立憲民主党の枝野代表は、6月15日に衆議院本会議で行われた内閣不信任決議案の趣旨弁明の中で、新型コロナウイルス対策として消費税率の時限的な5%への引き下げを次の衆議院選挙で掲げる選挙公約に盛り込むことを明らかにしました。
不信任決議という晴れ舞台での代表による突然の「減税」表明に、立憲民主党内では驚きの声があがったとされていますが、本会議後、枝野氏が記者団に対し「選挙公約ではなく、政権として実現する」と訂正したことによって、何とか党内の混乱は収まったようです。
そもそものところ、自民、公明両党の協力を得て5%から10%への消費増税の道筋をつけたのが民主党の野田佳彦元政権でした。このため立憲民主党内には、(当時の政権幹部を中心に)消費減税に慎重な議員は少なくないと聞きます。それにもかかわらず、枝野代表が消費税減税に前のめりの姿勢を見せるのはなぜなのか。
現在、消費税の税率引き下げや(最終的には)消費税廃止を主張している共産党との選挙協力を積極的に進めている枝野代表ですが、その胸の内には、野党連合により政権を奪還するには「消費税」の議論を避けて通ることができないだろうという、ひとつの算段があるのかもしれません。
さて、こうした政治の動き踏まえ、7月15日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は、「消費税減税論者に問う」と題する一文を掲載し、消費税減税という政策の問題点を指摘しています。
消費税を減税すべきだとする提案が各方面から出ているが、このような提案をしている人たちにぜひ「聞いておきたいこと」があると、コラムはその冒頭からから挑戦的です。
その第1は、(消費税減税が)実際に消費の活性化に効果があるのかということ。家計の消費活動が低迷していることは間違いないが、消費税率を引き下げれば(本当に)消費活動は活発化するだろうかと筆者は問いかけています。
筆者によれば、内閣府の「家計可処分所得・家計貯蓄率速報」でコロナ禍以前の19年10~12月期と20年10~12月期を比較すると、可処分所得は1.7%減少したが消費が3.2%とそれ以上に減少したため、家計の貯蓄は32.1%も増えている(季節調整値)とのこと。つまり、お金は余っているのだから所得減が消費低迷の原因でないことは明らかで、消費が低迷している理由は、感染症対策として多くの家計が旅行、外食などの対面型消費サービスを控えたためだというのが筆者の認識です。
で、あれば、消費減税で可処分所得を増やしても消費はあまり増えないだろう。一人一律10万円の特別定額給付金と同様、そのまま貯蓄に回るだけだということです。
筆者は第2の論点として、「高所得者ほど得をする」という問題の存在を挙げています。こうした消費税の特徴がもたらす影響を、一体どのように説明するのかということです。
筆者によれば、家計調査によって所得階層別の年間消費支出額を見ると、最も所得の低い第1分位の家計の支出額は181.8万円、最も高い第5分位の支出額は527.3万円だということです(2020年)。そこで消費税率を10%から5%に引き下げると(軽減税率は無視する)、第1分位の家計は9.1万円得をする一方で第5分位の家計は26.4万円得をする。高所得層は低所得層の2.9倍も得になると筆者は言います。
この時、低所得層の家計に対して「皆さんはもともとの所得水準が低いのだから文句はないでしょう」と誰が言えるのか。単純に見れば、消費税はそのままにひとり10万円を配った方がよほど公平だということになるでしょう。
そして、筆者による第3の指摘は、消費税減税論者には税率の引き下げは一時的なものか(それとも)恒久的なものか、財源はどうするのかといった基本的な制度設計を明確に示してほしいというものです。
一時的であれば、どんな条件が満たされれば再び消費税率を引き上げるのかを明示してほしい。財源を赤字国債に頼るとすると、赤字国債の増発を放置するのかについても聞いておきたいと筆者は言います。
放置するならば、将来世代の負担が増えないのか聞きたいし、放置しないならどんな手段で財政赤字を減らすのかを示してほしい。選挙が近くなると、消費税の減税という「お得な話」で票を集める誘因が強まるが、それが本当に「お得な話」なのかを知るためにも、こうした質問に答えた上で消費減税を提案してほしいというのが筆者の見解です。
さて、このコラムにおける筆者の指摘は(いちいち)もっともなのですが、何か一方的な印象を持たないでもありません。
第1の指摘で言えば、もしも消費税が下がれば「今のうちに大きな買い物をしておこう」とか、「溜まった貯金でワクチン接種後に旅行に行こう」といった人が増え、減税額以上に消費が伸びる可能性は十分にあるでしょう。
第2の指摘に関しては、そもそも消費税増税に当たってはその所得逆進性が問題視されていたくらいで、日々の所得が直接消費に繋がりやすい低所得層ほど痛税感が高いことは広く知られています。
逆に言えば、所得税率は低所得者層ほど生活への影響が大きいということであり、税率が下がればその金額以上にメリットを感じることができるということになります。
そして第3の指摘については、減税の期間については、まずはやってみてその効果によって判断するという方法もあるでしょう。財源についてはマイナンバー制度の導入などにより所得や資産の把握をより公正・的確に行うことで、2~5%分くらいは十分に確保できるような気もします。
とはいえ、誤解のないように言えば、私自身は決して消費税の税率引き下げや消費税廃止の議論に与するものではありません。安定財源としての消費税は消費社会化した先進国の税制としては必要不可決なものだし、10%程度の税率への担税力は、現在の日本の家計には十分あると考えるところです。
コロナ下の現状から見ても、国内にける現在の消費の不振は(飲食・旅行サービス業などの)特定の業種に偏在しており、その原因が家計の所得減に伴うものでないことは想像に難くありません。
多くの人たちは、お金は持っているけれども自粛生活の中で使い道がない。なので、一律に金を配ったり消費税を減税したりしても、本当に困っている人の役にはなかなか立たないというのが本当のところでしょう。
いろいろと書きましたが、結局のところ(こうした)消費税減税や消費税廃止の議論は、頭から否定してかかってもそう簡単に理解は得られないものではないかということ。
この議論が、今後も国の政局を大きく左右する問題であり続けることは(おそらく)間違いありません。自民党総裁選挙やその後の総選挙を控え、消費税減税の議論はまたぞろ盛り上がってくることでしょう。
であればこそ、当局としてもその都度、国民に対し丁寧な説明や議論を行っていくしか方法はないのではないかと(今回のコラムを読んで)私も改めて感じたところです。
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