ウクライナ周辺でロシアの軍備増強が着実に進んでいると、2月3日のCNNニュースが伝えています。ロシア軍はこの2週間で、ウクライナとの国境付近からベラルーシにかけて部隊を展開。ロシア・ベラルーシ両国の国防相は、これを今月実施予定の大規模演習に備えた派遣だと説明しているようです。
一方、米国を中心としたNATO諸国は、衛星写真などからロシア軍がウクライナ国境付近に10万人規模の部隊を展開していると分析。2014年に続き、ウクライナに再侵攻できる態勢が整ったとしています。
こうしたロシア軍の動きに対応し、米国国防総省は2月2日、東欧諸国などに計3000人規模の米軍を独自に派遣すると発表しました。米国政府は今回の決定とは別に、NATOが多国籍の即応部隊8500人をウクライナ周辺の東欧の加盟国に派遣するとしており、最終的には米国を含む加盟国による最大4万人ほどの多国籍軍がロシア軍に対峙する形で配備される可能性があるということです。
米中対立や新型コロナで世界が混乱する中、欧州にさらなる緊張感をもたらすロシア・プーチン政権のこのような動きは一体何を意図したものなのか。極東の日本にいてはなかなか理解しづらい昨今の欧州情勢について、1月31日の「Newsweek日本版」に、フォーリン・ポリシー誌コラムニストのカロリーヌ・デ・フラウター氏が「策士プーチンがウクライナ危機で狙っていること」と題する論考を寄せているので、参考までに紹介しておきたいと思います。
何を考えているのか本当のところは分からないが、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンがここ数カ月、欧米諸国の政治家や外交官を手玉に取ってきたのは(紛れもない)事実。しかも全ては、彼が一定数のロシア軍をウクライナとの国境地帯に移動させた結果だと、フラウター氏はこの論考の冒頭に記しています。
無論これは初めてのことではないし、ロシア政府には自国の領土内で自国の軍隊を移動させる正当な権利がある。とはいえ、こうした事態は全て、過去10年間にロシアが2回もウクライナに侵攻したという事実を踏まえて解釈されねばならないというのが氏の見解です。
ロシア軍は2014年にウクライナ領のクリミア半島を武力を背景に奪い取り、東部のドンバス地方にも侵攻して現在まで続く戦闘状態をもたらした。なので、今回の動きに対し欧米諸国は強く反発し、再度の侵攻には厳しい制裁で対抗するとロシア政府に警告したのは意外でも何でもないということです。
米大統領のジョー・バイデンも(押っ取り刀で)乗り出して、年初にはオンライン形式ながらプーチンとの首脳会談に臨んだ。これがパフォーマンスかどうかは別にして、プーチンに向け「ウクライナには侵攻するな」と警告したのは世界が知るところです。しかし、こういう派手な外交ショーこそが、プーチンの望むところかもしれないとフラウター氏はこの論考に綴っています、結局、欧米諸国はプーチンに踊らされてしまったのか。彼の仕掛けた巧妙な罠にまんまとはまってしまったのか。
実際、プーチン政権の直面する現実には厳しいものがあるというのが氏の認識です。天然ガスなどの輸出に頼るロシア経済は、繁栄には程遠い状況にある。しかも、この途上国並みの状況から抜け出出すための目立った政策努力は行われておらず、GDPはスペインなどの中規模国並みにとどまっていると氏はしています。一方で人口は減り続け、国民の技能水準も下がる一方。社会全体の質が落ちていて、しかも現政権には現状を打破して国民の期待に応える政策がないということです。
こうした中、(その代わりとして)プーチンは現体制の中期的な延命を最優先にしているようだと、氏はこの論考で指摘しています。プーチン政権は今、自らの延命を正当化する口実を探している。そのため、「偉大だったソ連邦の後継者」というふりをし、得意の情報操作で国民に欧米への不信感を抱かせる動きに出たということです。
今のプーチンは、とにかく(内外に)「ロシアは超大国だ」という幻想を抱かせたいと躍起になっている。しかし、あいにく今のロシアは超大国ではない。国際社会でやれるのは秩序の破壊だけで建設はできないと氏は言います。なので、他国の独裁者を支援して、その強権支配を支えている。が、それだけではない。プーチンはアメリカを挑発し、アメリカがロシアを深刻な脅威と見なさざるを得ない状況に追い込み、それによってロシアは超大国だというイメージを売り込んでいるというのが氏の指摘するところです。
実際、ロシアのテレビ放送で見ると、米ロ首脳会談はあたかも、2人の対等な大人が(ウクライナを含む世界中の小さな国々という)子供のあしらい方を話し合っているような印象を持つと氏はしています。そうした意味で、ここ数週間でプーチン政権は大いに点数を稼いだ。まず、主導権は自分にあり、自分が世界中の新聞の見出しになれることを証明し、世界にも自国民にも、その気になればロシアは何でもできるという印象を与えたというのが氏の認識です。
欧米諸国(と、そのメディア)が大騒ぎすることで、プーチンなら本当にウクライナに侵攻しかねないという空気を作り上げた。国内的にも国際的にもひたすら軍事力に依存している体制にとって、内外の潜在的な「敵」にそう思わせるのは、(最も)重要なことだと氏は指摘しています。
さらに言えば、プーチンは旧ソ連の衛星国でNATOに加盟し、あるいは加盟しようとしている諸国(ウクライナを含む)に対し、NATOは信用できない、いざとなっても優柔不断だというイメージを植え付けることにも成功した。「ウクライナよ、ロシアの勢力圏から離れたら最後、頼れるのは自分だけ、誰も本気で助けてはくれないぞ」と、ウクライナ(や周辺の国々)に思い知らすことに成功したということです。
結局のところ、「アメリカの敵でありたい」…これが今回のウクライナ周辺の軍事行動でロシアが目指す究極の目的だと、氏はこの論考最後に綴っています。確かに、現在のロシア・プーチン政権の最大の弱点が、不安的な国内政治や経済状況にあることは(おそらく)紛れもない事実でしょう。そうした中、軍備しか頼れるものが無くなった強権的指導者との付き合い方には、(もう少し)それにふさわしいやり方があるのではないかと考えるフラウター氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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