Stay With Me 20
昔よく利用していた古本屋に
探していた本がようやく入ったからと連絡があり仕事帰りに立ち寄ることにした
会社のスタッフ専用出入口にいた中野さんもちょうど帰る所だった
「 寺崎さん、、来てくださってありがとうございました。」
安定の固い挨拶だな(笑)
「 彼女と行かせてもらったよ(笑) 」
「 え!? 彼女、さん … そう … だったんですか。
すみません。気付きませんでした。」
俯き目を合わすことなく
駅に向かって歩きだした
「 中野さん、綺麗で素敵だったよ(笑) あ、歌もね(笑) 」
本当に綺麗だった
歌も凄く上手くて良かったんだが …
本当に同一人物なのか!?と自分の目を疑う程の会社でのギャップ
そこに目が釘付けになった、というのが正直な感想
そちらのインパクトの強さで
本当は歌はあまり入ってこなかった(笑)
そもそも
元が理奈ちゃんに似てるから
理奈ちゃんもあんな感じの化粧とか少し大胆な洋服でもイケるってことだよな
… それを想像するだけでつい、顔が弛む
「 綺麗 … ? 」
「 あ? あぁ、うん。
そうだ、中野さんは僕の彼女にとても似てるんだ(笑)
彼女も君の衣装のような感じも似合うだろうなって思ったな(笑) 」
「 彼女さんと私が … ?
ということは寺崎さんの好きなタイプって … !
あ、そんなことはないですよね、じゃあ失礼しますっ 」
明らかに中野さんらしくない明らかに不自然な動揺を見せ
小走りで立ち去ってしまった
なんだ??
何が言いたかったんだ?
まぁ とにかく
ようやく理奈ちゃんとの関係も元に戻ったし
ちょっとしたことを任されたり
少し変化があった
はぁ~
久しぶりに熱い夜だったな …
ふふっ(笑)
僕が変わってるのかもしれないが
日々愛が増してる気がするぞ!(笑)
料理中の背後から肩を抱いては首にキスをし
化粧を落としてる最中に服の中に手を撫で入れて
ちょっかいを出すたび
邪魔しないでと軽くあしらわれるけれど
女の子らしい愛らしい声と
困った表情に丸い頬を赤くするところが堪らなく可愛い
ん~
本当に幸せだなぁ~
「 ふふっ … (笑) 」
あっ、
誰かに見られていないか周囲を見渡した
会社ではプライベート話は一切しない僕が
随分歳下の彼女に家ではデレてるなんて誰も思うまい
おっさんキモッ!とか思われそうだからな!
「 ふぅ! 」
大きく深呼吸をして顔を引き締めた
古本屋の店主と遇うのは5年ぶり
学生の頃によく訪ねていたこの店はあの頃と変わらないけれど
もう80になったと笑うその店主の顔には
人生経験を重ねた深みを感じる深いシワが刻まれていた
僕は目当ての本を受け取り
また来るからと約束をし本屋を出た
ここから駅への帰り道にある パン屋を思い出した
そのパン屋は元彼女が勤めていた店だ
初めて恋をして
初めて女性と付き合い 同棲をした
そして
突然 彼女は家を出てしまった
もう誰も好きにならない
恋なんか二度としないと思った程 好きだった
出会いはあのパン屋だった
大学への通学路でもあったから
たまに立ち寄っていた
僕はただの客の一人にすぎなかった
そんな時 ーー
ある日から彼女は
僕だけにこっそりとおまけ(小さなクロワッサンだったりクッキーだったり)を入れてくれるようになった
それが僕だけだと知ったのは
友人にはそのおまけらしきものはいつも入っていないことに気が付いたからだ
どうして僕だけ? と疑問に思っていたある日
パンの紙袋の中にメモが入っていた
彼女の名前と電話番号が書かれていた
あの時代は今のようにスマホも無い時代
連絡の手段は固定電話か手紙、直で会う、その三択
彼女は僕よりも少し歳上のようで
とても綺麗な女性だった
綺麗だから 彼女目当てで毎日そこでパンを買う友人もいた
その頃の僕は綺麗な女性に少し偏見があった
綺麗な分、性格が悪いんじゃないか、とか
高飛車でわがままなんじゃないか、とか
だから “ 美人 ” だとは思ったが
それ以上の興味はなかった
その “ 美人 ” の彼女からの連絡先メモ ーー
これはどういうことだ?
