気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 6

2018-12-18 23:17:00 | ストーリー
Stay With Me 6





「もしもし。」


修司くんは彼に居場所を説明して彼女を迎えに来て欲しいと話をした


「このままずっと帰らない訳にはいかないだろ?ちゃんと向き合って話してみなよ。

理奈ちゃんだってカレシと別れたい訳じゃないんだろ?」



そう… だけど



20分ほどで彼が店に入ってきた

緊張した表情になる私を見た修司くんは直ぐに彼氏が来たとわかって椅子から立ち上がった


「こんばんは、」
修司くんは彼に挨拶をした



彼の目には私しか見えていないようだった

険しい表情で「帰ろう」 と私の腕を引っ張って店を出た




修司くんも慌てて追いかけてきた

「あっ、あのっ!彼女の話ちゃんと聞いてやってください!」



その言葉に彼は足を止め
冷たい表情で修司くんの方を振り返った


「わかってますよ。」


近くに停めていた車に私を押し込むように乗せ車を発進させた


サイドミラーから修司くんを見ると
心配そうな表情で私を見送っていた



ーーー



車内は気まずい空気…


彼はずっと険しい表情のまま黙って自宅に向かっていた



「なんで… 突然居なくなるんだ。なんで男といたんだ。」


やっぱり誤解してる


「偶然 さっきの友達と会って… 」

説明しなきゃ…
そう思えば思うほど 言葉が出てこない


凄く怒ってる


ーー 恐い…




こんなに恐い表情の寺崎さん
見たこと無い



「心配したよ」

「ごめんなさい…」

チラッと彼を見た


「さっきの男、あの野村ってやつじゃなかったな 。」


「学生の頃からの友達で… たまたま偶然会って… 」


「君のこと随分とかばって心配してたけど。かなり親しい関係なんだろうね。」


修司くんのことも誤解してる


「違うよ、彼は、」

「“彼”?」

「その “彼” じゃなくて 、、」


焦れば焦るほど
言い訳じみて聞こえてしまう



「違う… 違うよ… 誤解だよ… 」


きっと
今の彼には何を言っても信じてもらえない


悲しくなってきた


彼はずっと黙ったまま
駐車場に車を停めて車を降りた

部屋のドアを開けると部屋の灯りは点いたまま 暖房も点いたままだった

慌てて出てきたのがわかる


時計の針は午前2時前を指していた



「今夜はもう寝よう。冷静に考えられないから。」



…冷たい口調

気まずい雰囲気のまま布団に入った


目を閉じている彼の横顔は随分と疲れていた …


初めてだ
こんな寺崎さんを見るの


声を荒げ怒鳴ったわけではない
責め立てられたわけでもない

なのに…


こんなにこの人を恐いと思ったことはなかった

普段は あんなに優しい人なのに …




ーーーー




一睡もできずに夜が明けてしまったから朝ご飯の支度をすることにした


彼は少しは眠れたようだったけど
睡眠不足のようで眠そうに起きてきた


彼は毎日のルーティンのジョギングには行かなかった



「おはよ… 」
眠そうな顔で顔を洗いに行った


今日は… どうなんだろう

昨日の寺崎さんのままだろうか


恐い…
緊張する…


顔を洗って出て来た彼の顔が見られない

「腹減ったなぁ~ 朝食ありがと (笑)」

彼から私にバグをしてきた



えっ…

今まで彼からこんなことしなかったのに …

しかも昨日あんなに怒ってたのに…



先にテーブルについて私が座るのを待ってる


私はぎこちなくテーブルについた




「旨い(笑)」

笑顔で私を見たのがわかった


私は目を合わせられない
昨日の冷たい彼の表情が頭から消えない


「理奈ちゃん、今日久しぶりに陶芸に行かない?」


「え… うん…


陶芸って気分じゃなかったけど
家にいても気まずいだけだから行くことにした


彼は車の中で私の手を握ってきた

「一緒に行くの 久しぶりだね(笑)」



繋がれた手

こんなことも初めて




ーーー





「随分 上手くなってるね(笑)」

嬉しそうな彼


「そう、かな…」


彼のために一生懸命 お茶碗を作ったあの頃のことを思い出した


あの時のときめきとか恋してる気持ちが無いことに気がついた

好きなのかどうかもわからなくなるなんて

経ったの一晩で気持ちが冷めてしまったのだろうか


もう自分の気持ちさえも信じられない

穏やかな表情で陶芸に集中してる彼を見つめる



寺崎さん…

私の視線に気がつきいつものように爽やかに微笑む彼


「一緒に作ろう(笑)」


私の背後に座り私の手に彼の大きな手が添えられた


「力加減も上手くなってるね 」

耳元で聞こえる彼の穏やかで優しいいつもの声


「 …寺崎さん ごめんなさい 」

「んー?なにが?」


胸が…

凄く痛い…


「私 しばらくあの部屋を出ようと思います。」



「ーー え?」


ロクロで回っている粘土の形が崩れた

彼の体が私から離れた




「っと、待って、なんでっ、 、」

動揺して声が震えてる





「“一緒に暮らさないとわからないことがある”

