人間関係を一から築かなければならなかった。そこで、子どもを産み育てるという過程でも、周りの支援を受けるための「協創力」が欠かせなかったということです。

 オックスフォード大学のダンバー教授らは、高校から大学に進んだ学生を追跡調査し、「女性は、電話で話すことなどを通じて長距離の友情関係を維持することができるが、男性は一緒に何かをすることがなければ、関係を継続することが難しい」と結論づけたと新井氏は話しています。

 男性は、スポーツを一緒にするとか、一緒にお酒を飲むといった共通体験がないと、関係を維持できない。その理由は、女性がお互いの目を見ながら、向き合う(face to face)のに対し、男性はテレビでスポーツを観るときのように、互いに肩を並べて、共通の目的(スポーツや仕事、ゲームなど)のために、コミュニケーションをとる(shoulder to shoulder)スタイルだからだということです。

 つまり、男性にとって、人間関係の構築や維持はそれだけ難しいということ。結果として、(ある調査によれば)「悩み事を相談できるような友人がいないという人は全体で2割に対し、男性50~60代で3割台、70歳以上では半数を超える」事態が生まれてしまうというのが氏の見解です。

 さて、「ひとりが楽しい」というのであればそういう人は(それで)いいのだけれど、社会的には、「他者との接触や友人数が多い人ほど、生活に満足している割合が高く、とくに30~50代の中年男性では、『悩み事の相談相手の人数』によって『生活満足度』が大きく異なる」という現実を考える必要があると、氏はこの論考に綴っています。

 人は「何かにつながりたい生き物」だと言われている。うまく人とつながれず、不安を感じると、特定の人(たとえば妻や母親)、アルコールやあやしい宗教、極端な思想に「依存」したり、心身に影響が出たりという状況が生まれやすくなると氏はしています。

 特に男性は、ほかの男性の前ではストイックなロボットのようにふるまうことを求められ、親密な関係性を築けない。結果、(妻などの)女性に依存するようになって、気がつくと「妻が唯一のつながり」であり、「社会への窓口」になっていたりするということです。

 定年退職を迎え、家でごろごろしているばかりのお父さんたち。掃いても掃いてもどこかへ行ってくれないということで、「濡れ落ち葉」などという大変残念な言われ方をされています。これまで苦労を掛けてきた奥様方に御迷惑をおかけしないためにも、流石に何か対策を講じる必要がありそうです。

 では、どうしたらいいのか?新井氏はこの論考で、「家族」「肩書」「会社」の3Kに依存するのではなく、「趣味」「仕事」「知り合い」の3つのSを大切にする生活を提案しています。

 束縛感のある関係性を無理につくる必要はない。それよりも大切にしたいのは「見知らぬ人以上、友達未満のゆるい関係」であり、(これまでトレーニングを怠ってきた)そうした関係性を構築するための努力だと氏は言います。

 例えば、スナックや喫茶店などでの何気ない会話。顔見知りや近所の人とのちょっとした立ち話。病院の先生や行政の関係者、お店の人とのやり取りなど。コロナでコミュニケーションは希薄化し、将来的には、お一人様がデフォルトになる時代がやってきている。折しも、礼節をもって関係性を維持するコミュニケーションスキルの重要性が高まっているということです。

 「shoulder to shoulder」から「face to face」へ。身の回りの「一期一会」を大事にし、緩やかに気持ちよくつながり続けることが重要で、例えご近所との「落ちのない」話でも、きちんと向き合って(おっくうがらずに)お付き合いしていかなければ先方からも理解はされないということでしょう。

 定年退職を控えた世の中年諸氏は、まずは奥様を練習相手に、(今のうちから)そうしたスキルを磨いおいてはどうかと考えるのですが、果たしていかがでしょうか。

 



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