たしかなこと 2 (4)
仕事の時と同じスーツに髪もきちんとセットして仕事の時に見てきた硬い白川さんが少し緊張気味で私を迎えに来てくれた
なんだか会社勤めしていた頃を思い出す
黙ってると本当に気難しい人のよう(笑)
「何でしょうか?」
「いえ、スーツの白川さん、なんだか懐かしいなと… ふふっ(笑)」
「どうですか?変な所はありませんか?」
「無いですよ?(笑)」
そんなに緊張しなくてもいいのに
今日は白川さんが私の両親に初めて会う日
両親には白川さんのことを事前に話してある
白川さんの年齢を言うと父は難しい顔をしたけれど母はそんなの気にすることないわよと喜んでくれた
兄と母は性格も顔もよく似ているし母は認めてくれると期待はしていた
父の反応は「まずは会ってからだ。」だけだった
父は地味で真面目なサラリーマン
白川さんのようにヘッドハンティングされるような優秀なサラリーマンということもなく
出世や昇進にも興味はなかったようで地味に真面目にコツコツ仕事をして今の地位にいるという感じ
見た感じも本当にどこにでもいる初老のおじさん
しゃれっ気もなく休日はただ家でゴロゴロとしている
趣味もやってアクティブな白川さんとは正反対
もう直ぐ60になる父と白川さんは6、7歳しか違わないのに
正直 父と白川さんが合うような気がしないから不安で仕方がない
でももっと不安に思ってるのは白川さん本人よね
白川さんには事前に両親の情報は入れてる
白川さんならなんとか上手く説得してくれるんじゃないかと…
「ただいま!」
実家の玄関を開けたら
母がにこやかに迎え入れてくれた
父の表情は…
滅多に表情を変えないからわかんない!
「どうも。初めまして。娘がお世話になっております。」
あぁ...
いつもと変わらない父
私まで緊張してきた!
「初めまして。白川 宣隆と申します。」
今まで会社で見てきたいつもの硬い白川さんだった
でも相当緊張しているはずなのにそうは見えないのはさすが
「香さんと結婚を前提に真剣にお付き合いをさせていただいております。」
あぁ、ドキドキする…
「うん。白川さんは香のどこが良くて結婚したいと思っているのですか。」
えっ!? いきなり!?
「ちょっと、お父さん!」
「具体的に良い所をあげるとなるとキリがありません。良い所も、駄目な所も全て私には魅力的に感じます。それに一緒にいて気持ちが安らぎます。気負いなく自分らしくいられます。香さんもそうであって欲しいと私も努力して参ります。」
あぁっ、、顔から火が出そう… !!
ん?駄目な所??
「そうですか。」
あ、あれ? それだけ??
「ところで。白川さんは健康管理はしていますか?」
健康管理?
「はい。今までも食事には気をつけて参りましたが、最近はジムに通うようにしました。人間ドックも毎年受けています。特に問題箇所はありません。」
確かにジムに通い始めたけど…
「ほぉ。」
話が見えない...
「ではきちんと先々のことを考えているということですね?」
「はい。香さんのことも含め考えています。」
あぁ…
親ほどの年齢だから気にしてくれてたんだ
それでその質問...
「まだ昼間ですが酒でも飲みますか?」
「ええ、是非(笑)」
お母さんはもう準備してあったようで
つまみになるものが用意できていた
二人はまだ午後2時半を過ぎたばかりなのにお酒飲み始めた
なんか… 70年代の音楽の話をしてる
案外 和気あいあいと...
おじさんトークを聞いていたお母さんが
「気に入ったみたいよ?お父さん(笑)」
「みたいだね... 意外… (笑)」
「なんだか友達みたいね(笑)」
正反対なライフスタイルに
正反対なタイプなのに
時々二人の笑い声が台所まで聞こえてきた
父が笑っているなんて何年ぶりに見ただろう
「はぁ~っ、ホッとしたぁ~」
「私は大丈夫だと思ってたけどね(笑)」と母は笑った
「でも本当に真面目な人ねぇ(笑) 香にしては硬い人を選んだわねぇ(笑) 」
あー…
あの仕事の格好であの喋り方だからそう思うよね
「でもね?私が恥ずかしくなるくらいロマンチストな人なんだよ(笑)」
「へぇ!(笑) 意外!」
「本当に優しいし大人で紳士的だしオシャレだし。」
「オシャレ??」どこが?と思った顔をした
あのビジネススーツ姿だけじゃわからないか...(笑)
あ、そうだ!
「写真見る?」
スマホのアルバムに入っている白川さんを見せた
太縁の黒眼鏡に無造作で長い前髪が顔を隠してるけど、黒のエプロンをして白いシャツの腕をまくってるお料理中の白川さんの画像や、デートをしてる時のリネンのネイビージャケットと白いTシャツにウォッシュドデニム姿の爽やかな白川さん
母はニヤニヤした
「えへへぇ~意外!(笑) 料理もするの?格好良いじゃないの(笑) あ!ほら、あの人みたい!ドラマに出てた、あの、あの、」
「誰よぉ~(笑)」
「“きのうなに食べた?” ってドラマの!」
「どっち?西島さん?」
「違う違う!眼鏡でヒゲの、あ!内野聖陽って人!」
「え~? 全然違うでしょ~?(笑) 白川さんの方がもっと優しい顔してるよ(笑)西島さんにも似てないけど(笑)」
「料理作ってるからそう見えるのかしら??」
だったらシロさん役の西島さんにならない?(笑)
「ほんと素敵ねぇ(笑) お父さんと全然違うわ!(笑)」
スマホの白川さんをまだニヤニヤしながら見てる
「仕事も凄くできるしね!でもほら、会社ではあの硬い見た目で全然笑わない(笑) 私語も話さないし恐がられてる(笑) ふふふっ!」
「私語も話さない人とどうして “恋仲” になったの?」
あ、まぁそうだよね(笑)
たまたま電車で偶然会って一緒にショッピングに付き合ったことから始まって次に食事に誘われたこと、流星群を見に行ったことを話した
まるで恋愛ドラマを見ているようにニヤニヤしながら黙って聞いていた母がまたスマホの画像を見た
「へぇ~ロマンチストなのねぇ♡ 素敵♡」
「でしょ!…というか、私の旦那さまになる人なんだからね(笑)」
「私の息子になるのよねぇ(笑) わかってるわよぉ(笑)」
息子って!(笑)
お母さんと白川さんは2歳しか変わらないから“息子”という言葉の違和感が凄い
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