日本経済新聞の「経済教室」における「消費税増税の論点」への寄稿は続きます。9月4日、3人目の論者として東京大学の伊藤元重教授が、消費税増税を予定通り進めていくべきか」否かについて経済的なリスクの観点から論評を加えています。
状況を「おさらい」しますと、予定どおりの増税を行うことでせっかく見えてきたデフレ脱却の道筋が失われてしまっては取り返しがつかない、「金の卵を産むニワトリ」の方が死んでしまっては元も子もないのではないか…、増税に慎重な人たちはそう主張しています。その一方で、増税スケジュールを変え財政再建先送りの姿勢を見せることは、日本国債のリスク評価の再検討を招き国債金利の暴騰という最悪のシナリオを呼び込んでしまうのではないかと心配する向きもあります。
伊藤氏は、これらを「どちらのリスクの方が深刻なのかという比較の問題」として捉えようとしています。氏の論点は、それが、①事前の準備により対応できるリスクであるのか、②取り返しの付かないリスクであるのか、リスクの「質」にまで踏み込んで検討すべきとしているところにあります。
まず、消費税引き上げがデフレ脱却の阻害要因になるというリスクについてです。
伊藤氏は、基本的に経済成長への影響は否定できないという立場を取っています。ただし、低所得者対策や公共投資など引き上げの影響を緩和するような財政政策を講じることにより、その影響を最小限に抑えることは十分に可能であるという認識です。また、氏は、デフレ脱却に向け何より重要となる政策はあくまで「金融政策」であり、消費税の税率にかかわらず引き続き金融政策を主役としたデフレ対策を進めるべきだとしています。
一方、国債の金利暴騰リスクについてはどうでしょうか。
現在、国債の金利が非常に低い水準で安定しているのは、市場が当面の財政危機のリスクを低く見積もっており「真剣に考えていない」からだと伊藤氏は言います。しかし、一旦そのリスクが投資家の脳裏に顕在化したら、政府にも日銀にも国債価値の下落を止めることは簡単なことではないとしています。
氏によれば、日本の長期金利が低いことは日本の財政への信認の強さのように解釈されることが多いが、必ずしもそう言ってばかりはいられない。暴騰の可能性という視点で言えば、むしろ一般的な水準以上の低金利は歓迎すべきことではないとしています。
例え確率が大きくなくとも、万が一発生したら取り返しの付かない事態を招くのが消費税増税で懸念される国債リスクであり、どちらのリスクを避けるべきかは明らかだというのが、伊藤氏の主張です。
確かに、一旦火薬に火が付いてしまうと、それを消すには大変な手間と労力と犠牲が伴うということは、過去の多くの歴史が語るところです。
「リスク」や「可能性」という実態のないものと実際にお財布からお金が出ていくという状況を、家計を担う一般の消費者に比較・選択しろというのもなかな厳しい面がありますが、そのあたりの納得性どのように得ていくかというのがひとつの鍵になるように思います。
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