MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2190 ジェンダーギャップとアンコンシャス・バイアス

2022年06月24日 | 社会・経済

 2021年3月、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が公表したジェンダーギャップレポート(The Global Gender Gap Report 2021)では、世界各国における「男女格差」を測るジェンダーギャップ指数を公表しています。

 この指数は、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータを、それぞれ0(完全不平等)から1(完全平等)の間で評価したもの。結果、2021年の日本の総合スコアは0.656で順位は156か国中120位(前回は153か国中121位)と、依然、超低空飛行を続けている状態です。

 特に、意思決定にかかわる「指導的地位」の女性比率は、ジェンダー平等を示す重要な指標となっています。こうしたこともあって政府2003年に、指導的地位の女性を「あらゆる分野で2020年までに少なくとも30%程度」に引き上げるという目標を定めました。

 しかし実際には、2020年時点での同指標はわずか14.8%に過ぎず、同年末に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画では、目標を「2020年代の可能な限り早期に」と先送りしたところです。

 現状を見れば、例えば政治分野における(ジェンダーギャップに係る)日本の位置は世界で144位とされ、衆院の女性議員は1割にも満たない状況にあります。また、経済界でも、上場企業2240社のうちのほぼ半数の1152社で、女性役員が一人もいないのが実情です。

 なぜ、日本のリーダーに女性が少ないのか。女性の支援活動を行うNPO、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンが、2021年8月、日本の女子中学生と女子高校生を対象に「女性のリーダーシップ」についての興味深い調査を行っています。

 調査報告書によれば、「(あなたは)リーダーになりたいか」という問いに対し「はい」と答えた女子中高生は全体の16.6%にすぎず、「いいえ」(44.2%)と「分からない」(39.3%)と消極的な回答が8割を超えているということです。

 また、学校や部活などで積極的に発言するかどうかについては、「常にする」「比較的する」と答えた人を合わせた割合は全体で27%にとどまり、自分の意見を述べることに抵抗がないのは4人に1人程度という結果となっています。

 自分は(いわゆる)「仕切るタイプ」ではないと考えている女子の割合も多く、同団体の母体であるプラン・インターナショナルが世界19カ国で行った調査でも、日本は自身がリーダーになることを望まない女子学生の割合が特に高い国のひとつだということです。

 もちろん、リーダーシップに関するこうした女性の意識の背景には、日本の社会がまだまだ男性中心で、「男は仕事、女は家庭」といった性差に対する「アンコンシャス・バイアス」が強いことが挙げられます。

 アンコンシャス・バイアスとは、日本語で言えば「無意識の偏見」のこと。中でも、日本や韓国などの東アジアの儒教国では、歴史的に「ジェンダー(社会的性差)・バイアス」が強いとされ、女性の社会進出の妨げの原因となっているとする識者は多いようです。

 淑徳大学教授の野村浩子氏らが、2018年に大手企業25社約2500人を対象に行った、性別と「望ましい(と感じる)資質」に関する調査によれば、「リーダーとして望ましい」資質である「責任感がある」「行動力がある」「説得力がある」などは「男性として望ましい」資質と重なりが多かったが、「女性として望ましい」と「リーダーとして望ましい」資質とで共通するのは、わずかに「責任感が強い」「自立している」のみだったということです。

 野村氏はこの結果について、「これは男性ばかりの意見ではなく、回答者の性別、階層別でみても同じ傾向がみられた」「ここから分かるのは、リーダーは男性向きで、女性には向かないというバイアスがあることだ」とシノドス国際社会動向研究所への寄稿(「女性にリーダーは向かないというジェンダー・バイアスをなくすために」2020.10.27)に記しています。

 こうしたバイアスが社会に効いている限り、女性自身が無意識のうちに上を目指すことにブレーキをかけることになりかねない。力強いリーダーシップを発揮している女性を、無意識のうちに「女性らしくない」とマイナス評価してしまう可能性もあるというのが氏の指摘するところです。

 登用にあたって、企業の幹部からは「管理職にふさわしい女性がいない」という言葉がよく聞かれるが、この言葉の裏にもまた「リーダーは女性には向かない」というジェンダー・バイアスが潜んでいるかもしれないと野村氏は話しています。

 さて、確かに現在のビジネスシーンを思えば、男のように振舞わなければリーダーは務まらないというわけではないし、ダイバーシティを受け止めミッションを達成するには、様々な個性のリーダーが必要とされる時代となっています。

 そもそも、男だとか女だとかを意識すること自体に意味はあるのか。いずれにしても、まずは「リーダーは男性向きで、女性には向かない」というバイアスを取り除かない限り、女性リーダーの登用はおぼつかないと考える野村氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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