厚生労働省の「令和2年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性は81.64歳で前年から0.23歳の増、女性は87.74歳と前年から0.29歳増と過去最高を更新中です。
世界の中でも以前から長寿国として知られる日本ですが、この20年だけを見ても平均寿命は、男性で3.92歳、女性で3.14歳延びています。さらに、ある年齢まで生きた人が「あと何年生きられるか」という平均余命では、たとえば65歳の人は、男性で20.05年、女性で24.91年と、90歳まで生きるのはもはや「当たり前」の時代を迎えているようです。
世界に目を向けてもこの数十年で100歳を超える人の数は着実に増えており、全世界で50万人近くにも達するとされています。1世紀を生き抜いた人を(敬意をこめて)「センテナリアン」と呼ぶそうですが、この先、そんなセンテナリアンが珍しくない時代がやってくることは確実でしょう。
それでは、この1世紀の間に倍近くも長くなった人生に備え、私たち個人はどのような行動を起こすべきなのか。2016年、人生100年時代にむけた著書「LIFE SHIFT(ライフシフト)」が世界的なベストセラーとなったロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン(Lynda Gratton)氏は、近著「LIFE SHIFT2」において、人生100年時代を生きるための新しい行動戦略として以下の3つを挙げています。
1つ目は、多くのステージを予期し、さらに新しいステージを出現させる「マルチステージ」という考え方です。人生を一つの生き方に限定せず、100年という長い人生をいくつかのステージに分けて柔軟に生きようというものです。
2つ目は、「年齢を自由に操る」というものです。生まれてからという生物的な年齢ではなく、選択し決断するという行動や思考こそが、年齢を決める要因となるという考え方です。
そして3つ目は、人々や社会が直面する制度的な課題への対処法を変えるということです。60歳以上では働けない、新しい知識や技術を習得できないといった思い込みによるマインドセットや固定観念を捨てるということです。
とはいえ、人類がこれまで経験したことのない未知の領域に入りつつあるのは事実です。早くもその一歩を踏み出しつつある先進諸国の人々は、高齢化の不安を乗り越えるためどのような努力をしていったらよいのか。
多くの人が100歳以上の寿命を見込めるようになる日本の社会を前提に、1月7日の日本経済新聞が「センテナリアンの挑戦」と題する興味深い記事を掲載しています。
政府も大きく旗を振る「人生100年時代」の到来。しかし、国民の間では(家計の問題を中心に)不安が先行し、歓迎ムードはないと記事はしています。権藤恭之大阪大教授らが2018年に行った調査によると、30~75歳で「100歳まで生きたい」と答えた人は6.8%にとどまっているということです。
こうした状況に、広島大学の角谷快彦教授は「金融リテラシーの重要性」を訴えていると記事はしています。高齢期を控えた人への調査では、複利やインフレの理解度が高い人ほど資産を増やし、老後の不安が軽くなる傾向が示された。お金のリスクに対する知識を身に着け、長期的な備えをすることで安心感が高まるということです。
記事によれば、60歳以上の貯蓄を含む金融資産は、2019年時点で約1200兆円に及ぶとされています。この15年間で約350兆円の伸びを見せており、日本の金融資産全体の3分の2を占めるということです。
実際、ニッセイ基礎研究所の試算でも、60歳以上の消費総額は10年ごろから年1兆円規模で増え続け、2030年には家計消費の49%(111兆円)に及ぶとされている。国際通貨基金(IMF)は日本の高齢者の貯蓄率が近年上昇している状況から、「想定外の長生きに備え退職後も貯蓄を続けている」と分析していると記事はしています。
そうした中、ニッセイ基礎研究所の前田展弘・主任研究員は、人生後半のライフスタイルを提案するようなサービスの市場が未開拓だと指摘していると記事は続けます。前田氏は、「高齢者の課題を解決するビジネスが育てば、消費が飛躍的に伸びる余地はある」と話しているということです。
もちろん、担い手としての高齢者への期待は消費だけにとどまりません。日本では65歳以上の労働参加率が25.3%(19年)と米国(20.2%)、ドイツ(7.8%)を大きく凌いでいる。内閣府調査では65歳を超えても働きたい人が7割に達し、働く意欲や余力ははまだ眠っていると記事は綴っています。
日本の高齢化率は29.1%と先進国で突出して高く、これが社会保障費の増大を招き、財政や家計を逼迫させる要因となってきたのは事実です。しかし、今後も寿命が着実に延びていくとすれば、65歳以上を高齢者と画一的に考え、限界を設定する必然性は薄れるというのが記事の指摘するところです。
確かに、自ら「年寄りはこうあるべきだ」という固定観念にとらわれ、自由な行動に枠組みをはめているのは高齢者自身だと言えるでしょう。前述のグラットン氏も話しているように、「高齢者」というマインドセットをいったん外して柔軟に自分の人生を生きることこそが、人を幸せにし、社会を豊かにすることに繋がるのかもしれません。
幸いにして、私たちにはリモートワークや自動化などの最新の技術がある。これらを最大限駆使することで、元気で意欲も旺盛な高齢者の社会参加をどう促していくか。それ次第で未来の光景は大きく変わると結ばれた記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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