何日も そのメモを眺めた
恋に興味もないし 冴えない僕には
誰かと付き合うということに
現実味を感じていなかった
そんな時
いつものようにパン屋の前を通り過ぎた時
彼女が店から出てきた
「 あの! あなたの電話番号を教えて欲しいの! 」
驚いた僕は軽く引いた
「 はっ!? 」
「 あたし、あなたが、好きみたい、なの、、」
女性から好きなんて言われたのは人生初めてだった
告白の力って凄い
それまで気にしていなかった人なのに
彼女が気になるようになった
ーーー
たまに食事をしたりと
ヲタクな僕が一般的なデートらしきことをするようになった
昔よく利用していた古本屋に
探していた本がようやく入ったからと連絡があり仕事帰りに立ち寄ることにした
会社のスタッフ専用出入口にいた中野さんもちょうど帰る所だった
「 寺崎さん、、来てくださってありがとうございました。」
安定の固い挨拶だな(笑)
「 彼女と行かせてもらったよ(笑) 」
「 え!? 彼女、さん … そう … だったんですか。
すみません。気付きませんでした。」
俯き目を合わすことなく
駅に向かって歩きだした
「 中野さん、綺麗で素敵だったよ(笑) あ、歌もね(笑) 」
本当に綺麗だった
歌も凄く上手くて良かったんだが …
本当に同一人物なのか!?と自分の目を疑う程の会社でのギャップ
そこに目が釘付けになった、というのが正直な感想
そちらのインパクトの強さで
本当は歌はあまり入ってこなかった(笑)
そもそも
元が理奈ちゃんに似てるから
理奈ちゃんもあんな感じの化粧とか少し大胆な洋服でもイケるってことだよな
… それを想像するだけでつい、顔が弛む
「 綺麗 … ? 」
「 あ? あぁ、うん。
そうだ、中野さんは僕の彼女にとても似てるんだ(笑)
彼女も君の衣装のような感じも似合うだろうなって思ったな(笑) 」
「 彼女さんと私が … ?
ということは寺崎さんの好きなタイプって … !
あ、そんなことはないですよね、じゃあ失礼しますっ 」
明らかに中野さんらしくない明らかに不自然な動揺を見せ
小走りで立ち去ってしまった
なんだ??
何が言いたかったんだ?
まぁ とにかく
ようやく理奈ちゃんとの関係も元に戻ったし
ちょっとしたことを任されたり
少し変化があった
はぁ~
久しぶりに熱い夜だったな …
ふふっ(笑)
僕が変わってるのかもしれないが
日々愛が増してる気がするぞ!(笑)
料理中の背後から肩を抱いては首にキスをし
化粧を落としてる最中に服の中に手を撫で入れて
ちょっかいを出すたび
邪魔しないでと軽くあしらわれるけれど
女の子らしい愛らしい声と
困った表情に丸い頬を赤くするところが堪らなく可愛い
ん~
本当に幸せだなぁ~
「 ふふっ … (笑) 」
あっ、
誰かに見られていないか周囲を見渡した
会社ではプライベート話は一切しない僕が
随分歳下の彼女に家ではデレてるなんて誰も思うまい
おっさんキモッ!とか思われそうだからな!
「 ふぅ! 」
大きく深呼吸をして顔を引き締めた
古本屋の店主と遇うのは5年ぶり
学生の頃によく訪ねていたこの店はあの頃と変わらないけれど
もう80になったと笑うその店主の顔には
人生経験を重ねた深みを感じる深いシワが刻まれていた
僕は目当ての本を受け取り
また来るからと約束をし本屋を出た
ここから駅への帰り道にある パン屋を思い出した
そのパン屋は元彼女が勤めていた店だ
初めて恋をして
初めて女性と付き合い 同棲をした
そして
突然 彼女は家を出てしまった
もう誰も好きにならない
恋なんか二度としないと思った程 好きだった
出会いはあのパン屋だった
大学への通学路でもあったから
たまに立ち寄っていた
僕はただの客の一人にすぎなかった
そんな時 ーー
ある日から彼女は
僕だけにこっそりとおまけ(小さなクロワッサンだったりクッキーだったり)を入れてくれるようになった
それが僕だけだと知ったのは
友人にはそのおまけらしきものはいつも入っていないことに気が付いたからだ
どうして僕だけ? と疑問に思っていたある日
パンの紙袋の中にメモが入っていた
彼女の名前と電話番号が書かれていた
あの時代は今のようにスマホも無い時代
連絡の手段は固定電話か手紙、直で会う、その三択
彼女は僕よりも少し歳上のようで
とても綺麗な女性だった
綺麗だから 彼女目当てで毎日そこでパンを買う友人もいた
その頃の僕は綺麗な女性に少し偏見があった
綺麗な分、性格が悪いんじゃないか、とか
高飛車でわがままなんじゃないか、とか
だから “ 美人 ” だとは思ったが
それ以上の興味はなかった
その “ 美人 ” の彼女からの連絡先メモ ーー
これはどういうことだ?
