MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2325 クールジャパンの成果はいかに

2022年12月28日 | 文化

 2022年の年末を控え、11月16日に大晦日の夜を彩るNHK紅白歌合戦の出演者が今年も発表になりました。報道などを見ると、今年の出演者のラインアップで特徴的なのは「K-POPの復活」だと言われています。

 音楽の世界に疎い私などは、グループ名を言われても全く見当がつきませんが、ガールズグループでは、新人のIVE(アイヴ)、元HKT48、IZ*ONEの宮脇咲良率いるLE SSERAFIM(ル・セラフィム)、TWICE、J.Y.パークがプロデュースする日本人グループNiziUなどが出場するとのこと。また、ボーイズグループとしても、韓国のオーディション番組の日本版「プロデュース101」から誕生したJO1と日韓混成のK-POPがその姿を見せるということです。

 2000年代後半、女性グループのKARA、少女時代などが活躍した第1次K-POPブーム。ビジュアルな容姿に切れの良いダンス。そこまでやるかと言った見せ方に、日本ばかりでなく東アジアの若者たちが沸いたのは記憶に新しいところです。その後も、「江南スタイル」の世界的なヒットや近年ではアイドルグループBTSの活躍などにより、韓国芸能界は日本の若者たちにその底力を見せつけています。

 広く知られているのは、韓国は国策として政府がエンタメの振興を強く後押ししているということ。そうしたこともあってか、K-POPグループのビジュアルや統率されたダンスのレベルは(日本とは)段違いで、一瞬で観客を引き込むインパクト、(いわゆる)「魅せ方」に優れていることは素人の私でもわかります。

 これまで、マンガやアニメ、ファッションなど、東アジアの文化を牽引してきた(とされる)日本ですが、今年の紅白歌合戦の状況を見ても分かるように、韓国の長期的な国家戦略の前に今では「やられっぱなし」の観は否めません。

 もちろん日本も韓国の成功を横目に見て、安倍政権下の2013年以来「クールジャパン」政策を掲げてきました。しかし、漫画やアニメ、ゲームなどの人気をどう繋いでいきたいのか、文化を経済にどう生かすのかといった方針や位置づけが不明瞭なまま、個別の案件への支援がダラダラと続いている状況と言っても過言ではないでしょう。

 政策の開始とともに造成された官民ファンド「海外需要開拓支援(クールジャパン)機構」の累積損失額は既に309億円に達しているとされ、統廃合を検討中との報道もあります。そんな折も折、12月3日の日本経済新聞に「クールジャパンは民に任せよ」と題する社説が掲載されていたので、その内容を残しておきたいと思います。

 経済産業省が所管する官民ファンドの海外需要開拓支援機構、通称クールジャパン(CJ)機構の業績が振るわない。財務省は成果が上がらなければ統廃合を検討すると通告したと記事は伝えています。過去の投資を厳しい目で点検するのは当然だが、官民の役割分担も徹底的に見直さなければならない。クールジャパンは基本的に民間に任せるべきだというのが記事の主張するところです。

 CJ機構の設立は2013年。アニメなど現代文化や生活産業を海外に売り込む目的だった。しかし、国が1066億円、民間企業が計107億円を出資し50件以上に投資したにもかかわらず、累積赤字は既に309億円に達しているということです。

 アニメや漫画、ファッション、日本食などには海外にファンも多い。観光や留学につながるなど波及効果も大きい。日本として積極的に育てていくべき分野だといえるが、問題はそのやり方だというのが記事の認識です。

 リスクを取り投資をするのは本来、民間企業の役割のはず。特に娯楽や生活関連分野は流行などに左右され予測が難しいことから、私たちは発足時から、官主導の投資対象には向かないと指摘してきたと記事はしています。

 機構は日本ブランドの商品を集めた店舗の開設や、日本の映像作品の専門チャンネルに出資した。だが、選ぶのはあくまで市場であり、多様な商品から好きなものを選びたいのが消費者の心理だというのが記事の見解です。

 官主導のやりかたと実際の消費者の行動にはズレが生じている。投資案件でも物流や食材開発など、現代文化の発信という原点にそぐわないものが目立つと記事は言います。

 一方、「クールコリア」政策で成功した韓国では、例えば映画の場合、投資は基本的に民間に任せ、政府は映画学校の開設による人材育成や映画データベースの整備と公開などを手がけ、今日の成功につなげた。俳優やアイドルの国際的人気を観光客誘致に生かすなど、分野を横断した連携も巧みだということです。

 日本文化の発信のためとして10年近くにわたってつぎ込んできた1000億円以上の税金は、一体どこに行ってしまったのか。アニメや音楽といったクリエイティブなエンターテイメントの世界で、お堅い政府が直接何かできるとは思えません。その多くがイベントなどの名目で(近頃、評判があまり芳しくない)大手広告代理店などに流れていってしまっていることは想像に難くないでしょう。

 直接的な投資は民間の資金を生かし、国は人材育成や海賊版防止などルールや環境づくりに徹するのが筋というもの。他国の例も参考に、機構の存廃を判断すべき時ではないかと結ばれた記事の指摘を、私もさもありなんと受け止めたところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