風 4
あっという間に三週間が過ぎ
その間 何度か西田さんとデートをした
一緒に買い物したりドライブしたりサーフィンしたり… イチャイチャを求めてきたり… とか
女の子と毎日電話をかけるなんて初めてで、それがいつの間にか習慣になっていた
彼女の積極的なアプローチに始めは戸惑ってたけど俺も彼女に気持ちが傾いてるのを実感していた
たったの三週間でこんなにも気持ちが深まるもんなんだな
仕事中も今 西田さん何してるんだろうって想うようになった
綺麗で可愛いだけじゃなくて ちょっとわがままで強引だけどそれも嫌な強引さじゃない
上手に甘えられて結局俺は従うような流れで彼女の手の上で転がされてるような関係だけどそれも悪くないと思えてしまう
本能的というか天真爛漫で自由奔放なところが彼女の魅力
それとエッチとかイチャイチャするのが好きで素直に俺を求めてくれるのが可愛くて嬉しかったりする
自分がして欲しいことを素直に伝えてくれるからどんな事が好きなのか どんな風にしてもらいたいのかもわかってきたし男の本能でそれに応えようと燃えるっ
あと一週間で約束の1ヶ月が終わる
でも俺はその後も付き合いは続けたいと思っていた
『颯真くんに会いたいなぁ~♡ 明後日私仕事がお休みだから行ってもいい?』
「うん、いいよ(笑)」
『じゃあ晩ご飯作るね!何食べたい?♡』
そんな感じで30分 毎日電話で話をした
ーーー
俺の部屋で飯を食いながら西田さんはちょっと寂しそうな顔をした
「あと5日で1ヶ月だね。」
「そうだね。」
「決めてくれた?」
「ん。決めたよ。」
チラッと俺の顔を見て何も言わずまた食べだした
時々窓から湿度の高い風が吹きこんできてカーテンが揺れる
テレビの画面にはバラエティー番組が流れていて俺は音を小さくした
「答え、聞きたい?」
「うーん… どうしようかな…」
困ったように微笑んだ
「じゃあ5日後に言うよ(笑)」
「わかった… 」
答えを聞くことを恐がってるのか? 可愛いな(笑)
「西田さんはほんとに料理上手いね(笑) それに綺麗だし… なんで俺なの。」
「タイプだったし優しいし… 今はいろんな所が… 好き…かな」
俺の顔も見ず少し顔を赤らめているように見える
出会った頃よりも、付き合い始めた頃よりも、最近の反応の方が可愛い
「なんでそんなに可愛い反応するようになった?」
急に真っ赤な顔になった
「可愛い反応って、なに!?」
彼女の首筋に汗が滲んでいた
「言葉通りなんだけど(笑) なんか蒸し暑いよな。クーラー点けるよ。」
「ん(笑)」
雨でも降りそうな湿度になってきて窓を閉めてクーラーを点けた
「今夜… 泊まってくだろ?」
彼女は表情を曇らせた
「その前に颯真くんに話さなきゃならないことがある… 」
「え?」
静かな口調で
とつとつと話し始めた
ーーー
それは俺もまだ彼女と知り合ってもいない二年前の西田さんの行野さんの話だった
二年前の西田さんはグラビアアイドルから舞台女優に切り替えた時
その頃 同じく舞台女優を目指していた行野さんと知り合ったようだ
当時の二人は直ぐに気心の知れた仲になった
お互い夢に向かって一緒に稽古練習をしたりと良好な仲だったようだ
その二人の仲がある事で亀裂が入った
ほんの小さな脇役だったがそこに空席ができ二人の内から決めるという事になった
ーー 結果その役は 行野さんが選ばれた
それを妬んだ西田さんは行野さんの大事なものを奪ってしまった
それは
当時 行野さんが結婚を約束していた恋人の男性
それでも 行野さんは西田さんを許したのは行野さんがその事を誰かに漏らしたせいで西田さんが芸能の世界に居づらくなり辞める結果になってしまったからだと告白した
お互い腹にいちもつを抱えてまだ友人関係を続けているのは
友人関係を保つ事でお互いの闇部分を漏らされたくない牽制とか打算があったのかもしれない
そうだとしても 何故まだ二人に繋がりがあるのか俺にはどうしても理解できない
それに なんでそんなことを俺に告白したんだと問うと 彼女は行野さんとも繋がっている俺にいずれ耳に入るかもしれないからと言った…
そうじゃないんじゃないか?
俺を行野さんに取られるかもしれない
それならいっそ自分から打ち明けてしまおうと思ったんじゃないのか?
今は混乱と懐疑的な思いで冷静に彼女に向き合えそうもない
「… ごめん 今夜はもう、、帰ってくれないか」
西田さんは今にもこぼれ落ちそうなほど涙を溜めた瞳で俺を見つめてゆっくり立ち上がり部屋を出ていった
… 人間不信になりそうだ
それは彼女にだけじゃなく行野さんにもだ
行野さんは一見 純粋で健気にも見えるほど人の良さそうな子
一生懸命自分の夢に向かっていて その夢を応援したくなるような子だったんだ
そういうのも行野さんのほんの一面だったってことだよな
男や配役を取った取られたとか嫉妬や告げ口?みたいなドロドロしたことになってたとか…
なんか もう全部が意外すぎて想像もつかなくて信じられない
ほんと訳わかんねぇ…
パタパタと雨が窓に打ちつける音が聞こえてきた
… 西田さん
傘 持って来てなかったな
俺は傘を持って彼女を追いかけた
雨に濡れ
泣きながら歩いている彼女に傘を差し出した
「… この傘 持っていっていいから… 」
「颯真くん… やっぱり優しいね」
雨に濡れて冷たくなった手が俺の手に一瞬触れた
俺の手から傘を受け取り彼女はまた歩きだした
ずっと天真爛漫で太陽のような彼女の後ろ姿がとても小さく見えた
このまま 彼女を帰してもいいんだろうか
迷っている内に彼女の姿はとうとう見えなくなった
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