何日も そのメモを眺めた
恋に興味もないし 冴えない僕には
誰かと付き合うということに
現実味を感じていなかった
そんな時
いつものようにパン屋の前を通り過ぎた時
彼女が店から出てきた
「 あの! あなたの電話番号を教えて欲しいの! 」
驚いた僕は軽く引いた
「 はっ!? 」
「 あたし、あなたが、好きみたい、なの、、」
女性から好きなんて言われたのは人生初めてだった
告白の力って凄い
それまで気にしていなかった人なのに
彼女が気になるようになった
ーーー
たまに食事をしたりと
ヲタクな僕が一般的なデートらしきことをするようになった
彼女と会っている時はとても楽しくて
気持ちも高揚した
女性に好かれるって
嬉しい … !!
でも彼女の手すら触れない
そんな友達のような付き合い方を続けていたある日
彼女から
“ 私のこと好き? 私はあなたの彼女だよね? ” と聞かれた
ーー えっ?
僕は考えた
① 彼女といると楽しい
② 別れ際は名残惜しくなる
③ 帰宅したら電話で無事かどうかを確認しないと落ち着かない
総体的に考え
これは 恋愛感情ではないのか? と答えが出た
恋愛しているかどうかを論理的に頭で考えていた僕は
いかに馬鹿な男だったか
ーー 本当に笑える(笑)
恋なんて
いつの間にか “ 落ちる ” ものだ
あの頃の僕はそんな鈍感で頭デッカチな男だったが
今思い返しても
あの頃の僕は彼女が好きだったことに間違いはない
彼女はいつも自分に正直で
そして負けず嫌いだった
端正な顔立ちの2つ歳上で24歳の彼女は社会人
学生の僕には大人に思えた
彼女と付き合い初めて
初めての夏 ーー
彼女と花火を見に行った時
人混みではぐれそうになり
彼女がとっさに僕の手を繋いできた
あの瞬間 初めて
心で “ 恋をしている ” と実感した
ドキドキして
ますます手の汗が気になって
然り気無く手を離そうとしたら
「 離したらはぐれてしまう(笑) 」と
握り返して笑った彼女の笑顔はとても綺麗で
まるでドラマの主人公にでもなったかのような感覚になった
そんな彼女の浴衣姿は
凄く色っぽくて
まだ中学生のように純粋だった僕は直視できなかった
ふと目にとまった彼女の白くて細い首筋に
じんわりと汗が滲んでいたのを見た瞬間
身体の芯が熱くなって
僕は彼女の身体に触れてみたいという欲求が強くなった
花火を見上げる彼女に
奥手だった僕は勇気をふりしぼり
彼女に初めてキスをした
彼女が僕の部屋に遊びに来る事が増えてはじめたある夜
彼女は今夜はここに泊まると言った
動揺する僕に
彼女はキスをしてきた
初めて経験する僕を優しくリードする彼女
… あれは
男として本当に情けなかったけれど
男でも “ 初めて ” のことは忘れられない淡い思い出だ
人生で初めての彼女との付き合いで
いかに自分が甘えたい男だったかということを知った
次第に彼女が僕の泊まる頻度が増え
いつの間にか一緒に暮らすようになっていた
大学を卒業し 僕も会社員となり
環境が変わってストレスも溜まるようになっていた
元々 そんなに体力もない理系男子の僕は会社から帰ると 毎日グッタリで
そんな僕を彼女は献身的に支えてくれた
毎日彼女が部屋にいることが当たり前
食事の支度や掃除に洗濯も
彼女がすることが当たり前で
その “ 当たり前 ” と思うことが
いかに自分勝手な考えだったかを学ぶことになった
彼女とすれ違い始めたきっかけは
本当に些細なことだった
してもらうこと 与えてもらうことが
当たり前になっていた僕に
彼女は次第にイライラすることが増えていった
「 あなたにとって私は何なの!? 私はあなたの母親じゃないのよ!」
彼女が何故 怒っているのかさえわからなかった鈍感な僕は
「 どうして怒るんだ? 」と戸惑いながらそう返した
