気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 21

2019-11-29 19:46:00 | 日記
Stay With Me 21








鞄の中にはシワくちゃになった元彼女
静からの手紙が入っている






ーー パン屋の看板が見えてきた






何を話せばいいのか …



しばらく躊躇したが
今考えたって何も浮かばない



僕は店へと歩きだした





店のガラス扉を開くと

店員女性が二人いて
彼女が振り返った




目が合った瞬間
感極まったような表情から笑顔に変わった




それが 僕の胸に突き刺さった





「 … 来てくれて ありがとう





「 まだ … 仕事なんだろう?」




「 もう上がらせてもらう。外で待っていてくれる?」







15分程で彼女は私服に着替え店から出てきた






「 お腹すいた? 食事でも、、行く? 」



「 そうだな。」





今夜は昨日より随分寒く
時折強く吹く風が頬を更に冷たくする



病的に痩せたその身体は
コートを着ていてもわかる





「 痩せたな。」



「 ちょっとね(笑) 」




ちょっとどころじゃないだろう …




「 何でも食べられるのか? 」



「 ん~ 最近は外食しなくなったな、、」





食べられなくなった、ということなのか?




「 じゃあ 食事はやめよう。」




「 あ、久しぶりに私が何か作ってあげようか (笑) 」




え? …



「 それはいいよ(笑) この辺りのカフェでも入ろう。」




「 … そっか わかった(笑) 」




別れてから10年経った





この辺りも以前より随分と店は変わっていたが
僕らの10年という離れていた時間は一瞬で埋まった





「 あぁ、あの店 まだあったのか。 」




「 じゃあ あそこにしよう(笑) 」





僕らが何度も入ったことのある夫婦二人で営んでいるコーヒー店は今も全く変わらず健在していた




店内に入り

僕らがよく座っていた席に
示し合わせたように昔の定位置で自然と座った






この店でまた静を前にし座っている


またこの光景が見られるなんてな …






注文を済ませると

次 何を言えばいいのかわからなくなった






「 本当に痩せたな。」



「 何度も言う程 私痩せた?(笑) 」



「 あ、ごめん、、」



「 なに? コウってば、そんなに洗練したのに内面は変わってないのね(笑) 」




「 変わったこともある。」




「 何? 」




「 僕には大切な女性ができたんだ。彼女と一緒になるつもりだ。」




彼女は少し驚いた表情を見せたが
直ぐに静かに微笑んだ




「 そうなのね。今 あなたはとても幸せなのね。

良かったわ … 」





「 あの頃君には悪いことをしたと思っている。
若かったのもあった。

僕は自分のことで精一杯で、君を大切にできなかった。

本当に子供だったよ。」




静は首を横に振った




「 いいえ。あなたは昔も今も優しい。
だって、こうして私に会いに来てくれたんだもの。」






それは違う …

ただ自分が後悔したくなかったからだ





これも自分のことしか考えていない身勝手な行動だ






「 身体の調子は … どうなんだ。何故ちゃんと治療を受けないんだ。 」




「 私には守るものも、守る人もいないから(笑) それに延命して何か変わるとは思えない。

病院のベッドの上で、ただ息をする時間を延ばしても意味が無いって私は思うの。(笑) 」







ーー 彼女らしい考え方だけれど

僕なら少しでも長く生きられるなら抗うだろう





それは 僕には別れ難い存在がいるからだ

静には そういう存在がいないのだろうか







「 どうして仕事を続けてるんだ? 身体は辛くないのか。」




「 もう辞めるわ。あなたとまたこうして会えたから(笑)


前にあなたが住んでいたあの部屋を訪ねたことがあったの。でももうあなたはいなくなってた。


連絡が取れなくなって … もしかしたらあの店にいればまた会えるかもしれないと思って(笑) 」






なんだって … ?






