MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯626 高齢者医療費というブラックホール

2016年10月21日 | 社会・経済


 少し前のことになりますが、従業員300人以上(単一組合の場合1000人以上,総合組合の場合3000人以上)の大企業の従業員らが加入する健康保険組合の保険料負担が過去最高を更新したとの報道が、4月21日の日本経済新聞にありました。

 健康保険組合連合会(健保連)による2016年度予算の集計によれば、組合員1人当たりの平均保険料負担は年間47万9354円(月額約40000円)に上り、平均保険料率は9.1%で前年度から0.1ポイント上昇したということです。

 一方、健保組合の経常収支は(総額で)1384億円の赤字を計上したとされており、労使の負担する保険料では医療費増加に伴う支出の伸びを補いきれていないのが現状です。実際、赤字の健保組合は組合全体の64.4%に達していて、来年度以降も赤字の拡大が続く可能性が高いと記事はしています。

 (健保組合が支払う)医療給付費の総額は3兆9793億円で前年度から3.8%の増加を示す中、高齢者医療制度などへの支援金・納付金が3兆2938億円(保険料収入の42.78%)と重い負担となっていることから、健保組合連合会では、今後、政府に対し高齢者医療制度への公費の投入拡大を強く求めていくとしています。

 さて、サラリーマンが(否も応もなく)源泉徴収されている健康保険料負担のこうした増大圧力に関し、8月18日の日本経済新聞では、JFEスチール社長の柿木厚司氏が「働き手の活力そがぬ社会保障に」と題する(やむにやまれぬ)論評を寄稿しています。

 安倍晋三首相による消費増税の延期の決定に関し、老人医療など社会保障は公平感のある税金で賄うべきもので、早期に増税へ舵を切るべきだと柿木氏はこの論評で主張しています。

 企業の健康保険組合の保険料負担は年々上がっており、その背景には高齢者医療費への支援金の増大があると柿木氏は改めて指摘しています。

 氏によれば、JFE健康保険組合の場合、保険料収入の実に半分近くが支援金に回っており、政府が加入者の年収が高い企業健保ほど拠出金を増やす制度を採用していることもあって、国民健保などに比べ企業はしわ寄せを受けているということです。

 高齢者医療費の増加に伴い健保財政が悪化すれば、企業健保は従業員から取る保険料率を上げざるを得ない。既に負担増に耐えきれなくなった健保の解散が相次いでおり、今や危機的な状況にあると柿木氏は健保組合の現状を説明しています。

 特にここに来て、従業員から「なぜ、保険料が上がるのか」「高すぎる」という声をよく耳にするようになったと柿木氏は言います。

 それもそのはずで、現行制度は社会保障の受益と負担の関係が既に崩れてしまっていると言える。企業の競争力や社会的な富を生む勤労層がせっかく汗水たらして働いても、健保を通して老人医療費に吸い上げられては労働意欲の減退を招きかねない。そして、このことは、国際競争を戦う企業経営の観点から憂慮すべきリスクとなり得るというのが、保険料負担の現状に対する柿木氏の認識です。

 柿木氏は、老人医療は原則税金で、特にあらゆる世代に公平感のある消費税を中心に賄うべきだとしています。健全な働き手が安心して働き続けられるよう、負担を公平にするため高齢者も含め税金で等しく医療を受益できる制度に改めるべきだということです。

 さらに氏は、給付を抑制する一方で、高齢者の自己負担を増やす政策メニューを政府に求めたいとしています。資産規模に応じ、(現行1割の)医療費の負担割合を引き上げるなど、高齢者にも痛みを伴う改革が必要ではないかという指摘です。

 医療費に加え、年金も、いったん受給額が確定するとなかなか下げられない仕組みになっていると柿木氏は述べています。憲法上定められた「財産権」だという説明にたとえ妥当性があったとしても、このままでは年金財政が破綻するのは火を見るよりも明らかだということです。

 若い勤労世代は将来の年金受給に不安を覚えている。現行制度での支給額を減らすなど世代間の受給と負担を公平にしないと、(何よりも)働き手や企業の活力が失われてしまうのではないかと、氏は現状に強い懸念と不満を示しています。。

 「シルバー民主主義」の悪影響が指摘されて久しい日本ですが、(現役世代の「やる気」を維持していくためにも)政府は高齢者に嫌われてでも改革を断行すべきだと結ぶ柿木氏の論評を、安倍政権はしっかりと受け止める必要があると私も改めて感じた次第です。




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