彼女は 何故わからないの!? 信じられない!と怒りをぶつけながら泣きだした
戸惑う僕は 何も言えなかった ーー
翌朝 ーー
彼女は突然
荷物をまとめて部屋を出ていってしまった
あの時の僕は
何故 彼女が突然去っていったのか
理解できないまま
ただ 彼女を失った喪失感でいっぱいになり
まるで死人のように生気の無い毎日を過ごしていた
友人の斎藤が心配をし
飲みに連れ出してくれた
斎藤と話している内に気付いた
いや あれは気付かせてくれたのだろう
母親のように彼女から与えてもらうことがいつしか当然のようになり
彼女を誠実に 思いやりを持って接し
愛することができていなかったのだと
幼稚で稚拙な恋愛しかできなかったんだと
ーー 深く思い知った
しかし そう理解をしても
心はそう簡単には立ち直れず
僕は彼女の勤めていたあのパン屋の店を何度も通っては彼女の姿を探した
けれど彼女の姿は無く
思い切って店に入り
新しい店員の女性に彼女のことを尋ねてみると
彼女は部屋を出たあの日に
パン屋を辞めていたことがわかった
唯一の連絡先でもある実家にも電話をかけてみた
彼女は実家も出たままで
一人暮らしを始めたようだった
場所は教えてはくれず
彼女との繋がりが完全に切れたことを
その時悟った ーー
ーーーー
あの時の胸の痛みは今はもう無い
でもあの頃の切ない想いはまだ忘れてはいない
そして僕は
またあの時のようにパン屋の前を通りかかった
居るはずのない店内をふと見ると …
「 えっ … 」
ーー 彼女の姿がそこにあった
なんで …
また この店にいる彼女を見ることができるとは思ってもみなかった
彼女はあの頃よりも痩せてはいたけれど
雰囲気はあまり変わってはいなくて
昔の綺麗な女性のままだった
店の前で足を留めていた僕に彼女は気付き
彼女と目が合った
彼女も驚いた表情に変わった
“ しまった 、、”
僕は咄嗟にそう思った ーー
目を反らし 少し会釈をして店の前を足早に通り過ぎようとしたら彼女が店から出てきた
「 コウ! 」
久しぶりに聞く彼女の声だった ーー
ゆっくり振り返ると彼女はあの頃と同じ
優しくて華のような笑顔を向けていた
ーー あぁ、ダメだ
この笑顔に …
「 久しぶり … 」
「 元気そうで … 良かった。 コウは … 随分変わったね。なんか、凄く格好良くなってる(笑)」
「 … そんなことは 」
僕を “ コウ ” と呼ぶのはこの人だけだ
今 僕はどんな顔をすればいいのだろう
「 コウは … 結婚した? 」
なんで そんなことを聞く?
「 いや … 」
距離のある ぎこちない言葉のやりとり
僕はもう
とうの昔にこの人への気持ちを吹っ切っている
もう未練も無い
だから
大丈夫
大丈夫だ
「 そう(笑) 私ね、もしかしたらここにいたら
また偶然コウと会えたりしないかなと思ってたの(笑) 」
は … ?
この人は何を言ってるんだ
僕らはもう昔に終わった仲だろう
突然 僕から去って行ったのに
「 君は 、、結婚してるんだろう? 」
「 バツイチ(笑) 今はフリー (笑) 」
ドキッとした
つまり 何が言いたいんだ
直感的に
直ぐにこの場を離れないといけない気がした
「 そう。 じゃあ、お元気で。」
素っ気なく立ち去ろうとした時
「 待って!これ …! 」
パンの入った紙袋を強引に手渡してきた
「 私 待ってる!(笑) 」
そう言って店の中に入って行った
なっ、、なん、なんなんだ!
待ってるってなんなんだ!?
自分から出て行ったくせに
“ またよりを戻したい ” とでも言いたいのか!?
あり得ない
それはあまりにも身勝手だろう
イライラを収められないまま家に着いた
部屋は真っ暗だった
あぁ …
そうか
理奈ちゃんは来週末まで出張だっけ …
「 こんな時に!」
こんな時にって、、なんだよ
何故、こんなに腹が立つ?