「 いつから … あの店に 」






静が部屋を出て行った三年後

僕はあの部屋を出た





静は旦那と別れ

その半年後に訪ねてきたようだ





ーー もし



その時 僕がまだあの部屋で暮らしていたなら

また静を受け入れただろうか






でもそれなら

理奈ちゃんとは出会えていない











「 ねぇ。コウ。最期にコウにお願いがあるんだけど。」













僕は 静の願いを叶えることにした





残された時間があまり無い儚げな静を

冷たく突き放してしまう程
僕の心は強くなかった






静の願いは


恋人だったあの頃のように
過ごすことだった





自分は誰かに愛される資格のある女だったと
最期に思いたかったのだろうか






静は親の心配をよそに

まだ一人暮らしをしていた






またあの頃のように また僕に料理を作りたいと言う静


僕は一緒に買い物をし 彼女の住む部屋に向かった






洒落たメゾネットタイプの建物に着いた



イメージしていたより良い暮らしをしていたことで
内心 ホッとした






買い物の品を冷蔵庫に詰める静はとても嬉しそうだった






「 またコウにご飯作ってあげられるなんて(笑) 」




嬉しそうな静に
理奈ちゃんへの罪悪感を感じた






「 手伝おう。」



僕もコートを脱いでキッチンに立った




「 もしかして、料理できるようになったの? 」





あの頃の僕は自炊ができなかった

全て静任せにして負担をかけていた





静と別れてから

男も自炊ぐらいできないといけないなと思い
料理のレシビ本を買って

レパートリーを増やした




理系だからか?

レシビ本を見ながら食材を料理へと変化させていく工程が案外面白くて


しばらく一切外食もせず
料理にハマった時期もあった






「 ん、まぁ今はそれなりに? (笑) 」




「 そうなの? 人は変わるのね(笑) 」




野菜の皮をピーラーで剥いていると




「 あの頃のコウは 凄くガリガリだったから体力もなくて(笑) 沢山食べさせてあげないと!って思ってたの(笑) 」





「 確かに体力無かったな(笑) 」





「 痩せてるのは昔と変わらないけど、今はたくましくなったようね(笑) 」




シャツの袖をめくりあげている僕の腕を見ながらそう言った





「 ジョギングは毎日のルーティンにしてるよ。 たまに泳ぎに行くこともあるよ。若かったあの頃よりは体力も筋力もついたな(笑) 」





僕の顔を見て 微笑んだ




「 イヤだわ!ひ弱な男だったら作りがいがあるのに(笑) はははっ(笑) 」





「 じゃあ 僕が作ろうか(笑) 」




「 コウの口からそんな言葉が聞けるなんてね(笑) 」




静は嬉しそうに笑った




骨と皮だけのような筋ばった細い指

服の上からも痩せた身体は隠せてはいなかった




その 折れそうな程の貧弱な身体に
僕は悲しさが溢れてきた





「 君は座ってろ。僕が作るから。 」




「 でも … 」




「 いいから(笑) 」


静の肩に手を添え
テーブルの椅子に座らせた




触れた手に伝わる肩の細さに

命があまりない という言葉を実感する





「 コウは昔よりも随分優しくなってない?(笑)
それだけ今 幸せなのね。 ふふっ(笑) 」





「 幸せだよ。 … 今、この瞬間も。」





ーー 本当は 悲しい



でも その想いをここで出してはいけない



静はきっと

大事に想われている幸せを感じたいのだろうから







「 へぇ(笑) そんなリップサービスも言える大人の男になったのね(笑)

