MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1956 米中のチキンレースは誰も望まない

2021年09月05日 | 国際・政治


 7月1日に共産党創立100周年を迎えた中国の習近平政権は、次の100年と位置づける2049年の「中国建国100周年」に向けて、一層の強国化を進める構えです。

 我々中国は、後進的な状態から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成した。順調な発展を見せる経済力で世界への影響力を増し、もはや我々なしでは世界経済にも成長はあり得ない。「一帯一路」政策でユーラシア大陸の東西をつなぎ、インド太平洋を影響下に置いて、まずはアジアでの覇権を確立させる。中華民族は世界の偉大な民族で、5000年余の長い文明の歴史を誇っている。帝国主義、覇権主義による転覆破壊と武力挑発に打ち勝ち、今こそ中華民族の偉大な復興により世界に冠たる大国として蘇る…。

 こうした勇ましい言葉の数々を繰り出し、自国の人民を鼓舞する中国の覇権主義を、米国を中心とした自由主義を標榜する国々はどのように扱えばよいのか。

 過去20年間における急激な経済成長により膨張した中国により、米国が、第1次大戦以降1世紀近くに守ってきた「世界一の産業国」「世界一の貿易国」「世界経済の原動力」としての地位を奪われつつあるのは紛れもない事実です。購買力平価ベースのGDPで見れば、14億の人口を抱える中国が、米国に代わって世界最大の経済圏となっていることもわかります。そうした経済的な混乱の中で米国の政治も動揺し、米国はついにその影響力だけでなく、世界の覇権国としての「アイデンティティ」も(併せて)失ったと見る向きもあるようです。

 一方、だからといって、過去の米ソ冷戦時のように、両国の間に壁を作り経済的な分断を図ろうとしても、現実的に考えてそれは政治的にも経済的にもできない相談であることもまた広く知られています。今の米中は既に切っても切れない経済関係にある。もしも米国がドルを基調とする金融システムから中国を追放しようとしても、また、それに応じて中国も米国への輸出を止めようとしても、両国の経済と社会に混乱が生じるだけでどこにもメリットが生まれないのは誰の目にも明らかです。

 そのような中、米中のこうした現状を、「トゥキディデスの罠」に例える識者も増えています。古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが説いたアテネとスパルタのペロポネソス戦争を例に、新興国の成長により既存の覇権国との力に力関係が崩れた場合、覇権をかけた大きな戦争が起こりやすくなるというものです。

 その前哨戦として、既に双方で「煽り合い」「囲い込み」の状況が始まっているとする指摘もあります。米中はお互いを「敵」とみなし、賛同者を募って、輸出やコロナ、人権問題などを巡って様々に対立、既に大きなストレスを共有しつつある。こうした状況が続けば、通常であれば大した問題にならなかったり、制御が可能だったりするちょっとしたきっかけで、報復の悪循環を引き起こす懸念も示されているところです。

 こうした、どちらも望んでいない破滅的な戦争へと両国が引きずり込まれることは、当事国の国民ばかりでなく、世界全体が望んでいないはず。相手の車や障害物などに向かい合って衝突寸前まで車を走らせ、先によけたほうを臆病者とするレースを「チキンレース」と呼ぶようですが、相手を屈服させようとして互いに強引な手段をとりあう現在の子供じみた状況をいったんクールダウンし、世界全体の利益に向けて建設的な議論ができないものかと考えるのは私だけではないでしょう。

 さて、極めて観念的な提案ではありますが、こうした際に必要なのは、まずは米中両国で「共通の課題認識」や「共通の価値感」を確認し、共有することではないかと改めて感じるところです。今、リーダーに求められているのは何なのか。人類の未来のために共同・連携して今行うべきことがあるのではないか。

 それが、環境問題なのか、貧困問題なのか、人権や格差の問題なのかはわかりませんが、ただ互いの強さを競うばかりでなく、そこに費やされる膨大なストックを人類共通の課題につぎ込めば、おのずと人々の尊敬に繋がり世界の各国もついてくるはずだということです。

 もちろん、こうした場合、当事国に任せておくだけでは軌道修正は難しいもの。老練な関係国家が連携して、衆知を集める中で成熟した大人の関係を構築してほしいものだと改めて感じるところです。



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