MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯841 市民プライドランキング

2017年07月28日 | うんちく・小ネタ


 漫画家でコラムニストの辛酸なめ子氏は、6月15日の「女子SPA!」に寄せたコラム「埼玉系男子のややこしい自尊心に気をつけろ」において、埼玉県出身者の隠された地元意識(プライド)について触れています。

 埼玉系男子は、ふだんは「ダサイタマ」「東京の植民地」などと自嘲しているにも関わらず、その実、千葉に対して強烈なライバル心を抱いていたり、埼玉内部でも(浦和vs大宮、所沢vs川越など)地区同士対立するなど、意外なほど出身地域にプライドを持っていると辛酸氏はしています。

 もっとも、そのプライドも「ものすごく自信がある」といったものではなくて、東京は勿論、神奈川に対しては「かなわない」と最初から降伏しているのですが、千葉については、浦和と浦安を混同されてイラッとしたり、千葉が「東京ディズニーランド」「ららぽーと東京ベイ」と東京を名乗っているのを内心蔑視したりしているということです。

 氏は、都会すぎず田舎すぎない地域だからこそ、埼玉系男子の心境は複雑だとしています。東京の人に対しては「田舎なんで」と謙遜しながら、地方の人に対しては(一転)強気に出る。前述のように、「東京~」と付いた施設が多い千葉県を馬鹿にする一方で、地方や海外で住んでいるところを聞かれたら、「東京のほう」と答える人が多いのも埼玉系男子の特徴だということです。

 実際、東京育ちのふりをしている人の中にも、「隠れ埼玉系男子」は結構多いのではないかと辛酸氏は見ています。そうした人にうっかり埼玉のことを悪く言ったりすると、埼玉県民は埼玉の悪口を一生忘れないと氏はこのコラムに記しています。

 さて、埼玉県民に限らず、生まれ育った土地や文化に愛着やプライドを持った人は(意外に)多いのではないかと、最近思うようになりました。都会育ちが増えたことに加え、地域ごとの(生育環境の)違いが少なくなった現代でも、自らが依って立つアイデンティティのひとつとして、今でも故郷は重要な役割を果たしているような気がします。

 そんな折、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが6月14日に発表した「市民のプライドランキング」が話題となっています。

 調査は、東京都区部と政令市の21都市で住民の居住地に対する誇りを感じているかを聞いたもの。2月下旬にインターネットを使い、各都市200人ずつに住んでいる都市に誇りを感じているかを10点満点で評価してもらい、10~8とした人の割合から4~0とした人の割合を引いて指数を算出し比較しています。

 調査報告書によると、最も誇りを感じている人の割合が多かったのは福岡市で、反対に最も少なかったのは相模原市だったということです。報告書はこの結果について、「福岡は九州地域で圧倒的な地位にあり住民が自信を持っている」と分析しています。また、政令市になって間もない相模原市(21位)や岡山市(20位)では、市民感情の醸成がまだまだ進んでいないといくことかもしれません。

 一方、首都圏に目を向けると、最高は横浜市の6位で東京都区部の9位がそれに続いています。

 「浜っ子」という言葉が示すように、戦後の首都圏では、港を中心としたその発展の様子からも横浜のステータスは(都心や山の手地区を除き)突出したものだったと言えるでしょう。また、都区部は調査結果がひとつにまとめられていますが、港区や千代田区、中央区や世田谷区など、区ごとに(居住地へのプライドを)聞いた場合には違った結果が得られたかもしれません。

 さらに、21都市から魅力を感じる都市を選ぶ別の質問で横浜市と都区部の住民はそれぞれ相手の都市を2位に挙げていることから、お互いに意識している様子が伺えると報告書は指摘しています。都心と横浜は同じ土俵で比較される、(都市として)繋がった関係にあるということなのかもしれません。

 なお、首都圏の他の都市では、川崎市が14位、さいたま市と千葉市が同率の18位など、下位に沈むところが多かったということです。こうした結果について報告書は、近隣の都区部や横浜市と比較して「胸を張りきれない感じを抱いているようだ」と見ています。また、一緒に行われた調査からも、相模原市民は横浜市を強く意識しており、自分が住んでいる市よりも横浜市に魅力を感じている人が多いことが明らかになったということです。

 さて、こうしてランキングを見ていくと、福岡(1位)、神戸(2位)、京都(3位)といった歴史的に見て固有の都市文化が発達してきた地方都市の住民ほど、その都市への愛着が強いことが判ります。そして、そこに表れている地元へのプライドは、埼玉系男子が言うところの「神奈川には負けるが千葉には勝つ」といった比較上の問題ではなく、個人のアイデンティティ形成している(何事にも代えがたいものとしての)感覚なのかもしれません。

 おそらく埼玉系男子の多くも、プライドを持って(地域に)暮らすことができる福岡や神戸の人々を、心から羨ましく思っていることでしょう。そして、埼玉系男子の諸君がそのようなプライドを持てるようになるまでには、もう少し時間がかかるに違いないと(こうした調査の結果から)私も改めて感じたところです。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