ふふっ(笑) まぁ、ここは素直にありがたく受けとることにするわ(笑) 」





「 大人の男って(笑) 僕はもうおっさんだぞ(笑) 」






「 … ううん。温かくて … イイ男になったと思う。本当よ。」





その言葉が 悲しげに聞こえ
僕は聞こえなかったフリをした






ーーー






テーブルには 和食のおかずが並んだ


小さな茶碗に子供が食べる程度のご飯



こんなので大丈夫なのかと聞いたが

それで十分だと笑った




こうして 誰かと食事をするのは久しぶりだと
嬉しそうな表情の静に切なくなった




「 あなたの彼女に申し訳ないなぁ(笑) 」




「 ははっ(笑) 本当にそう思ってる?(笑) 」




「 ちょっとはね(笑) 」




彼女は出張に出ていて来週までは帰らないことを話した



「 キャリアウーマンって感じ? 」




「 そう、だな(笑) できる女風というより家庭的な子だよ。」




「 子?(笑) 若いの? 」




「 かなり、ね(笑) 」




「 やるわね(笑) あなたがそんなに若い子と付き合ってるなんて夢にも思わなかったわ(笑) 」




それは僕自身も常々思うところだ




「 可愛いの? 」





「 ん、かなり可愛い(笑) ふふっ(笑) 」





「 ノロケなんてコウらしくない(笑) 」





「 僕の方が相当惚れてる(笑) 彼女のためなら何でもしてあげたいよ。」




「 ほんと変わったわね(笑) あ~、だから身体鍛えてるとか? 」




「 ジョギングは知り合う前から始めていたよ。でも走る距離は増えたな(笑) 」




「 ふふっ(笑) そういうとこ変わらず可愛いわね(笑) 」




「 僕を可愛いなんて言うのは君だけだよ(笑) 」





「 あなたの彼女もきっと思ってるはずよ(笑) 」





「 だろうか(笑) 」







そんな 和やかな会話をしながら食事を終えた






「 今夜 … 泊まっていかないよね? 」



後片付けで食器を洗っていた僕にそう言った




「 それはできない。」





「 だよね(笑) ごめんね、そこまで甘えられないよね(笑) 」





少し寂しそうな笑顔に胸が痛い




「 静が明日休めるならどこか行くか?

僕も仕事休み取るから。車で迎えにくるよ。」





僕が洗い物を済ませていると

静は僕の傍に来てコーヒーカップを出しケトルで湯を沸かし始めた





「 私はもう仕事は辞めたのよ(笑)

実はね、オーナーには “ 会いたい人がいて、会えるまではここに居させて欲しい。会えたら辞めさせて欲しい ” とお願いしてて。

事情を話したらオーナーは快諾してくれたの。」






「 またこうしてコウに会えたことが本当に嬉しい。」




僕を見上げた静は

昔よりも小さくなったように感じる







「 … そうか。 じゃあ明日 少し遠出しても構わないからどこかに行こうか。

身体が疲れない程度でな。」






「 それはデートのお誘いかしら? (笑) 」




“ これはデートのお誘い ”

僕が理奈ちゃんによく言った言葉だ ーー






「 自由に解釈してくれ(笑) 」




「 なんなの? そのいい加減な感じ(笑)
じゃあ、デートだと思うことにするわよ?(笑) 」




「 ははっ(笑) どこに行きたい? 」




「 ほんとはまたあなたと花火が見たかったなぁ(笑) 」




花火大会 …

初めての夏

初めてキスをした場所 … か





「 もう寒い時期だからね(笑) 花火は来年だな(笑) 」




「 来年の夏までいれば、の話ね (笑) 」




ーー え?




「 … まさか 来年はいないというのか? 」




「 予定通りならいない(笑) 」




ーー は?




「 お前 、、馬鹿じゃないのか、、 」





急に悲しみが汲み上げてきた





「 なんで生きようと抗わないんだ! なんで諦める?

ほんと、、ほんとにお前は馬鹿だよ!」





「 コウ、コウ、ごめんね、私、ほんっと馬鹿だよねぇ

分かってるんだよ。でももう遅いの。どうしようもないの。 ごめんね (笑) 」





泣きそうな目で悲しげに笑う彼女に ハッとした




「 … あやまるな。すまない … 悪かった。」




辛いのは静の方だってわかってたのに





「 ありがとう。 やっぱりあなたは優しい …

私なんかのために本気で怒るなんて 」




静は視線をケトルに移した





「 馬鹿だよねぇ 私。

私の人生 何も残らなかったな。

子供でも出来てたらなぁ(笑) ふふっ(笑) 」





「 お前がこんな身体になってるなんて … 想像もしてなかったよ。」





ニットを着ている背中に 背骨の形が出ていた

その痩せた背中に触れると振り返った





「 私の身体に触らないで。

こんなに痩せちゃったらもう女には見えないでしょ。」





痩せた身体を気にしているようだった






「 昔も今も 僕には静は女でしかないよ。」





「 コウも相当なお馬鹿ね … ふふっ(笑)