部屋の灯りを点けてテーブルにパンの紙袋を置き
コートの胸ポケットからスマホを取り出した
理奈ちゃんからLINEが入っていた
“ もう家かな? 晩ご飯は冷蔵庫に入ってるからね。”
胸が痛んだ
今、電話いい?と返信すると直ぐに電話がかかってきた
『 お疲れさま(笑) 』
その可愛い声が
時間を現実に引き戻してくれた気がした
「 札幌はどう? 寒い? 」
『 凄く寒いよ!雪が降ってきてもう積もりかけてるの(笑) 行さんと一緒に旅行で来たいな!ふふっ(笑) 』
雪に少し興奮気味の君と
僕の気分との温度差を感じた
「 ん(笑) そうだな。 行こうよ(笑) 」
今すぐ君を抱き締めたいよ
「 早く会いたい … 」
『 まだ出張初日だよ? 来週まで帰れないのに(笑) 』
「 今すぐ抱き締めたい。沢山イチャイチャしたい。今度の休み、そっちに飛ぼうかな。」
『 航空券もったいないよ!(笑) 』
「 もったいなくなんかない。君に会えるんだから。
愛してる、だから、、」
『 行さん? 突然どうしたの? 』
「 いや、寂しいだけだよ(笑) 君で埋まってる身体の半分が無くなったようなものだから。 」
『 じゃあビデオ通話で話そうよ(笑) 』
ビデオ通話に切り替えると
寒いからか丸い頬が赤くなっていて
まるで雪国の子供のようだった
「 頬、赤くなってるな(笑) 」
『 そうなの(笑) ヤだよ~ 恥ずかしい(笑) 』
「 可愛いよ? 子供みたいで(笑) 」
『 それ、褒めてるつもり!?(笑) 』
「 はははっ(笑) 褒めてるつもりだけどな(笑) 」
君との温かい電話を切ると
部屋の寒さをより一層感じた
暖房を点け 君が作り置きしてくれている料理を温めている間に風呂の湯を貯めた
しばらく君は帰らないんだよな ーーー
それだけで部屋が広く 静かに感じる
やはり僕は
歳を重ねても昔と変わらず
寂しがり屋で甘えん坊な男なんだな
いつもは君がいると思えるから
一人でも寂しくはないんだ
君と離れて暮らした時は
身を切られるような寂しさに
頭がおかしくなりそうだったもんな
“ 待ってるから!”
ふいにまた彼女の言葉を思い出した
ハッと気付いてパンの紙袋を覗いた
そこにはパンと手紙が入っていた
あの時とっさに書いたものではない事は直ぐにわかった
いつ会うかもわからない
もう二度と偶然でも会うことはないかもしれない僕に
手紙を用意していたというのか … ?
手紙を開いた
懐かしい綺麗な文字 ーー
手紙には
話し合いもせず突然部屋を出て
音信不通になったことへの謝罪や
あの時の彼女の想いが切々と綴られていた
もうあれから何年経つと思ってるんだ …
部屋を出てからの彼女は直ぐに他の男ができていた
その男は粗暴で不実な男だったようで随分と苦労したようだが
そんなこと言われても 僕には関係のないことだ
“ コウの純粋な優しさが恋しい ”
はぁ … ?
なにを今更 …
“ もしコウに会えたら、コウとーー ”
その瞬間 僕は咄嗟に手紙を握り潰した
「 はぁ!? 馬鹿じゃないのか!? 」
手紙をゴミ箱に捨てた
写真立ての中の理奈ちゃんは
こちらを向いて笑っている
今夜みたいな夜は
傍にいて欲しかった
今度の休み
札幌に飛ぼう …
ーーーー
翌日の朝 ジョギングを済ませて出勤の支度をしながらも
ゴミ箱に入っている手紙を気にしている自分
会えるかどうかもわからない僕をずっと待ち続けたんだ
一応 最後まで読んでやるか …
一晩経って 少し冷静になっていた僕は
また手紙を拾い上げ シワくちゃになった手紙を広げた
“ またコウと笑顔で話したい。私にはもう時間が無いから、もしこの手紙がコウに渡せたら最後のチャンスを神様にもらえたということだから。”
ーー 時間が 無い?
“ 実は胆嚢癌のステージ4で、抗がん剤治療は断ったの。 ”
… は?
癌だって?
だって店で働いてるんだろう?
あんなに元気そうな …
… そういや
痩せていて顔色は悪かったような
しっかり顔を見てなかった …
“ 気づいた時はだいぶ進んじゃっててね。
時間がないとわかると今までの人生を振り返るものなんだね。
思い出すのは幸せだった時のことと後悔が多くてね。
コウに謝らないと死ねないなって。
やっぱりコウは優しかったなって。
愛してくれたのに、見返りばかり気にしていた自分にも反省した。
今更、コウに愛されたいなんて思ってないの。
ただ、会って謝りたかった。感謝の言葉を言いたかったの。 ”
「 やっぱり、馬鹿だ … 僕なんか忘れればいいのに … 」
涙が頬からこぼれ落ちた
ーーーーーーーーーーー