一般に、日本人の長所と言えば「真面目」「勤勉」「几帳面」などと言われることが多いようです。確かに今回の新型コロナの感染拡大に際しても、中高年を中心に(政府や自治体の指示のまま)マスクの着用やワクチン接種、三密の回避などに一生懸命に取り組みました。そうしたおかげもあってか、日本の人口当たりの(これまでの)感染者数は欧米先進国などと比べてはるかに少なく、死者に至っては一桁以上の違いを見せているのが現状です。
一方、ウイルスへの感染が小康状態に入ると、日本人は自粛に律儀すぎるため、経済の回復が遅れてしまうおそれがあるとの懸念の声も上がるようになっています。実際、海外では、(逮捕も辞さないような)厳しい規制がなくなると同時に人々の間に日常生活が戻り、都市部ではマスクの着用や行動制限すら忘れ去られているような状況が報じられています。
英国をはじめ、オミクロン株の拡大が懸念されている状況にあっても海外からの渡航者の規制を行わない国々が多い一方で、日本では海外からの渡航者を原則受け入れていないのが現状です。空気を読み、律儀に規律に従うこうした国民性は、この先の日本の未来にどのような影響をもたらすのか。
大正大学教授の小峰隆夫氏が総合経済誌「週刊東洋経済」の1月15日号に「昭和時代と平成時代との違い コロナ後が心配、日本的対応力の光と影」と題する論考を寄せていたので、概要を紹介しておきたいと思います。
一昨年、平成の経済を振り返る本を書いた際にひとつ気づかされたことがあると、小峰氏はこの論考の冒頭に記しています。昭和時代の日本は、多くの困難に直面しながら総じてうまく切り抜け、多くの人が予想もしなかった経済発展を遂げたと氏は言います。高度成長を実現し、2度の石油危機やプラザ合意後の円高といったショックを乗り越え経済力を高めていったということです。
ところが、平成時代に入ると、人々は次々に現れる課題をうまく処理できず、予想外の厳しい状況に陥った。バブル崩壊と不良債権問題、アジア通貨危機と金融危機、デフレの進行、人口減少といった課題への対応を迫られ、現在に至るまで解決していないものもあるということです。
そして、氏がもうひとつ気づいたのは、平成時代は、社会的認識ラグが大きかったということ。経済が大きな課題に直面したとき、有効な政策を実現させるためには、社会全体がその問題の深刻さを認識する必要があると氏はしています。
ところが、平成時代に現れた諸課題は、問題認識までに長いタイムラグがあったというのが氏の認識です。このため必要な対策の発動は遅れ、場合によっては誤った政策判断がかえって問題を大きくしてしまった。例えば不良債権問題の深刻さについての認識は遅れに遅れ、結果的に莫大な公的資金を投入することになったということです。
こうした経験を踏まえ、「私は、日本経済は外生的なショックには強いが、内省的な課題を処理するのが苦手だと考えるに至った」と、氏はこの論考に綴っています。
石油危機などの外生的なショックについては、社会の認識が早く、日本的な全員一致・横並びの対応力と火事場の馬鹿力発揮した。ところが、平成時代の不良債権。デフレ、少子化といった問題は、我々自身が生み出したものであり、これに対応するためには責任の所在を明確にしたうえで、誰かがそのコストを負担する必要がある。日本経済は、この手の問題を処理するのが苦手なのだというのが氏の指摘するところです。
こんなことを改めて考えたのは、新型コロナウイルス感染症は外生的ショック型で、火事場の馬鹿力を発揮しやすいタイプの課題だと思ったから。実際、国際比較をすると、日本のコロナへの対応は高く評価されるべき水準を示していると氏はしています。
人口100万人当たりのコロナによる死者数は、米国2415人、イタリア2242人、英国2168人、フランス1822人、ドイツ1293人に対し日本は145人とけた外れに少ない。これは、日本では猛スピードでワクチン接種が進んだこと、屋外でのマスク着用率がほぼ100%を維持していることなどによるものだろうと氏は言います。
国民全体が強い危機感を共有し、横並びで一斉に対応を行った点で、戦後復興や石油危機への対応などに酷似しているというのが氏の見解です。しかし、一方でコロナ危機は、財政バランスの悪化、医療体制の整備、人口減少の加速、所得配分問題の複雑化など多くの課題を残した。これらはいずれも日本が苦手としている内省型の課題ばかりだと小峰氏は説明しています。
自らに内在する問題点の認識から始めなければいけないこうした問題に、(これから先)日本人はどのように対峙していくことができるのか。
誤魔化すことなくきちんと振り返り、必要な反省をし、既得権や岩盤規制を改革していく。こうした作業に(従来以上に)真剣に取り組まないと、「コロナには勝ったが、コロナの負のレガシーに敗れた」ということにもなりかねないとこの論考を結ぶ小峰氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。
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