4月26日、政府が物価高騰に対応する「総合緊急対策」の一環として、(6月末までとされていた)企業が従業員に支払う休業手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の特例措置について、延長する方針を決めたとの報道がありました。
雇用調整助成金とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」により「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合、従業員の雇用維持を図るため「労使間の協定」に基づき「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する制度(←厚生労働省HP)です。
具体的には、売上高などの生産指標が直近3カ月の平均で前年、前前年または3年前同期に比べ3割以上減少している企業などが従業員に休業手当を支給する場合に、政府が一人につき1日9000円から15000円を支給するというものです。
同助成金は、当初、雇用保険の保険料を積み立てた雇用安定資金を主な財源としていました。しかし、一昨年度末で1兆5000億円程度積み上がっていた資金はあっという間に使い切り、一般会計からの繰り入れなどを含めこれまでに実に5兆6000千億円近くを支出しています。
一方、雇用調整助成金に関しては、これまでも簡素な申請手続や審査の甘さなどにより企業による不正受給が相次いで問題化しているほか、人手不足の業種への働き手の移動を阻むという「副作用」なども指摘されているところです。
国民にほとんど意識されていないところで、2年以上にわたり、仕事を休んでいる人に(まるで既得権のように)1日1万5000円也が税金から(だらだらと)支給され続けている実態をどう考えるか。5兆円を超える大金が投入される一方で、助成金により多くの休業者が放置されている現状を放置していてよいのか。様々な議論があってしかるべきと考えるのは私だけではないでしょう。
そうした中、4月27日の日本経済新聞に、「休業者211万人で高止まり 昨年度、失業者よりも多く」と題する記事が掲載されていたので、参考までにここで紹介しておきたいと思います。
仕事に就いていても一定期間休んでいる「休業者」の数が高止まりしている。2021年度は211万人と新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前を大幅に上回り、完全失業者より多い水準だったと記事はその冒頭で指摘しています。
総務省の労働力調査によると、我が国の2021年度の休業者数は前年度よりも51万人少ない211万人だったが、これでも、コロナの影響がまだ小さかった19年度比では約30万人多く、21年度の完全失業者数(191万人)より20万人も多いということです。
休業者は、宿泊業・飲食サービス業の25万人、卸売業・小売業の24万人などコロナ感染の拡大に伴う行動制限の影響を強く受けた業種で多くが占められている。一方、これらの業界では長期的には少子高齢化による人手不足が続くと予想し、働き手を休ませて雇用を維持しているのが実態だというのが記事の認識です。
こうした企業の動きを後押ししているのが、国からの補助金だと記事は言います。企業が支払う休業手当を支援する雇用調整助成金は4月下旬までの分で、既に5兆円を超える支給が決まっている。厚生労働省によると、一度でも支給を受けた企業のうち1年を超えて受け続けているのは約13%に及び、緊急対応を超えた受給が常態化しつつある現状があるということです。
こうした状況に対し、日本政策投資銀行の崎山公希氏は「需要が当面戻らない産業もある。雇調金は不況で生じるべき離職を先送りし、望ましい産業間の労働移動を損ねる懸念もある」と指摘していると記事はしています。国の補助金を背景に企業が雇用者を(負担なく)抱え込める状況が生まれ、必要な産業への労働力の移転が阻害されている可能性があるということです。
厚労省が4月26日に発表した月間有効求人数は、2021年度の月平均が226万5947人と、2019年度に比べて40万人ほど少ない水準となった。こうした数字からは、雇用維持を続ける企業の一部が積極的な求人を控えている可能性が考えられると、記事は指摘しています。
一方で、求職者数は195万5923人とコロナ禍前より24万人強増えている。そこには、失業者が求職しているケースのほか転職希望の人も含まれており、ここで雇調金による雇用維持を過度に続け企業が人材の新陳代謝を先送りし続ければ、経済成長に欠かせない労働移動は阻まれるというのが記事の懸念するところです。
さて、211万人が国からの助成金を受けながら休業している一方で、有効求人数は(それを15万人以上上回り)226万人を超えているという現状を、私たちはどう受け止めるべきなのか。
労働力不足が叫ばれる中、こうした状況を続けていて日本経済が回るわけはないし、何よりいくら税金を集めても財政が持つはずがありません。ダメージを受けた身体に、ただいたずらに痛み止めを打ち続けても病気は快方には向かわない。状況を診断し、(多少の痛みは受け止めてでも)きちんとした治療が必要なはずだと記事を読んで改めて感じたところです。
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