女をその気にさせるような言葉をそんなナチュラルに言っちゃいけない。

そういう所、直さないと彼女が心配するわよ(笑) 」



ケトルの湯をドリップコーヒーにかける







明るく振る舞う静に胸が痛い




「 … 本当にそう思ってるよ。」





「 じゃあ、さ。」




静はケトルをガス台に戻し落ちるコーヒーを眺めた





「 今の痩せ細った私の裸を見ても 」




振り返って真っ直ぐ僕を見た




「 あなたは男として私に欲情するのかしら(笑)

確か、あなたはぽっちゃりな女が好きだったでしょ? ふふっ(笑) 」





視線をコーヒーカップに移し静かにコーヒーを注ぐ





「 僕が欲情するのは彼女にだけだ。」






「 ふふっ(笑) 正解の答えね(笑) 」





コーヒーカップを手渡された





「 もし欲情するなんて言われたらどうしようかと思ったわ(笑) 」



テーブルの椅子に座った






「 … お前がもし健康だったとしても僕はもう … 」




愛してはいない ーー







「 そうね。わかってるわ。

私は幸せだった頃をもう一度夢見たかっただけ。

コウを利用してごめんなさい … 」





一筋の涙が頬からこぼれ落ちた






「 いいんだ。 静は今も魅力的な女だよ。それは本当だ。

もし彼女と出逢っていなければ もしかしたらお前に欲情して抱いてたかもな。ふふっ(笑) 」






「 だから、そういうこと言うのやめてよ(笑)

