中国政府が「戦狼(せんろう)外交」といわれる好戦的な外交姿勢を強めることで、国際社会との摩擦が目立ってきています。
中国共産党が7月1日に開催した創設100年の祝賀式典において、習近平党総書記(国家主席)は党が「偉大な飛躍を実現した」と強調し、米国に肩を並べる「強国」の建設に今後も邁進していく方針を改めて表明しました。
また、国際社会が、中国が香港や新疆ウイグル自治区で行っている弾圧を重く見て圧力を強めている状況に対し、「外部勢力がいじめや抑圧を行い、我々を奴隷扱いすることは決して許さない」と語ったとされています。
中国国内ではこうした政府の挑発的な姿勢について、習近平国家主席が号令をかける「大国外交」の象徴として歓迎する声が大半を占めているということです。
一方、国際社会の世論の中では、中国の対外的な強硬姿勢は諸外国との不要な摩擦を引き起こし、かえって同国の国益を損なっているとの意見が主流と言えるでしょう。
「戦狼外交」とは、中国国内で2017年に大ヒットした中国軍特殊部隊の元隊員が内戦下のアフリカで同胞を救うため活躍する映画「戦狼」にちなんだ表現とされています。
映画「ランボー」のように、一人の愛国的なヒーローが米国に雇われた軍隊を相手に一人立ち向かう。宣伝用のキャッチコピーは「どれだけ遠くにいようと、中国を侮辱する者は代償を支払う」だったということです。
中国の共産党系日刊紙「環球時報」は今年4月、中国外交を「狼(おおかみ)の戦士」に例え、「中国が従順な立場である時代は終わった」と言い切ったとされています。
また、王毅外相は5月24日の記者会見において、CNNの質問に答え「我々から戦いを仕掛けたり他国をいじめたりすることはないが、我々には原則と気骨がある。意図的な侮辱があれば反論し、国家の名誉と尊厳を断固として守り、あらゆる根拠なき中傷に対して事実で反論する」と述べたと伝えられています。
経済建設を優先した鄧小平時代の中国は、外交的には姿勢を低くし摩擦を避け果実を得る「韜光養晦(とうこうようかい)」路線をとったことで知られています。しかし、米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、世界に先駆けてコロナを退けた自信を背景に、中国の外交姿勢は今、大きな変貌を遂げつつあるようです。
中国のこうした状況に関し7月1日の日本経済新聞では、愛知県立大学准教授の鈴木隆氏が「威信の低さ、強硬な外交生む」と題する興味深い論考を掲載しています。
中国共産党の課題は、グローバル大国として不可欠な普遍的理念を内包したソフトパワーが欠如していることにあると、鈴木氏はこの論考の冒頭に記しています。
経済大国・軍事大国になったにもかかわらず、中国の国際的な威信は低い。そのギャップに対する国民の困惑やフラストレーションの高まりが、他国を威圧的な言動で挑発する「戦狼(せんろう)外交」につながっているというのが、現状に対する氏の認識です。
中国共産党指導部も、国内で新型コロナウイルスを抑制し成長を続けているという内部からの評価と、中国の強硬姿勢を批判する海外からの評価のギャップにいらだちを強めていると氏は言います。
2000年代までのような高度成長による生活水準の急速な改善が既に見込めない現在、それに代わるものとしてデジタル化による利便性向上などで国民生活の満足度向上を図っている中国。さらに、広域経済圏「一帯一路」の推進や軍事増強などの対外的パワーの誇示によって、国民の自尊心も(巧みに)くすぐっているということです。
こうした必要から強硬的な外交姿勢は当面続き、外交上の摩擦をもたらしやすい構図も(しばらくは)続くだろうと鈴木氏は見ています。
かつての高度経済成長のような成功物語への固執や失敗への過度な恐れなどから、(共産党指導部の中にも)新しいことを議論すらできない政治的風潮が生まれつつあるというのが氏の見解です。
さらに、1990年代から共産党指導部の参謀役を務めている王滬寧(ワン・フーニン)氏の功罪も見逃せないと氏はここで指摘しています。
「中華民族の偉大な復興」などと大仰なスローガンばかりが飛び交い、政策のイノベーションが総じて乏しくなっている。国内は安定していると言われているが、(少子高齢化の影響などもあって)中国は社会的に長期停滞になる可能性があるということです。
さらに近年の習近平指導部の体制には、権力継承システム上の不備があると氏はこの論考の結びに記しています。
鄧小平氏が敷いた「集団指導体制」をあっさり捨てて、習氏への個人崇拝による長期政権の可能性が出てきた。後継候補を決めていないため、(不測の事態が起きれば)後継を巡り党内の争いが激化することは避けられず、国内が混乱する可能性を孕んでいるということです。
内外のプレッシャーを上手にコントロールすることが、現在の共産党指導部の最大のミッションであることはよくわかります。しかし、中華の歴史に固執し、大国であることを誇示する子供じみたプライドでしか守れない権力であれば、長期間にわたる政権安定はなかなか見込めないでしょう。
習近平国家主席は5月に北京で行われた学習会の講話で、「謙虚で、信頼され、愛され、敬われる中国を目指せ」と話したと伝えられています。
国際社会において、本当に尊敬される大国になれるかどうか。これからの中国には、口ばかりでなく態度を変えることで示していく必要があるのではないかと、私も改めて感じた次第です。
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