東京都杉並区の選挙管理委員会が全国に先駆けての導入を検討していたとされる「投票マッチング」(アプリ)。2月15日の時事通信によれば、総務省から「公職選挙法に抵触する恐れがある」との見解が出されたことから、同選管が(アプリ導入の)断念を表明したということです。
「投票マッチング」とは、有権者がインターネット上でいくつかの質問に答えることで、自身の考えに近い候補者が示されるというアプリのこと。杉並区選管では(自治体主導では初めて)、今年4月に実施予定の杉並区議会議員選挙でこのサービスを導入しようと、準備を進めてきたとされています。
(分かりにくいかもしれませんので)アプリの内容をもう少し丁寧に説明すると、まず、利用者は選挙期間中に個人のパソコンやスマートフォンからこのサービスにアクセス。区政に関する20個の設問に回答すると、自分の考え一致率が高い候補者を見つけることができるというもの。杉並区の岸本聡子区長は1月31日の記者会見で投票マッチングについて問われ、「公正中立の立場で取り組みを進め少しでも選挙が区民に身近なものになるように、その成果に期待しています」とコメントしていたということです。
一方、杉並区のこうした動きを踏まえ、選挙事務を所管する総務省は2月14日付で都道府県選管あてに通知を発出。選管が有権者に対しこのようなマッチング手段を提供することは「啓発・周知活動」の範囲を超えており、全候補者の平等公正な取り扱いを担保するのが難しいと指摘した上で、公職選挙法が禁じる「特定公務員の選挙運動」に当たる可能性があるとの懸念を伝えたとされています。
そもそも杉並区(選管)は、なぜこのようなアプリケーションの導入を計画したのか。報道などによれば、自治体として異例の投票マッチングの導入に踏み切ったのは投票率の向上のためとのこと。特に、18~20代の若い世代の投票率の低下をなんとかしたいと考えてのことだと伝えられています。
杉並区の人口は約57万人おり有権者数はその9割ほどにもなるが、区議選の投票率は2015年が40.1%、19年が39.5%と低迷している。特に20代の投票率が低く、19年は20.4%しかなかったとされています。選管によれば、若者たちへのアンケートの結果では、「どんな人が出ているのか分からない」「どういう主張なのか分からない」という声が多かったとのこと。そうであれば、投票マッチングによってそれぞれの候補者がどういう主張を持っていて、自分の主張とどれだけ近いのか分かるようにすればと考えたということです。
しかし、こうした「新しいモノ」の導入に関しては、(特に「選挙」というシビアな世界であれば)利害関係者から様々な意見が出るのは仕方がありません。特にマッチングの対象になる(立候補予定の)区議たちからは、「マッチングの設問を作るときに、行政の恣意的な視点が入る可能性がある」「政策には、単純にイエスかノーで答えられない問題もあるのに、5択で答えろというのは乱暴ではないか」などの、懸念を示す意見が相次いだとされています。
確かに、政策アンケートへの回答などは(正直)どうにでもやりようは考えられます。有権者へのアピール、マッチングへの影響ばかりを求めて(全方向に)調子のよい回答を並べることもできるでしょうし、実際の政策議論に当たっては(時には)有権者にこれまで以上の負担を強いる必要がある場合も考えられます。
そうした中、いくつかの質問の回答のされ方だけを見て、候補者の人となりや議員としての適格性を判断するのは(特に若い世代にとって)そう簡単なことではないでしょう。ましてや、選挙管理委員会のサイトに公式マッチングアプリを仕込むというのも、「あなたの望みを叶えるのはこの候補者です」などとお墨付きを出しているような印象を与えることになり、誤解を招く可能性も高いような気がします。
「ゲーム感覚で投票する人を選ぶ」というのも(発想やノリとしては)イマドキで楽しそうだし、それ故低投票率に悩む選挙管理委員会の苦悩もよくわかります。しかし、民主主義の基本とも言うべき選挙が(それで)十分に機能し活発化するかどうかについては、さらに十分な検討が必要ではないかと思わないでもありません。
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