女としては嬉しいけどね(笑) ふふっ(笑) 」





やっぱりそうなんだな






「 コウ、ちょっと立ってみて。」



「 え? 」椅子から立ち上がった



「 こっち。」椅子の横に立たされた



「 なんだ? 」



「 そのまま。」


子供のように 僕を抱き締めた



「 もしまたコウに出会えたらハグしたかったの。


コウ、匂い変わった。

フレグランスをつけるようになったのね(笑) 良い匂い … 」





「 おやじ臭いと思われるのは嫌だしね(笑) 」




「 コウなら許せるわ(笑) 」





昔と変わらない性格

昔と変わらない話し方

昔と変わらない声




違うのは

僕の心





「 じゃあ僕もハグしていい? 」



「 それはダメ(笑) 」



「 なんだよそれ(笑) 」




ダメだと言われても無視して優しく抱き締めた

本当に折れそうなほどの薄い骨ばった身体に悲しみが込み上げてくる




やめてと振り払おうとする力も非力で


泣きそうな自分を見せたくなくて抱き締めた






「 変な意味は無いからなっ (笑) 」


努めて平気な声を出した





誰かに愛されたいんだろう

その役目は僕は果たせないけれど





少しでも力を加えると枯れてしまいそうなそうな
そんな儚げな花のような静に


僕ができることなんて
何も無いことはわかっている




だったらせめて

僕だけは女として見てあげたい




あの出会った頃は

静を目当てに沢山の男性客がパン屋を訪れていた





その 美しかった頃の静でいられるよう









ーー あの時 そう思った







ーーーーー







翌日の朝 静の部屋を訪ねた




静は顔色の悪さを隠すような厚めの化粧に

身体の線が出ないようなロング丈の小さな花柄のワンピースにボリュームのある厚手の白いカーデガンを羽織っていた







「 随分可愛らしい服装だな(笑) 」



「 デートの誘いと解釈したからね(笑) 」



「 ははっ(笑) 」






今は花火大会の時期じゃない

静の希望には添えないけれど



二人で行った植物園や港のカフェで
当時の思い出話をした



病的な細さの静は
すれ違う人の目を引いた



そんな人目を気付かせないよう
僕は静に沢山話しかけた






でも 時折
理奈ちゃんは今 どうしているだろうと頭を過った



昨夜は帰宅後 LINEメッセージをしただけで
電話をしなかったことを気にしていはいないだろうかと気にかかる




今 彼女のことを考えてる?と静に話しかけられた




「 ん、昨日電話してないから。気にしてないかなと。 」





「 いいなぁ(笑) 私もそんな風に誰かに気にかけられたいわ(笑) 」





「 一応 僕は静を気にかけてるつもりなんだけど? 」





「 そうね(笑) 友情で、ね(笑) 」






「 静を友人としては見てないんだけど。」






「 じゃあ何? 」






「 元、彼女。」






「 まんまじゃない(笑) 」





「 ひねりがなくてすまないね(笑)

男でも成立する “ 友人 ” ではなく
やっぱり静は元彼女。

僕の中では今でも “ 綺麗な女 ” だよ。 」






「 ふふっ(笑) ありがと(笑) 」



照れくさそうに笑った静はまだ可愛く見える








「 花火。来年一緒に行こう。約束だ。」





潤んだ瞳で微笑んだ





「 馬鹿ね … (笑) あなたには彼女がいるでしょ?

それに 私は守れない約束なんてしないわ。」






「 約束、してくれ。」


真剣な僕に 根負けしたような表情をして微笑んだ






「 わかった(笑) 約束。」









ーーーー








僕と静の

二人の時間は終わった




LINEで連絡が取れるようにはなったけれど

静からLINEが来ることは一度も無かった






心の中に穴が空いたような喪失感で
札幌の理奈ちゃんの元に向かう気持ちも失せた








僕は日常のルーティンをただこなしていた




朝 ジョギングをし

シャワーを浴びて朝飯を取り

通勤ラッシュの電車に乗りこみ仕事に向かう





仕事が終わるとスーパーマーケットに立ち寄り
食材を購入して帰宅



真っ暗で冷えた部屋に灯りを点け
暖房のスイッチを入れる



買い物袋から食材を取り出し冷蔵庫にしまうと

ルームウェアに着替えて晩飯の支度




自分一人のために作った料理は本当に味気ない






「 はぁ … 」 つい溜め息を漏らしていた






静はちゃんと食べているだろうかと

僕は静の心配ばかりしていた







ーー 理奈ちゃん


LINEの “ 理奈ちゃん ” を開くと

もう彼女から3日間もメッセージが来ていないことに気がついた





「 え … ? 」






僕はこの3日間 一体なにしてたんだ ーー






慌てて理奈ちゃんにメッセージを送ったけれど
一向に既読にならない




まだ仕事をしているのだろうかと時計を見ると
もう夜の10時を過ぎていた




結局 理奈ちゃんから返信が来たのは翌日の夕方だった




こんなこと … 今まで一度もなかった






返信内容は

行き違いのトラブルがあってバタバタしていて、でも一応予定通り 明後日には帰る予定だから


という、ものだった






まるで業務連絡



ずっと仕事モードのスイッチが入ったままなんだろうか




理奈ちゃんは家庭的な女性だけれど

仕事モードの彼女は夜中でも資料作成をしている時がある





“ ちゃんと眠れているのか? 疲れは溜まってない?