寺崎さんは以前そう言いましたよね… それがわかった気がします。」



一瞬 沈黙した



「嫌だよ… どうして… 僕は一緒にいたいよっ」


粘土がついたままの手で背後から私を離さないよう強く抱き締めた


私は胸が苦しく痛んだ


「僕の何がいけなかった?教えてくれ」



彼の温かい体温が伝わってくる


あなたは何も悪くない

これは私が自分勝手な事を言ってるってわかってる


今のあなたは無理してる
本当は私にいっぱい言いたいことや聞きたいことあるだろう

なのに 関係を壊したくなくて無理して笑顔を作ってるのもわかってる


私が知らなかったあの冷めたく恐い表情

あれも寺崎さんなんだ


私はこの人が好きかどうかもわからなくなった


今すぐ別れるんじゃなくて
少し距離を置きたい


私は
本当に身勝手だ…



「君まで僕から離れていくなんて嫌だ… 」





“君まで”

前の彼女は彼から離れていったということ…?




「少し距離をおこう」





ーーー






私は友人の恵美のところに住まわせてもらうことになった


必要な物だけを海外旅行用の大きなスーツケースに詰め

他の物は置いて行くことにした



「理奈ちゃん… 」
私を愛おしそうに優しく抱き締めた


「君の荷物そのままにしておくから。だからいつでも帰ってきて欲しい… ずっと君を待ってるから。」


「じゃあ … 行くね 」


目を潤ませている彼と
玄関先で別れた



閉じた玄関の扉の前でコートの胸を掴んだ

胸が痛い ーー



涙がこみ上げそうになって大きく深呼吸をしエレベーターに向かって歩きだした



ーーー



野村くんは会社で私を見つめている事が増えた

ランチの誘いや一緒に退社を合わせてきたりと急に積極的になった


『今度の休み、何してる?』

『今夜ご飯行こうよ 』



こんなに積極的にアプローチされるなんて初めてで戸惑いもあったけど

正直な気持ち 、誰かに求められることが少し嬉しい



恵美の部屋に帰ると
恵美はまだ帰ってなかった


電話が鳴った
野村くんからだった


「もしもし?」


『吉野さん。明日はご飯行こうよ。俺 、嫌われちゃってるのかな。』


嫌いとか 好きとか そういうんじゃなくて …


「私、彼氏がいるって言ってるじゃない。」


『知ってる。あの時ロビーにいた男だろ? かなり歳 離れてるように見えたけど。』


「年齢とか私 関係ないから。」


『年齢関係ないなら年下でもいいよね!』


野村くんは2つ年下
でももっと年下のように感じる



「ただいまー!」

恵美が帰ってきた



「もう切るね。」

『待って!』

「なに?」

『俺、本気だから。彼氏と上手くいってないんじゃない? 最近ずっと沈んでるから気になってた。

俺ならそんな顔させない。真面目に俺のこと考えて。じゃあまた明日。』




なに真面目なことを…
でも…

ドキドキした


「今の電話、カレシだった?」

「違う(笑)」

「なぁんだ。まだカレシと連絡取ってないの?」

「うーん…」うなだれた

「気になるなら電話すればいいのに (笑)」


あの部屋を出てから1ヵ月
彼からの連絡はない



今にも泣きそうな目をして私を送り出した彼の顔を思い出す度

胸がチクチク痛む




「恵美は何で彼氏と別れたんだっけ 」


「あいつの浮気じゃん!(笑)」


「あ、思い出した。 そうだった(笑)」
寺崎さんは浮気とかしないだろうな



「理奈のカレシ優しい人なんでしょ?なにが不満だったの?」

恵美は着替えて冷蔵庫に入っているビールを開けた




「優しいの。ほんとに… 優しい過ぎるくらい」

「なのになんで家出たの?」

「彼が恐くなって… 」


「ぶはっ!」

恵美は口に含んでいたビールを吹き出した

慌てて吹き出したビールをティッシュで拭きながら



「優し過ぎて恐いって!? (笑) 一体誰の歌よ(笑) ただのノロケにしか聞こえないんだけど!」


恵美は爆笑した



「真面目な話なのに 、、ふふふっ(笑)」

つられて笑った


「ごめんごめん(笑) 一体どういうこと?」


恵美に心のもやもやした想いを打ち明けた