君が落ちついたら 電話したいんだけど。 ”





そのメッセージが既読になったのは

やっぱり翌日だった







結局 電話で話すこともなく
理奈ちゃんは予定通りに帰ってきた



とても疲れて 少し痩せたように見えた






もうクタクタだと言いながら着替えもせず直ぐにソファに横になった



そんな姿を僕は初めて見た


相当なプレッシャーもあったようだし
できれば 仕事を制限させたいのが僕の本音 …





「 直ぐ晩飯食べる? 」



「 食べるぅ~~ ♡ ぅ~~ん 疲れたぁ … 」




甘えるようなリラックスしている理奈ちゃんにホッとした



随分素直に言うようになったな






「 じゃあご飯注ぐよ(笑) 」



「 ん~ ありがとう 」


疲れた身体を起こし
着替えもせずテーブルについた




「 いただきます。」丁寧に手を合わせた




「 久しぶりだな(笑) 一緒に晩飯食べるの(笑) 」




「 寂しかった?(笑) 」




ドキッとした




「 ん、、そうだね。寂しかったよ(笑) 」




「 私も(笑) … 出張、次は断る。」




あれ?




「 どうした? やっぱりキツかったのか? 」




「 身体は疲れてるのに眠れないし、眠れないから翌日はもっと辛いし。

二泊ぐらいならなんとか乗り切れるけど、流石に10日間の出張は辛い(笑) 」




「 そうか。 理奈ちゃん、仕事は辞めようとは思わない? 」





箸を止め キョトンとした





「 私に仕事辞めて欲しいって意味? 」




あ … マズかったか?





「 んー … そういうつもりではないけど … そんなに疲れてるのが心配でね(笑) 」





「 長期出張だったから(笑) 今夜は爆睡できそうだよっ(笑) 」





「 ふふっ(笑) 理奈ちゃんはやっぱり可愛いな … (笑) 」





「 え~? どこが?(笑) 」





「 いっぱいご飯食べるところが(笑) 」




また箸を止めた




「 私 … そんなに食べてる? 」


ショック! と思っているような困惑の表情






「 あははっ(笑) 大食いだって意味じゃないよ(笑)

美味しそうに食べる姿が可愛いんだよ。


あ! また痩せただろう!もっとふくよかにしたいのにまた遠退いた。

もっと食べさせないといけないな。 ははっ! 」





「 痩せたいのに! 」口を尖らせた





静の姿が浮かんだ


「 痩せたらダメだ。絶対にだ。」





一瞬

厳しい顔になってしまい
理奈ちゃんは戸惑いの表情をした




「 … え? 」





慌てて取り繕った


「 僕の好みのふくよかな女性になって欲しいと思ってるんだよ (笑) 」





少し不服そうな視線を僕に向けながら
またご飯を食べ始めた





「 またもう、そんな可愛い顔して(笑) クククッ(笑) 」





「 私のこと可愛いなんて言うの、行さんだけだからねっ? 可愛いを連呼されたら恥ずかしくなるよっ 」




大きな里芋を頬張る理奈ちゃんの頬は
まるでリスみたいだ(笑)




「 それで良いんだ(笑) みんなから可愛いと思われたら “ 僕の理奈ちゃん ” が取られるだろう? 」





「 うっ!! ゲホゲホゲホ!! 」


理奈ちゃんは驚いて喉を詰まらせた



慌てて水を渡したら
その水を一気に喉に流しこんだ





「 とっ、取られるって、、ゲホゲホ! そんなこと、ゲホゲホ! あるわけないでしょ!? びっくりしてむせちゃったよ! 」





「 どうしてさ! 十分あり得る話だ。」




「 行さん … おかしいよ … 行さんの感覚、絶対に他の人と違う … 」



苦笑いをした




「 なにが? どこが? 」




「 いい、いいの(笑) 安心して? 私、モテる女じゃないから!(笑) 心配しなくてもいいよ? 」





「 理奈ちゃんが可愛く見えない男なんているのか? 僕はそっちの方がわからない。」





「 行さんが変わってる人で良かった(笑) 」





「 普通だろ? 」





「 あはははっ(笑) 」


丸い頬が赤くなって楽しそうに笑う理奈ちゃんは
やっぱり僕にはとびきり可愛く見える




「 でさ。結婚式のことだけど。そろそろ決めないか?」




「 … うん、そうだね(笑) 」





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