彼は女性との付き合いに慣れてないだけ

口下手で気持ちを言葉にするのが上手くないだけで

私が彼を誤解しているんじゃないかと言った


そう言われてみればそんな気もするけど…


「それに愛情がなきゃ一緒に住んでる間ずっと優しくなんてできないんじゃないの?無理して四六時中 装い続けるなんて誰もできないよ。」




「それとカレシ、年の差を感じてた?やきもちの妬き方すら知らなかっただけかも?もしそうなら可愛い男じゃん(笑)

それに偶然とはいえ彼女が男といたらカレシなら誤解して腹立つんじゃない?

ああ、カレシの肩持ってるとかじゃないからね(笑) 」



恵美の言う通りかも… と思えてきた




「理奈を大事にしてくれるそのカレシ大事にした方がいいと思うな。

優し過ぎて頼りないぐらいが良いよ?気が強くて我が強い男よりずっと良いわ(笑) 」



確かに寺崎さんは口下手な方だと感じてた
私が甘えると嬉しそうな表情をしてた…



ーー 胸がキュンとした



「逃げないで向き合えば?」



確か、修司くんにもそう言われたな ーー



「で?カレシの写真全然見せてくれないのはなんで?やっぱりイケてないオッサンなの?(笑) 」


「やっぱりってどんなイメージなのよっ 」


誰にも彼を見せたことはなかった
なんとなく見せたくないと思っていた


あのチョコレート屋の前で彼と目が合って初めて会話をしたあの日を思い出した


浮かぶのは 彼の優しい表情ばかり





出て行った私を待つ彼は
今 どんな気持ちで過ごしているのだろう

二人で過ごしたあの部屋でひとりきり

ちゃんとご飯食べてるかな …



美味しそうに私が作ったご飯を食べてる彼の顔を思い出した


罪悪感で胸が痛んだ



ーーーーー



それからも毎日のようにデートに誘ってくる野村くんに根負けして

仕事帰りに食事をすることにした



一回だけだよ 、と了承すると
そんな!一回だけなんて!と言いながらも

凄く嬉しそうな表情をした




嬉しくてテンションの高い野村くんはやっぱり学生のように見える


明るくて面白くて
時々“好き”をアプローチしてくる

それが凄く恥ずかしい …


店を出て帰ろうとすると
もう1件ぐらいいいでしょ!とおねだりしてきた



可愛いな …
なんてちょっと思ってしまった


「もう帰らなきゃいけないから。ごめんね。」


残念そうな表情になった野村くんと並んで歩いた


「俺さ…ずっと吉野さんを見てた。

入社して同じ部署になって、理奈は先輩で。

おっとりしてそうなのに結構ちゃんと仕事できてさ(笑)



俺はまだまだ仕事覚えるのもやっとの頃理奈がさりげなくサポートしてくれたのも気付いてた。

部の飲み会の時だって他の人は気付かない気遣いを理奈だけがさりげなくしてたのも知ってる。

なんかさぁ。
始めは 姉さんみたいな感じで見てたけど…

段々と俺の中で気持ちが変わってきて…

俺、好きなんじゃないかなって気がついた。

でも仕事で同じぐらいにはならないと俺の気持ち、伝えられないなって思ってた。

だから… ほんとはずっと前から吉野さんが好きで

そのことを伝えたかったんだ。」



立ち止まって私を見つめた

見たことのない野村くんの男の表情に心が揺れた


でも…


「私は野村くんのことそんな風に想えないよ… 」




野村くんの表情が沈んだ

「わかってる。でも俺、諦められない。」


真剣な表情で私を見つめてる …

そんな目で見ないで



思わずうつ向いた



「俺の方が理奈を笑わせてあげられる。
必ずカレシのこと忘れさせるから。

だから 、、俺と付き合って欲しい 。」





彼の本気の告白に
戸惑いが隠せなくなった


「困る…」



「真剣だから。俺とのことも考えて欲しい。」


後ろから車が来て
私の腕を掴んで路肩に引き寄せた

ドキッとした


野村くんは私の腕から手を離した


「考えといて。」


まだドキドキしてる

それは突然後ろから車が来たから

きっと
そう 。






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